心身症


◎ストレスと身体

◎ストレスから生じる病気

◎心身症と漢方薬

◎自律神経失調症について

◎月経前緊張症候群について

◎慢性疲労症候群について

◎頭痛

◎過敏性腸症候群について

◎過換気症候群

◎ストレスと消化性潰瘍


◎ストレスと糖尿病

◎ストレスと甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

◎高血圧とストレス

◎ストレスとコレステロール

◎ストレスと脳動脈硬化

◎A型行動パターンと虚血性心疾患

◎ストレスと気管支喘息

◎心臓神経症について

◎ストレスとアルコール

◎ストレスとアトピー性皮膚炎




◎ストレスと身体


  現代は多くの人がストレス社会の中で生活しているため、くつろいでいても心地よい季節になっても、よく眠れない、身体のあちこちが調子悪い、食欲がわかない、身体がだるい、心臓がドキドキしたり、呼吸がえらくなる、急に汗がでるなどの身体症状が起こることが少なくありません。ストレスや性格因子が関与して身体症状がでたり、悪化するような身体疾患があります。身近な病気として胃潰瘍や高血圧があげられます。例えば、著しい興奮状態におちいり、急激に血圧が上昇して、脳卒中を起こしたり、慢性的に続くストレス状態により神経性胃炎やストレス潰瘍をおこすことなどがあります。これらの身体症状の起こり方として以下のことが考えられています。

@不安、緊張、抑うつによる身体反応
 不安や緊張状態が続くと脳の神経核が過敏な状態となり、動悸、過呼吸などの自律神経症状が出現してきます。抑うつ状態になると疲労感、抵抗力の減弱、免疫力の低下がおこり身体病にかかりやすくなります。

A欲求不満による身体反応
 現実より高い水準を欲求することにより、不満や情緒不安定が生じ、身体症状が悪化したり遷延化したりします。自己中心的でヒステリー的な人に多いようです。

B心身の相互作用による身体反応
 ある症状に注意が集中しすぎると、その症状に敏感となり、ますます気になり、症状に気がとらわれて、本当に身体症状が出てきてしまう。

C行動習慣の異常による身体反応
 過食、アルコール多飲、喫煙が過剰になるなどの心因による行動習慣の異常が身体疾患の原因となることもあります。

D心理・社会的ストレスによる身体の不調 
 心理的な要因として、気がかり、悩み、不快、心配事が慢性的に続くような場合、身体的原因による疾患でも身体症状の慢性化や悪化をもたらす場合があります。また、社会的には生活基盤が固まり、地位が向上するに伴い役割や責任も重くなります。自己の能力や将来の可能性に限界を感じ、不安や焦り、葛藤などにおそわれます。もはや人生は水平ないしは下降線をたどっていると自覚したときに心身の不調をきたします。
 つまり、まず心身のストレスが大脳皮質に伝達され、その刺激は情動を営む大脳辺縁系や視床下部に伝わり、過剰なストレスが長時間繰り返された場合、自律神経系や内分泌系を経て身体の脆弱性が生じ、病気としてあらわれると考えられています。ストレスや不安や悩みを解きほぐすためには、専門家のカウンセリングを受けることが大切です。状態に応じて身体症状や精神症状に対する薬物治療の併用が必要です。






    ◎ストレスから生じる病気

  ストレスや性格因子が関係して身体症状がでてくる身体疾患を心身症といいます。心身症は子供から老人まであらゆる年齢層にみられることから、個々の年代のライフサイクルにおいて様々なストレスが心身症の原因や経過と密接な関係があるものと考えられます。通常の身体の病気でも、その経過に心理的な因子や性格因子が加わって症状が悪化したり、慢性化する多くの身体疾患があります。
  代表的な心身症の疾患としては高血圧、糖尿病、甲状腺疾患、消化性潰瘍、喘息、虚血性心疾患、心臓神経症、過敏性腸症候群、筋緊張性頭痛、過換気症候群、自律神経失調症などがあります。心身症というのは明らかに臓器に障害を起こすところがノイローゼと違うところです。身体のなかでもろい臓器があるとき、そこにストレスや緊張が強く、しかも持続しているときに諸臓器の障害が起こりやすくなります。たとえば、胃腸の弱い人は心理的ストレスが強く働き、それが長く続くと胃に故障が起きます。あるいは、気管支喘息の人に強いストレスが長く続いたとき、喘息発作が頻回にあらわれます。このような状況は現代社会において年々、増加傾向にあるように思われます。
  治療法として身体疾患の治療に準じる一方で、自律訓練法、筋弛緩法、行動療法、認知療法、交流分析、家族療法、森田療法、バイオフィードバック療法などが使用されます。
  精神療法においては、個々の年代に応じた発達段階での問題や危機の解決をするためにカウンセリングを受けることが重要と考えられます。 
  薬物療法として抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬などが使用されます。その他、症状や体質に応じて、自律神経調整薬や漢方薬が効果的です。漢方薬は安定剤と比較して副作用が少なく、不安、緊張、抑うつ、心気症状あるいは自律神経失調などの症状に対して使用されます。
  心身症は特殊な病気ではなく、日常でのありふれた生活上の出来事やストレス、たとえば、環境の変化、離別・死別体験、身体的健康が損なわれた時、自尊心の喪失や社会的役割の喪失が発端となり発症することが多いようです。従って心身症を予防するためには、自分の性格をみつめなおし、原因となるストレスを探し出すことが必要です。普段からゆとりのある生活を送るように心がけ、趣味にいそしむなど、上手にストレスを避ける気持ちを持つことが大切です。
 




