◎小児期の危機 ◎小児期のうつ病 ◎いじめと不登校 ◎自閉症について ◎多動児について ◎小児期の危機
乳児期(0〜1歳)から幼児期(1〜6歳)を経て学童期(6〜12歳)までを小児期といいます。 乳児期には母親との間に情緒的な関係がつくられ、基本的信頼感が確立されます。母親との交流を通じて、愛情欲求、依存欲求を満たしていく時期として重要な発達段階といえます。乳児期にみられる心身症的症状にはミルク嫌い、嘔吐、下痢などがあります。 満1歳で乳幼児期がおわると、幼児期が始まります。この時期には歩行能力、言語応力が発達し、離乳が始まることにより、自律性がやしなわれることになります。さらに、トイレのトレーニングがなされ、自力で排便、排尿することができるようになります。この時期に自我が発達し、親のしつけが始まり、一層の自律感の発達を促すことが期待されます。親のしつけが厳しすぎたりすると劣等感、嫌悪感、欲求不満として体験されることになります。弟や妹ができると嫉妬心を抱くこともあります。3〜6歳になると両親と子供との関係のなかで愛情や敵意を体験しながら、一体感を強め、両親の愛情を深めることができます。親からの愛情が欠乏している場合には思春期以後の将来において様々な問題行動や葛藤として体験されることがあります。 幼児期にみられる心身症的症状にはミルク嫌い、腹痛、嘔吐、下痢、つめかじり、指しゃぶり、チック、夜驚症、どもり、おねしょなどがあげられます。 6〜12歳までの学童期には、学校での集団生活を体験することにより、親離れがすすみ、生活の行動範囲が広くなります。いろんな考え方や価値観をもつことができ、様々な性格が基礎づけられます。親、兄弟、友人、先生から正当な愛情を受けていると、他の人に対しても愛情を与えることができるようになります。周囲から十分な愛情が得られていない場合は劣等感を抱いたり、いじめられたり、不登校に陥ったりします。また、親から自立することに不安や葛藤が生じるとストレスとして働き、学業や友人関係に障害をきたします。さらに、学校生活での友人関係や勉学が負担となり、朝、学校に行こうとすると頭痛や腹痛がおこり、自宅に引きこもることがあります。その他、学童期には気管支喘息の悪化、過換気症候群、めまい、食欲不振、アトピー性皮膚炎などがおこりえます。 治療的には、身体症状に対する管理は必須です。さらに、親子ともに心身症の病態を理解し、治療者と共同して病気を克服していくという親子の積極的な態度を伸ばしていくための心理的な働きかけが重要です。 ◎小児期のうつ病
小児期の精神状態は年齢によってめまぐるしく変化するため、子供がうつ病にかかっているのかを判断することは大変難しいことです。家庭的環境に問題がある時や、学校での対人関係や学業のことで悩んでいる時に、うつ状態が一時的に出現することが成人と同様に小児期でもあります。 小児期のうつ病は、自覚症状が乏しく、うつ気分が正確に表現されず、孤独感や不安感が前景に現れます。いじめられ、不登校、多動、非行あるいは心身症的な訴えがうつ病症状として現れる場合、小児期のうつ病は見のがされる可能性があります。 子供を育てる親や身の回りの世話をする人からの愛情を失ったり、注意してくれる人がいなくなるとうつ状態が誘発されます。親が病弱であったり、忙しくて愛情がかけられなかったり、留守がちである場合や愛情をかけてくれる人がなくなった場合に起こりやすくなります。仮に世話をしてくれる親が存在しても、精神的に不在ということもあります。両親の価値観が異なっていたり、精神的に愛情に飢えていたり、欲求不満として受けとめられます。養育者から叱られたり、けなされたり、拒否されたりすること、グループでの孤立、友達とのトラブル、テストの失敗、新学期になる時、家族の者の入院、家族からの離別なども小児期のうつ病の重要な原因となりえます。 小児期のうつ病の多くはかかりやすい体質とその時の環境的ストレスの相互関係によっておこります。躁うつ病を家族にもつ場合には、遺伝要因が考えられます。また、慢性の身体の病気で親が長期間入院している場合や子供本人が慢性病で長期間入院を余儀なくされている場合はうつ病にかかりやすいといわれています。 