◎心身症と漢方薬


 心身症の薬物療法の一つに漢方薬があります。患者さんたちのなかには向精神薬に対する副作用(眠気、ふらつき、口渇、便秘など)を心配されるかたが非常に多いと思われます。漢方薬は向精神薬に比較して副作用の発現が低く、長期投与によって徐々に効果を発揮することが多い特徴がみられます。漢方薬では向精神薬ほどの速効性はありませんが、向精神薬による効果があまり期待できない場合、漢方薬を併用することにより効果がみられることが多いようです。
 精神症状としての不安、抑うつ、緊張、意欲の低下、心気症状あるいは自律神経失調症、更年期障害などの身体症状に用いられる漢方薬として虚証的(体力がなく、虚弱である)な人には抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)[神経過敏、イライラ、不眠、神経症]、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)[イライラ、興奮、心気症]、加味帰脾湯(かみきひとう)[精神不安、不眠、神経症]、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)[貧血、冷え、頭重、めまい、疲れやすい、下腹痛]、桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)[イライラ、疲労感、不眠、神経衰弱、気分の落ち込み]、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)[うつ状態、神経症、不眠症、更年期障害]があります。
 中間証のタイプ(中等度の体力がある)には、加味逍遥散(かみしょうようさん)[頭重感、めまい、イライラ、気分の落ち込み、心気症]、抑肝散(よくかんさん)[あせり、イライラ、起こりっぽい、攻撃的傾向]、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)[喉・食道・胸のつかえ、気分のふさぎ、不安神経症、ヒステリー]、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)[神経症、めまい、動悸、息切れ]、香蘇散(こうそさん)[神経質で、頭痛、頭重感、めまい、耳なり、食欲不振]などが使用されます。
 実証的(体力がある)な人には柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)[心悸亢進、胸部不快感、イライラ、てんかん、ヒステリー、小児夜泣き症]、三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)[不安、不眠、のぼせ、イライラ]、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)[のぼせ、頭痛、めまい、肩こり]、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)[頭痛、めまい、のぼせ、肩こりなどの更年期症状]、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)[不穏、興奮、神経症、心悸亢進、入眠障害]があります。
 漢方薬は「証」にもとづいて処方がなされるため、確定診断が下されなくても有効であり、また、西洋医学的に検査をしてもこれといった異常が見つからないような不定愁訴症候群により効果を示すといえます。さらに、気(心と身体の両面を統制する働き)・血(血液)・水(血液以外の体液)の理論にもとづき、気と血と水がとどこおりなく循環していれば健康であり、不足したりとどこおったりすると病気になるという考え方があります。
 従って、それを補正することが治療の要であり、生体のバランスがとれ、病気をなおすことができると考えられています。これらのことと副作用が少ないことから漢方薬は西洋薬より優れていると考えられます。




◎自律神経失調症について


 自律神経失調症とは全身倦怠感、疲労感、頭痛、めまい、動悸、息切れ、胃部重感、腹部不快感、吐気、肩こり、汗を多量にかく、体のほてりや冷え、手足のしびれ感などの身体的不調を訴えるような不定愁訴症候群をいいます。内科的な諸検査をおこなっても異常が認められず、症状に見合うだけの明かな身体疾患がみあたらないにもかかわらず症状は訴え続けられます。交感・副交感神経がともに緊張したり、不安定になり、調節が障害されるために起こるといわれています。90%以上が心理的な原因によって発症することがわかっております。
 発症は思春期から中年にかけて好発し、男性より女性に多いようです。
 自律神経失調症は4つのタイプに分類されています。神経症型、心身症型、本態性自律神経失調症、抑うつ型があります。
 神経症型は、本質的な自律神経失調はなく、不安、恐怖、ヒステリー、心気的反応などの心理的な原因により、不定愁訴を示します。 心身症型は心理的な原因と自律神経失調の両方が相互に関係して、あらわれます。
 本態性自律神経失調症は心理的な原因はなく自律神経中枢の失調により発現し、狭義の自律神経失調症にあたります。
 抑うつ型は、うつ状態、うつ病、仮面うつ病などに伴ってみられる自律神経症状をいいます。
 自律神経症状を示しやすい鑑別するべき病気としてうつ病、ノイローゼ、パニック障害、更年期障害などがあるため治療上、注意が必要です。
 治療としては、心因的な関与が強いものに対しては、精神療法、カウンセリングとともに、抗不安薬や抗うつ薬が用いられます。自律神経失調に対しては、自律神経調整剤や漢方薬が使用されます。
漢方薬としては虚証タイプには桂枝加竜骨牡蠣湯(イライラ、疲労感、不眠、神経衰弱、気分の落ち込み)、柴胡桂枝乾姜湯(うつ状態、神経症、不眠症、更年期障害)、補中益気湯(食欲不振、全身倦怠感、病後の体力増強)、中間タイプには苓桂朮甘湯(神経症、めまい、動悸、息切れ)、加味逍遥散(頭重感、めまい、イライラ、気分の落ち込み、心気症)、半夏厚朴湯(喉・食道・胸のつかえ、気分のふさぎ、不安神経症、ヒステリー)、半夏白朮天麻湯(頭痛、めまい、肩こり、たちくらみ)、
実証タイプには柴胡加竜骨牡蠣湯(心悸亢進、胸部不快感、イライラ、てんかん、ヒステリー、小児夜泣き症)、女神散(のぼせ、めまいを伴う産前産後の神経症)などが使用されます。
 心身両面からの生活習慣として適度な運動やマッサージを行ったり、趣味にいそしんだり、音楽を聞いたり、環境をかえてみるなどの方法で心身のリラックスをはかることも大切です。心身のリラクゼーションを目的として自律訓練法も効果的です。




    
◎月経前緊張症候群について


 月経周期に一致して気分や行動が変化することは、一般に多くの女性が体験することと思われます。月経の始まる10日前ごろから始まり、月経が始まると急速に消えてしまうような精神身体症状を月経前緊張症候群とよばれます。頭痛、腹痛、腰痛、顔や足のむくみ、体重増加、乳房痛、嘔気、めまい、動悸、発汗など多彩な自律神経・身体症状が出現します。同時に神経も過敏になり、抑うつ気分、絶望感、不安、イライラ、怒りっぽい、不機嫌、疲労感、脱力感、集中困難、不眠、過眠、気力の減退、食欲、性欲の異常などの精神・行動症状がおこります。しかし、月経が開まるとともに軽快するのが特徴です。月経前に気分が変わりやすく、事故や自殺や犯罪が多発する傾向があります。本症の頻度は軽いものを含めると女性の約7割であるといわれています。
 本症の原因はホルモン説、心因説、アレルギー説があります。排卵周期の黄体期のみにみられることからホルモンが関係しているといえます。黄体期には一般に交感神経亢進状態にありますが、この時期にエストロゲンが少ないか、またはプロゲステロンが過剰に分泌すれば交感神経の緊張はさらに高くなり、自律神経失調状態が著しくなります。アレルギー患者は一般に自律神経が不安定な状態にあり、特に黄体期には自律神経失調症状がでやすくなるといわれています。また、感情的に不安定な人は自律神経も不安定となりやすくなります。
 治療としては感情の不安定な状態や自律神経症状を安定させるために、精神安定剤や自律神経調整剤が使用されます。
 漢方薬としては、虚証タイプには、当帰芍薬散(貧血、冷え、めまい、疲れやすい)、当帰建中湯(下腹痛、疲れやすい、月経痛)、中間証タイプには桂枝茯苓丸(頭痛、めまい、のぼせ、肩こりなどの更年期症状)、実証タイプには桃核承気湯(のぼせ、精神不安、下腹痛)などが有効です。子宮内膜症様症状(下腹痛、不正出血、不妊症)のある若い女性には、桂枝茯苓丸がよいといわれています。虚弱体質で当帰芍薬散を用いて効果がみられなければ、当帰建中湯に変更されます。通常、2〜3ヶ月服薬を継続して効果判定がなされます。
 これといった有効な予防法はありませんが、精神的な要素がかなりあると考えられます。日頃より、規則正しい生活をし、スポーツや趣味にいそそみ、コーヒー、タバコ、アルコールなどの刺激物はなるべくひかえるようにしたほうがよいと思われます。日頃の悩みを十分聞いてもらえるようにカウンセリングを受けることも重要です。





◎慢性疲労症候群について



 今まで元気に仕事や日常の生活をこなしてきた人が、ある日を境に、これまで経験したことがないような極端な慢性の全身倦怠感や疲労におそわれる病気を慢性疲労症候群といいます。普通の疲労は2〜3日休養を取れば回復するものですが、いくら休んでも疲労が消失せず、6カ月以上の期間持続あるいは再発を繰り返します。しかも、困ったことに、血液検査、尿検査、レントゲンなどの検査に異常がないことが特徴です。従って、自律神経失調症、更年期障害あるいはうつ病などと診断されることが多いようです。また、気のせいだとか、なまけている、気がゆるんでいる、さぼっているなどと片づけられることも少なくありません。
 慢性疲労症候群は、ある日突然に、ちょっとした動作でさえおっくうになるような著しい疲労を感じ、6カ月以上続き、微熱、リンパ節のはれ、筋力の低下、頭痛、関節痛、不眠などのいろいろな症状が出現します(表)。今のところ原因はわかっておらず、ウィルスの関与や免疫機能の低下あるいは代謝異常などが推測されています。
 慢性疲労症候群の約半数の症例でうつ病が認められるという報告や、過労やさまざまなストレスを抱えているときに発症しやすいなどの報告があり、ストレスと関連した病気であるという考え方もなされています。
 治療法は各科領域の立場から対症療法的に行われていますがこれといっった特効薬はみあたりません。精神科や心療内科領域からは、他科で原因不明とされた慢性疲労、全身倦怠、微熱、筋肉や関節の痛みなどをストレスと関連した病気として理解することが多く、抗うつ薬や抗不安薬や漢方薬などを用います。
 漢方薬としては小紫胡湯(胸や脇腹が重苦しい、吐き気)、四逆散(うつ状態が強い)、柴胡桂枝湯(頭痛、関節痛、のぼせがある)、加味逍遥散(神経症的訴えが強く、関節痛、冷え、のぼせがある)、補中益気湯(手足のだるさ、微熱、食後の眠気が強い)、十全大補湯(免疫力の低下があり、皮膚の乾燥や体力の消耗が著しい)などが用いられます。


*慢性疲労症候群診断基準
A.生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、
 下記の症状が少なくとも6カ月以上の期間持続あるいは
 再発を繰り返す。
B.症状
1.微熱(37.2〜38.3℃)あるいは悪寒
 2.のどの痛み
 3.首あるいはわきの下のリンパ節がはれる
 4.原因不明の筋力低下
 5.筋肉痛あるいは不快感
 6.軽い運動後に24時間以上続く全身倦怠感
7.頭痛
 8.移動性関節痛
 9.精神神経症状(いずれか1つ以上)
まぶしさ、視野の一部が暗くなる、物忘れ、興奮、昏迷(意志や行動の抑制)、思考力低下、集中力低下、うつ状態
10.眠れない、または眠りすぎ
11.自覚症状が出始めたころに、生活が著しく損なわれる強い
 疲労感が数時間から数日の間に現れる
C.身体所見(少なくとも1カ月以上の間隔を置いて2回以上)
1.微熱
2.咽頭炎
3.首あるいはわきの下のリンパ節の腫大 