治療的に重要なことは未治療のままであると青年期や成人になってからも同様な状態を引きずっていたり、別の問題が起こったりします。子供のうつ病の治療には親のカウンセリングや家族療法が行われます。家族に対して病気に対する知識や精神的な援助を与えることにより、子供の病気の治療を促します。通常、8歳を過ぎると、子供も家族療法に参加させます。もう少し、年長になると個人的な治療が有効となります。子供の考え方や行動を正しく観察すると、根底に隠れているうつ気分、無力感や絶望感を明らかにすることができます。 ◎いじめと不登校 文部省の調査によると、1995年の全国の公立の小・中・高校などで起きた「いじめ」が6万件を上回っています。年々増加傾向にあります。学校別の割合は、小学校が34%、中学校は58%、高校では40%でした。いじめの内容は、小学校が「冷やかし・からかい」「仲間外れ」が全体の半数を占め、中学校は「冷やかし・からかい」「言葉での脅し」、高校では「暴力」がトップとなっております。いじめと関連する「校内暴力」の発生件数は中学・高校で増加しています。いじめを主因とした自殺者は6人で、このうち5人が中学生です。1995年より文部省が本格的にいじめ対策に力をいれていますが、増加傾向に歯止めがかかっていません。 また、不登校で30日以上、小・中学校を休んだ子供が約8万2千人になり、毎年、過去最高を更新し続けています。文部省の分析では、不登校の理由は、いじめを含む学校生活に起因するものが約4割、不安や緊張など本人の問題が約3割、家庭的な問題が約2割とされています。ほぼ半数の不登校の子供達が学校以外で学習指導や相談を受けているようです。いじめ・不登校の子供達をいかに援助いていくかは学校側および我々、大人達の緊急の課題といえます。 不登校に関しては、その発症の原因はさまざまであり、個々に事例にあった対応法が必要となってきます。不登校の際には不安の身体表現として、さまざまの身体症状があらわれます。身体症状や不安症状が著しい場合には、身体の検査を行ったり、薬物を投与することがよい治療関係を結ぶきっかけとなることがあります。いじめや不登校に関わる際に重要なことは、 @子供の不安や悩みを共に考える。 A不安感、焦り、抑うつ気分が強いときは、軽い抗不安薬が有効なこともある。 B学校へ行くことを強制しない。 Cいじめがあったら解決するまで根気よく学校側と相談すること。 D大人が子供に生命の大切さや生きることの大切さを自らの体験を通して伝える。 E日頃から、子供と一緒に遊んだり、ゆっくり話を聞く時間をもつ。 F子供たちを優しさで包み込み、ゆったりとしたやすらぎの場所、くつろげる家庭や社会環境が作れるよう努力をする。 G自我が発達するのを目標として、未熟な一面がいかに成熟していくかを見守る態度が必要とされる。などがあげられます。 ◎自閉症について
自閉症は生後まもなくから3歳未満に発病するとされています。原因は不明ですが何らかの脳機能の障害にもとづく認知障害が基礎にあるのではないかと推測されています。 周囲に関心がなく、楽しさ、興味を示さず、自閉的で孤立するようになります。例えば、興味のあるものを人に見せる、持ってくる、指さすことをしないなどの特徴があります。 言語を全く発しないか、言葉の発達の遅れ、独語、同じ言語をくりかえす、イントネーションの平坦化といった独特な言語障害が認められます。そのため変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性をもった物まね遊びができないことがあります。 一定のものに執着するといった同じことや物に強迫的にこだわる傾向がみられます。特定の習慣や儀式にこだわりを示したり、反復的な動作を繰り返します。例えば、手や指をパタパタさせたり曲げたり、奇妙で複雑な全身の動きを示します。おもちゃを同じやり方で繰り返し並べたり、人の動作を真似したりします。また、毎日正確に同じ道をたどって目的地に行き来することがあります。 自閉症児も年齢とともに成長過程で現実社会での適応がうまくいかず、自己への葛藤が生じ、学童期の後半には、様々な心身症、神経症症状が認められるようになります。