*上記症状Bのうち8項目以上、または症状Bの6項目以上
 と身体所見Cの2項目以上を満たす場合に診断される。






◎頭痛   



 「頭が重く、ズキンズキンする」「頭や首筋がこる」などの訴えで外来を訪れる患者さんが少なくありません。頭痛の大部分を占めるのが緊張型頭痛と片頭痛です。
 緊張型頭痛は頭や首筋の筋肉がこり、圧迫感や頭の重い感じを主訴とします。筋の緊張をともなうような姿勢異常や心理的な緊張が原因して、筋の持続的な収縮により血管や神経を圧迫して循環が悪くなって起こるといわれます。この頭痛に対しては通常の鎮痛薬では効果がなく筋弛緩薬や筋弛緩作用のある抗不安薬を併用すると効果が高いといわれています。運動をすることにより筋肉をやわらげたり、入浴で十分に温めてマッサージすることも効果的です。
 片頭痛は血管性の頭痛で片側のことが多く、頭の中や頭皮の下の血管が拍動するたびに痛みます。吐き気をともない、ズキンズキンとした激しい痛みとして感じます。緊張型頭痛とは異なり入浴で頭痛が著しくなる特徴があります。片頭痛も通常の鎮痛薬では効果がなく第一選択薬として酒石酸エルゴタミン製剤が使用されます。早期に服用することにより発作の予防や頭痛の軽減が得られます。
 頭痛は不安、抑うつ、恐怖、怒り、長期の精神的緊張などの心理的ストレスあるいは身体的なストレスにより誘発されることが多いといわれています。また、空腹、温熱、日光、生理なども頭痛の要因となるようです。
 これらの頭痛は機能性頭痛といわれ、生命の危険は全くなく、放っておいてもおさまることが多いといわれています。しかし、明かな原因がある場合、その原因を取り除くことが必要です。いずれにしても気長になおしていくといった心がけが大切です。従って、安易に鎮痛薬を連用することは避けたほうがよいと思われます。
 仕事熱心で几帳面な生き方の人や日常のライフスタイルが問題となることがある場合は、持続した筋肉疲労に対して具体的な職場の環境調節を行い、さらに、患者の行動様式の変化を目的としたカウンセリングが必要になってきます。このような患者では以外とストレス因子や自分の感情への気づきができていないため、患者が心気的な訴えをする場合にはその内容を受け入れ傾聴してあげたり支持的な心理療法をおこなうことにより症状の軽減をみることがあります。
 頭痛患者の精神的な背景として、うつ病や心理的葛藤により身体症状が表現されている場合には、抗うつ薬や精神療法が必要になってきます。また患者の心と身体の相関への気づきとそれに対する適切な対処法を身につけることが重要です。そのためにリラクゼーションを目的とした運動療法、自律訓練法、筋弛緩法や生活指導などの組み合わせによってライフスタイルの改善をはかることが効果的です。





◎過敏性腸症候群について


 過敏性腸症候群は腸管の運動機能の高まりと知覚過敏により、下痢、腹痛、便秘、腹部膨満感などの消化器症状を中心に、さまざまな自律神経症状や精神症状がみられます。
本症は日常診療の中で比較的頻度が高く、消化器症状を訴える患者の約30〜50%程度です。年齢別には10〜30歳代に多く、老年層には少ないといわれています。性差は女性にやや多いようです。
 消化器症状としては便通異常が必発で下痢:便秘:交替=2:2:1です。便秘は痙攣(けいれん)性便秘といい固く、小さな、ポロポロした便が出ます。下痢を呈する場合は神経性下痢と呼ばれ、一日に数回の軟便〜水様便が生じます。また、便秘と下痢が交互に繰り返される場合もあります。便秘型は女性に、下痢型は男性に多いといわれています。腹痛の程度は鈍痛から腹部不快感まで様々です。
身体症状としては倦怠感、易疲労性、不眠、頭痛、頭重感、首や肩こり、筋肉痛、めまい、動悸、息苦しさ、胸部圧迫感などの自律神経症状を伴うことが多いようです。
 また、不安、緊張、抑うつ、イライラ、強迫症状、心気症状(病気へのとらわれが強い)などの精神症状が合併することもあります。
 病気の原因は腸管の自律神経の過敏という体質的な素因の他に、身体の疲労や薬物の影響、心理社会的なストレス状況、食事、排便などの不適切な生活習慣、神経症的な性格傾向が関与するといわれています。
 本症は、しばしば慢性化し、再発を繰り返すことがあり、そのような場合は心理社会的な因子が関与していることが多く、心身症としての対応が必要になります。
治療は、心身両面からのアプローチが必要です。生活指導、食事療法、心理療法、薬物療法を適宜組み合わせて実施します。
生活療法は過労を避け、十分な睡眠や休養をとり、気分転換や趣味にいそしむことや運動することがすすめられます。食事の摂取や排便習慣も規則正しく行うことが大切です。
 食事療法として腸管を刺激するような冷たいもの、アルコール、コーヒー、炭酸飲料などは避けるようにし、便秘型には繊維質の多い食品をとることが必要です。
 心理療法としてはまず、心身相関の立場から病気の発生メカニズムについて十分に説明し納得させることが大切です。心理社会的に問題のある患者に対しては、カウンセリングにより、患者の不安や悩みを受容的、共感的に理解し、問題点の解決を促します。必要に応じて、レラクゼーション、自律訓練法、ストレス対処法、行動療法、家族指導などを行います。
薬物療法は心身と腸管の過敏な状態を和らげるために抗不安薬や抗うつ薬とともに、腸運動調整薬、抗コリン薬(腸の運動を抑える)、整腸剤、緩下剤(便軟化薬)、漢方薬などの併用が効果的です。





◎過換気症候群


  本症候群は、なんらかの原因によって発作的に過呼吸が起き、結果として過換気発作、息苦しさ、呼吸困難、胸部不快感、吐き気、頭痛、めまい、四肢のしびれやこわばり、恐怖症状などの多彩な症状がみられます。自律神経失調症の部分症状やパニック障害の部分発作ともいわれる病気です。
発作の特徴は胸がしめつけられるような感じが起こり不安と恐怖が高まり、さらに、呼吸が早く、大きくなり、息がすえない感じが起こります。そのため、酸素は十分すぎるほど取り込まれますが、炭酸ガスは異常に失われて、血液はアルカリ性に傾いてしまいます。その結果、交感神経を刺激し、手足のしびれや全身のけいれんを起こし、もうろうとした感じから意識をなくしてしまうこともあります。
  発症は20歳前後の女性に多く男性の2〜3倍とされています。昨今、発症年齢の幅も広がっているようです。
  発症原因は、大部分の症例は心理的な因子によって起こるといわれます。また、性格的にヒステリー的な人が多く、不安や恐怖への対応が困難となり、その反応として呼吸が早くなり、本症候群へと発展することが多いようです。
身体的な原因としては、脳腫瘍、脳炎、高熱時、心臓疾患や呼吸器疾患などの部分症状あるいは合併症として起きることもありますが、一般的には精神的な原因による場合が多いものです。
  一旦、発作が出現すると、そのこと自体が不安や恐怖につながり、また、発作を繰り返すという悪循環が生じます。その悪循環をどこかで、なんらかの方法で断ち切る必要があります。
治療初期には、まず、病態を説得して安心させ、呼吸をゆっくりするように指導が大切です。紙袋やポリエチレン袋をふくらませて口に当て、自分のはいた炭酸ガスを再呼吸させる方法が一般的に行われます。また、発作時には抗不安薬(ジアゼパムの筋注・静注)を用いた方が効果的です。
  特にパニック発作を伴うような急性不安発作型の場合には、脳内の青斑核や化学受容体とよばれる部分の過敏な状態を抑える作用のあるアルプラゾアムやイミプラミンが有効と思われます。その他に抗うつ薬、交感神経βー遮断薬や漢方薬などが使用されます。
  心理療法としては、自律訓練法、行動療法、カウンセリングや精神療法の併用が必要です。特に外出恐怖の人には認知行動療法が有効であるとされています。




◎ストレスと消化性潰瘍


  コンピューターの会社に勤務する32歳の男性Aさんは仕事量が多く、昼休みは少なく、帰りも遅く、不眠不休の毎日が続いていました。その状態が6ヶ月以上続くうちに、腹部痛が出現するようになりました。近医を受診し、検査の結果、胃潰瘍と診断され、入院治療を受けました。退院後も以前と同様な勤務状態が続き、2年後にも、胃潰瘍の再発が起こりました。
  消化性潰瘍は心身症の代表としてあげられますが、いろいろな原因によっておこります。すなわち消化管ホルモン、消化管壁内の神経叢、自律神経系および精神活動などの機能の調整がうまくいかなくなり発症するといわれています。なかでも日常生活から生じる精神的ストレスがその発病の原因として、あるいは潰瘍の再発に大きく関与していると考えられています。
  精神的なストレスが重なると、それに伴って生活リズムが乱れ、食事が不規則となり、不摂生に陥り、体調がくずれやすくなります。その際、ストレスによる神経系を介した酸分泌が高まり、粘膜血流の低下などの局所的な因子の変化や、喫煙、飲酒、生活習慣などの変化による胃粘膜への影響が潰瘍の発現に大きく関与すると考えられています。さらに免疫機能の低下によってヘリコバクタ・ピロリという細菌感染の可能性も指摘されています。
  ストレスによる潰瘍の場合には、不安、緊張、不眠、抑うつ気分、倦怠感、頭痛、肩こり、微熱、発汗、じんましんなどの精神症状や自律神経症状などがよくみられます。
  潰瘍はなおりやすいが容易に再発を繰り返すという特徴があり、慢性の病気として対応していく必要があります。
  心身症としての潰瘍の治療と再発の予防には、まず抗潰瘍薬が使用されます。また、不安、不眠、抑うつが続く場合には、抗不安薬や抗うつ薬の併用により予防効果が期待されます。さらに、患者の生活習慣や社会的な環境の変化に注意する必要があります。患者を短期的にとらえるのではなく、長期的な予後を見通した治療を行うことが大切です。
  ストレスが大きいときは生活が不摂生に陥り、体調をくずしやすく、潰瘍が再発しやすいため、心身の安静と規則的な日常生活に近づける指導が必要になってきます。入院治療することにより、ストレスから開放され、心身の安静が保たれ、本来の自然治癒傾向が促進されることも考えられます。
  さらに生活指導にあたっては、食事、睡眠、喫煙、過労などに注意しますが、個々の実生活に即した日常生活のリズムある習慣化をめざした指導を行うことが重要です。
  その他、心身両面からの病気の説明、支持的な精神療法、自律訓練法、環境調整、漢方薬などの治療を取り入れることにより再発の予防にかなりの効果が得られます。




◎ストレスと糖尿病


  43歳の主婦Aさんは、5年前、健康診断で尿糖を指摘され、検査の結果、糖尿病と診断されました。最初は食事療法、経口糖尿病薬の服用でコントロールされていましたが、徐々に血糖値は不安定となり、3ヶ月前よりインスリン療法が始まりました。まもなく、不眠が出現し、身体がだるく、気力がなくなり、何をするにもおっくうに感じるようになりました。内科から精神科を紹介され、抑うつ状態と判断され、抗うつ薬の投与を受けました。2〜3週後より抑うつ気分がとれ、意欲が出てきて、その後の血糖値の安定化が見られるようになっています。
  糖尿病の発現やその後の経過の悪化に心理的なストレスが関係しているといわれています。人との離別・死別体験や病気をかかえた時に抑うつ状態になることがよくあるため注意が必要です。糖尿病患者では、うつ病の発病率は8.5〜27.3%と報告されており、一般人口における発病率の3〜4%をはるかに上回っています。療養生活に疲れて、経口糖尿病剤やインスリン注射を中断したり、過食することにより、血糖値のコントロールができなくなり合併症につながることが多いようです。将来への不安から、うつ状態に陥ることもあります。また、糖尿病を長期わずらっていることにより、動脈硬化があらわれ、脳内の血液の流れが悪くなり、精神症状が出現することも少なくありません。
  うつ病患者では脳内のセロトニンという神経の伝達物質の低下が病気の原因にあると考えられています。そのセロトニンの分泌が低下すると血糖値が高くなることが知られています。そのようなうつ病を併発した糖尿病の患者に対して脳内のセロトニン濃度を増加させるような抗うつ薬を用いることにより血糖値も低くなることが分かっており、糖尿病治療に応用する試みがなされています。
  心身医学的治療の基本は患者の生活習慣に問題がある場合にそれを共感的理解のもとでいかに修正していくかという努力を行うことにあると思われます。患者の心理状態を適切に把握した上で心身両面からのアプローチが必要となります。患者自身の病気の受けとめ方、患者のおかれている家庭および学校・職場での生活状況など多くの要因が病像に関係していることが考えられます。従って、糖尿病の治療にあたって治療者ー患者間の信頼関係を形成することは大変、重要なことといえます。



◎ストレスと甲状腺機能亢進症(バセドウ病)