心身症としては、チック、抜毛、脱毛、消化性潰瘍など、神経症としては恐怖症、強迫症状、不登校などがみられます。 自閉症の過去の追跡調査によると、自閉症児の7〜8割が青年期以降も経過が好ましくないといわれていました。しかし近年、自閉症児への早期教育の取り組みが行われることにより、結果はかなりの改善がみられています。就職可能例は徐々に増加傾向にあり2割程度に至っています。 母子分離が必要となる青年期になると自閉症児はさらに周囲とのギャップを感じ、情緒的にも不安定となります。青年期での身体の急速な発達とともに、衝動性や本能的な欲求が高まり、日常生活に適応する上で、不安を克服することが困難となり、行動異常に至ることもあります。青年期での心理的な母子分離が達成できるかどうかが重要な課題になるようです。 心理的母子分離の問題は既に幼児期に存在しているといわれます。人の精神発達の基本には母子相互の情緒的なつながりが深く関与していることはいうまでもありません。このことは自閉症児への心理的援助を考える際に、非常に大切なことです。乳幼児からの母子関係を再度体験していくという発達過程をたどりながら、母子分離を達成し、自立ができるように援助していく必要があります。 自閉症児に対して、乳幼児早期からの母子への適切な治療的介入と早期教育の取り組みが大変重要であり、経過の改善につながるものと考えられます。 その際に、治療者が自閉症児との間に人や状況についての良好な関係を確立することがなによりも大切です。そのためには、身体的接触を密にするとともに、その子の発達段階に応じた働きかけが必要です。
◎多動児について
多動児は、注意散漫、多動、衝動性などの症状があるため、じっと落ち着いて集中することができず、授業中も終始、動き回ります。そのために家庭、学校、職場などで適応がしにくい特徴があります。原因は中枢神経系の微細な脳障害や脳機能不全が推測されています。これまでに微細脳機能症候群、注意欠陥障害、多動性障害などと呼ばれたりしています。2〜3歳から7歳未満に明らかになり、思春期、青年期、成人に達しても注意障害が残ったり、社会適応が困難になってくることがあります。 注意散漫は、学業、仕事、その他の活動に対して注意することができず、不注意な過ちをおかす傾向があります。例えば、宿題や遊びなどに注意を持続することや順序立てることが困難となります。持続を要する課題に対し、避けたり、嫌ったり、イヤイヤ行うことが多くなります。直接、話しかけられた時にも聞いていないように見えます。指示にも従えないことがあります。おもちゃ、宿題、鉛筆、本、道具などをよくなくしたりします。外からの刺激により、容易に注意がそらされ、毎日の活動を忘れたりします。 多動については、手足をソワソワと動かし、椅子の上でモジモジします。教室などでじっと座っていることを求められてもすぐに席を離れてしまいます。必要以上に余計に走り回ったり、高い所へ上ったりします。静かに遊んだり、グループ活動に参加することができないこともあります。じっとしていられなく、まるでエンジンで動かされるように行動したり、しゃべりすぎるなどの特徴がみられます。 衝動性は、質問された時、出し抜けに答えてしまったり、順番を待つことができず、ゲームや会話の邪魔したり、妨害するなどがみられます。 これらの症状は少なくとも6か月以上持続し、その程度は発達水準にそぐわない適応の障害がみられます。 多動児の治療としては、薬物療法、精神療法、行動療法、箱庭療法、カウンセリングなどが行われます。欧米諸国で最もよく用いられる薬は中枢刺激剤であるメチルフェニデートです。多動、落ち着きのなさ、衝動性、行動異常に効果があるといわれています。副作用としては、不眠、興奮、食欲不振、吐き気や胃腸症状などがあるため、休薬期間を設けるなど慎重な投与が必要です。その他、抗うつ剤や精神安定剤が用いられます。 多動児がもつ症状は対人関係、家庭環境、学校や社会での関係と密接な関係があります。両親、担任教師や周囲の者との間に協力関係を築くことは治療の要となり、心理面からのアプローチが重要な要素となりそうです。