  47歳の主婦Aさんは6ヶ月程前から動悸、汗を多量にかく、イライラ、手指のふるえなどの症状が現れ、近医を受診しました。最初は更年期障害を疑われ、抗不安薬と漢方薬の処方を受けていました。しかし、症状の軽減がみられないため、当病院の内科を訪れ、検査の結果、バセドウ病と診断されました。早速、抗甲状腺ホルモン剤の投与を受けましたが、焦り、不安感、落ち着きがないなどの精神症状が存在していたため、精神科を紹介されました。家庭的な悩みがあること、症状の経過や心理検査の結果から心身症としてのバセドウ病と考えられ、抗甲状腺剤の他に精神安定剤が処方され、カウンセリングを受けていました。家族的な問題について相談していくうちに上記の症状がとれ、その後、甲状腺機能も安定化し、元気な生活が送れるようになりました。
  バセドウ病の原因は、遺伝や免疫の異常が推測されていますが、心理的なストレスが関係しているという報告が多くなされています。
  本疾患は甲状腺腫、眼球突出、頻脈、発汗などの典型的な症状がある場合には、診断は比較的容易です。しかし、動悸、発汗、不安のみが症状の中心であることが多く、甲状腺腫がはっきり現れない場合にはパニック障害、自律神経失調症や更年期障害と区別がつけにくいことがあります。
  バセドウ病では不安、刺激過敏性、気分不安定、落ち着きがない、集中力の低下、活動的で多弁などの精神症状がみられます。これは甲状腺ホルモンの過剰分泌により代謝が亢進し、二次的にカテコラミンという神経伝達物質の作用が増強するために起こるのではないかと考えられています。また、約20%の患者は躁状態、うつ状態や妄想などの精神病的症状を示すといわれています。ちなみに、バセドウ病とは全く反対の状態である甲状腺機能低下症でも抑うつ状態や躁状態を呈することがしばしばあります。
  バセドウ病の治療としては、現在、抗甲状腺薬療法、手術、放射性ヨード療法があります。それ以外に、心身の安静や精神症状に対して抗不安薬、抗うつ薬や精神安定剤を併用します。また、原因や経過に心理的ストレスが関与している場合や自らストレスを作り出して心身に負担をかけている場合には、その環境調整、ストレス対処法や気づきを促すためのカウンセリングを実施します。さらに家族への指導などを通じて病者とうまく付き合って行けるようにすることも大切です。




◎高血圧とストレス


  自営業をしている57歳の男性Aさんは2年前から高血圧を指摘され、各種の降圧剤を投与されていました。しかし、仕事上のストレスが重なると175/110mmHg前後に血圧は上がり、頭重感、肩こり、食欲の減退、イライラ、眠れないなどの症状が続いていました。心理的な関与が推測され、内科から精神科に紹介されました。抗不安薬を併用し、悩みごとを聞き、日常生活の行動スタイルの改善、適度な運動、規則正しい食習慣のみなおしをしてもらうことにより、血圧も安定し、気分もよくなり、上記の症状の改善がみられました。
  ストレス、不安、緊張をかかえることにより血圧が上昇することはよく知られています。急激な心理的な刺激による一時的な血圧の上昇の繰り返しや不適切な環境下に長期間おかれた場合に、高血圧に発展するといわれています。つまりストレスや環境因子が関与して高血圧が発症するという考え方が一般的のようです。
  報告によると原因がはっきりしない高血圧の57%になんらかのストレスが関与していると指摘されています。その性格傾向として几帳面で粘り強く、活動的で、意志が強く、感情を抑える特徴があります。一方、外向的で、自発性、目標遂行性、共感性、順応性が高いなどの一面がみられます。
治療の基本は、食事指導、薬物療法および生活管理が大切です。
  食塩の制限、油っこいものや塩からいものはさける、コーヒーやタバコなどの刺激物はなるべく避けるようにする、夜8時以降の食事はしない、適切な運動をする、十分な睡眠をとるなどの生活指導が必要です。
  高血圧に対しては降圧剤以外に症状や状態に応じて、抗不安薬や抗うつ薬を使用することがあります。
  リラックスした状態で血圧が安定することを目的として筋弛緩法、自律訓練法、腹式呼吸法、ヨーガ、瞑想、音楽療法などが用いられます。
  血圧の上昇につながる心理的な原因を探るために、また、個々に合ったレラクゼーション法を見つけだすために専門医に相談しカウンセリングを受けることも大切です。





◎ストレスとコレステロール  


  47歳の男性Aさんは自動車部品の自営業をしており、大手企業との取引や値段の交渉で頭を悩ませていました。多忙な仕事量で残業は20時間/週ほどの日々が続いていました。このころより、間食、アルコール摂取量が増えていました。その頃、会社で行われた健康診断で軽度の肝機能障害、20%程の肥満、270mg/dlの高コレステロール血症を指摘され、内科を受診しました。併せて心理的なストレスから不眠傾向が著しかったため精神科を紹介されました。
  ストレスにより体内のカテコラミンという物質が高まり、肝臓での脂質の合成、特にトリグリセリドの合成が促進されることが知られています。また、ストレスにより分泌するカテコラミンは動脈壁にコレステロールの沈着を高める作用もあるといわれています。
  仕事に熱中しすぎるとそのストレスによりアドレナリンやノルアドレナリン分泌が促進され、脳内のホルモンの分泌を増加させ、それによってトリグリセリドの代謝物である遊離脂肪酸を上昇させることになります。遊離脂肪酸が増加するとコレステロールの合成が高まり、動脈硬化へと発展することになります。最近では、高トリグリセライド血症が動脈硬化の発症や進行の危険因子であるとの指摘がなされています。
  拒食症や甲状腺機能低下症の患者では高コレステロール血症の人が多く、甲状腺機能亢進症や肝硬変では低コレステロール血症が多いことが知られています。また、アルコールを長期に飲用している人はコレステロールが高くなりますが、肝障害をわずらうと低下するといわれています。このようにストレスと高コレステロール血症とは密接な関係があるようです。
  総コレステロールでは220mg/dl以上,トリグリセリドが150mg/dl以上が要注意で治療開始の目安となります。
  高脂血症の予防および治療において運動療法、食事療法、薬物療法、ストレ対処法が必須といえます。
  まず、運動療法は過度な運動は避け、散歩を中心とした持続できるような取り組みが必要です。食事療法では油っこいものは避ける、動物性より植物性のもの、肉類より魚などを摂取するよう心がけることが大切です。コレステロール値がかなり高く、食事療法、運動療法で改善が見られない場合は、抗高脂血症薬が必要となります。
  ストレス対処法としては心身のリラックスと統一を得るために自律訓練法、瞑想法、ヨーガなどが効果的です。





◎ストレスと脳動脈硬化      


 
  脳動脈硬化の原因として高コレステロール血症、糖尿病、高血圧、老化によるものなどが考えられています。いずれも血管の内膜が厚くなるために血液の流れが悪くなる現象がおこりえます。Aさんの場合も高血圧と糖尿病を長く患っていて、年齢的な体質の衰えもありました。さらに、心理的なストレスと引っ越しという環境の変化が重なり、脳動脈硬化の状態を悪化させたことが推測されます。血液の流れが悪くなり、意識のくもった現象が出現し、幻覚症状が出現したものと考えられます。
  総合病院では脳動脈硬化の悪化は、骨折のため入院した時、外科的手術を行った後、内科に入院した時など身体の状態の変化や悪化あるいは入院そのものによる環境の変化や心理的な変化によっておこることがしばしばあります。この場合、痴呆症や精神病と区別がつかないことが多々あります。精神症状として、変なものがみえる、聞こえる、自分の悪口を言っている、誰かに自分の持ち物をとられた、不安を訴え徘徊するなどといった症状が出現することがあります。これは脳動脈硬化性の痴呆症といって一時的に脳の血液の流れが悪くなっておこるものと考えられています。
  治療としては、一時的に抗精神病薬という精神安定剤を使用しますが長期投与は副作用の面から避けた方がよいと思われます。急性期の精神症状が落ち着きしだい、精神安定剤は減量していき、脳循環・代謝改善剤に変更していくといった方法がとられます。
  予防的には、まず成人病の予防と治療をしっかりしておくことです。また、老化防止のため、日頃から、規則正しい生活を送る、趣味にいそしむ、生きがいを持つ、適度な運動をする、食習慣に注意する、人に接することを心がけ孤独にならない工夫をしておくことなどが大切です。




◎A型行動パターンと虚血性心疾患 


  銀行員である51歳の男性Aさんは多忙な仕事に追われ、疲労が続いていました。5年前に高コレステロール血症を指摘されていましたが治療は受けていませんでした。元来、仕事一筋で、行動的で遅いことが嫌いな性格傾向がありました。タバコは30本/日、飲酒量も多くなりがちでした。ある日、突然に前胸部痛が出現し、救急外来を訪れました。精査の結果、狭心症と診断されました。
  A型行動パターン(タイプA)とは狭心症や心筋梗塞を代表とする虚血性心疾患の患者に多くみられやすい行動特性をいいます。また、タイプAに心臓病患者が多く、重症者が多いともいわれています。タイプAの特徴として「せっかちで、時間に追われており、仕事に精力的に打ち込む、強引に物事を運ぼうとする、競争心が旺盛である、イライラしたり、怒り、敵意をもちやすい」などがあげられます。また、日常生活上に過労やストレスを抱えやすい傾向があります。タイプAが虚血性心疾患を引き起こす機序として、ストレス環境下で、A型行動様式や不適切な生活習慣、高血圧、喫煙、高脂血症などが加わって冠動脈硬化が進行し、さらに何らかの引き金因子が加わると虚血性心疾患を発症させると考えられています。
  心理的なストレスは大脳皮質で感知され、自律神経や内分泌中枢に伝わり、交感神経を興奮させ、血中カテコラミン分泌の増加を生じ、血圧値上昇、心拍数増加などがおこります。このような状況下でタイプAが発揮されると冠動脈への負荷がより著しくなります。また、心身の疲労や消耗状態にある時には、自律神経や内分泌系機能を不安定にさせて冠動脈の硬化、冠動脈の痙攣や血栓形成などを起こし、虚血性心疾患が容易に誘発されると考えられます。
治療として重要なことは、タイプAを修正することと、虚血性心疾患を予防することにあります。患者の年齢、社会的な立場、価値観などを尊重しながら、患者の訴えや悩みをよく聞き、症状や不安がおこっている原因について、患者の性格、ライフスタイル、行動パターンにおける問題点を説明し、自己修正ができるように援助していきます。
  心疾患の発症の契機となりやすい準備因子、増悪因子、心身の疲労の蓄積状況、心理的ストレス、飲酒量などについて検討していく必要があります。また、仕事量をへらすこと、日常生活の速度をゆっくりすること、余暇の楽しむことなどと具体的に指示し、実行してもらい、ライフスタイルの修正をめざすことも重要です。
  日本人特有の職場で過剰適応する結果として生じる仕事集中的な傾向が強いタイプAに対しては、対応が難しく、個人に対するカウンセリングとともに社会への働きかけが必要であると考えられます。



◎ストレスと気管支喘息   


  24歳の主婦Aさんは2児の母親で育児、家事におわれ、多忙な日々が続いていました。夫の仕事が忙しく、夜遅く帰ってくることに対して不満と感じていました。将来について不安感が強く、不眠傾向が著しくなりました。その頃より、小児期に患っていた気管支喘息が何年かぶりに喘鳴をともなう呼吸困難の発作として再発しました。
喘息発作が様々な心理的な原因や葛藤状態が強くなった時期に一致して誘発されることはよく知られています。基本にアレルギー体質が存在していることはいうまでもありませんが、発作の誘因としてアレルギーの引き金となるアレルゲン(花粉、ほこり、ダニ、カビ類など)、呼吸器感染、大気汚染、ストレスなどがあげられます。
  喘息患者の30〜80%に、心理的な因子があるといわれています。人間関係、社会的役割、過労などから心理的なストレス、身体的負担がかかり、喘息発作の発症や悪化することが多いようです。精神的なストレスや肉体的なストレスは、自律神経系、免疫機能、内分泌系のホメオスターシスを乱し、発作を起こしやすくすると考えられています。
  自分の欲求や感情をおさえて周囲にあわせる傾向が強い、困難に出会っても自分一人で頑張り過ぎてしまう、几帳面で融通がきかず、自ら負担を背負いやすい、人間関係がうまくゆかず、周囲の人とトラブルとなりやすいなどの性格傾向がみられます。
  タイプとしては、神経症型(不安や強迫傾向が強い特徴をもつ)、性格心身症型(性格傾向や生育歴に問題があり、適応様式に問題があり、過剰適応してしまう)、現実心身症型(性格的な問題は少なく、日常生活上のストレスが多い)に分けられています。
  心身医学的な治療法として腹式呼吸、運動療法、気功、ヨーガ、温冷浴などがあります。心理療法として、生活指導、自律訓練法、行動療法、交流分析、カウンセリングなどがあげられます。また、家族療法を通じて、患者自身の心身相関への理解や気づきを促し、適切なストレス対処法をみつけだすなど自分にふさわしい適応様式の習得をめざして段階的に指導をすすめていきます。いずれにしても、医師と患者の信頼関係が基本的に存在しないと治療関係は成立しないと考えられます。





◎心臓神経症について


  タクシー運転手をしている27歳の男性Aさんは運転中に動悸、前胸部痛、呼吸促迫が起こり、急に不安発作が出現するようになりました。しだいに、不眠、抑うつ気分を訴えるようになりました。心電図、冠動脈造影に異常所見は認められませんでした。生活歴を聞くと複雑で、両親と10代の頃に死別し、24歳で結婚し、2児をもうけましたがまもなく、年上の既婚の女性と不倫関係になり、妻に知られてしまい、離婚する結果となりました。抗不安薬と抗うつ薬を使用して、大きな身体の発作症状は消失しましたが、離婚してしまったことを後悔する一方、不倫相手の女性との関係が断ち切れず、不安や抑うつ気分の改善はみられませんでした。
  このような症例は神経循環無力症、パニック障害や自律神経失調症と区別がつきにくいといわれています。神経症の場合はより心理的な要因が大きくかかわり出現すると考えられています。パニック障害と病像が重なっていることもあります。これらの病気に共通してみられる自覚症状は、循環器症状として、動悸、頻脈、前胸部痛、胸部不快感。呼吸器症状として、息切れ、過呼吸、窒息感、息苦しさ。自律神経症状として、めまい、ふるえ、しびれ、冷や汗、たちくらみ、身体のほてり、冷感。精神症状として不安、恐怖、抑うつ、不眠、イライラ、過敏、緊張などがあります。
  本患者の場合は、長い生活史の中で作り上げられた、性格特性や環境要因が根底に存在し、家族の死、離婚、浮気などが引き金となり、発病したものと考えられます。社会的に未熟な人に多く自己中心的で依存心が強い傾向があり、ヒステリータイプの人によくみられます。私生活での欲求不満に対する逃避行動として身体症状があらわれるものと推測されます。
  この患者に対しての治療は欲求不満や逃避行動の原因を探り、自己洞察ができるように様々な指導やカウンセリングが必要になってきます。悪い習慣の修正、ストレス対処法、趣味、気持ちのありかた、対人関係についてのアドバイス、環境調整や適応の方法、生きがい、人生観などについての生活指導が重要です。補助的に抗不安薬や抗うつ薬などの薬物治療が使用されます。特に身体の発作症状に対しては薬物治療が効果的です。


 


◎ストレスとアルコール
  

  自営業をしている57歳の男性Aさんは大手企業の下請け業社であるため、親会社から商品の値引きを余儀なくされていました。実働13〜15時間で多忙をきわめていました。赤字状態は長引いていますが、親から引きついた工場をつぶすわけにはいきません。全身倦怠感、イライラ、不眠の日々が続いていました。夜の飲酒量がしだいに多くなっていきました。飲酒する度ごとに家族に攻撃的な態度や暴力がみられるようになりました。家族が困り果て、思い切って精神科を訪れました。外来での診察および検査所見では軽度のGOT/GPTの上昇、心理テストで心身症としてのアルコール症が疑われました。
 大量飲酒がストレスを誘因として現れてくることはめずらしいことではありません。
今日のように総人口ストレス社会の中にあっては、気分転換の一つとして飲酒が行われますが、それも度が過ぎたり、習慣化すると、アルコール症に至ります。
大量飲酒により、肝障害、膵障害をおこし、内科や外科を受診する人も多くみられます。酩酊し、家族や社会に障害を負わせる場合や事故を引き起こすことも少なくありません。アルコール症にいたると、さまざまな精神神経症状、自律神経症状、行動異常、アルコール離脱症状が出現します。
治療法は何と言ってもやはり断酒とそれに伴う心理的な変化を期待するしか方法はないようです。心理的変化とは「自己洞察」であり、飲酒に因われている自分をありのままに素直にうけとめ、そこから抜け出すにはどうするべきかを自分自身でみつけだすことです。つまり自己の強い意志や決意がないとなかなか、その状態から抜け出せないのがアルコール症の特徴です。周囲のものが何度も飲酒をやめるように言っても、自分自身が一番飲酒をやめなければという自責感、負い目があるため、言えば言うほど、飲酒の問題を本人が認めなくなるといった現象もおこりえます。
 アルコール症は人間の成長過程の中で人生上の重大な出来事に出会った際によくありがちな、誰でもが陥る可能性のあるつまずきであると思われます。しかし、その状態から抜け出すためには本人の断酒への動機づけが必須です。断酒会への積極的な参加、アルコール症専門医に相談すること、家族に対する指導を行うなどの専門的な治療が必要です。
 薬物治療として、シアナマイドという嫌酒薬があります。飲酒量が少なくなることを目的として、あるいは断酒をする際の決意を固めるための補助的な手段として使用されます。






◎ストレスとアトピー性皮膚炎


  25歳の主婦Aさんは15歳頃より手足のかゆみ、発疹が出現するようになりました。アトピー性皮膚炎を指摘され、ステロイド軟膏の外用剤の治療を受けていました。しばらく症状は落ちついていましたが、遠方の大学に進学した以降より生活が不規則となり、体調も悪くなり、手足のかゆみ、顔面の発赤が現れました。軟膏、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を受けていましたがよくなったり、悪くなったりを繰り返していました。その後、結婚し、第1子出産後より、夫の転勤なども重なり、家事、育児が負担と感じるようになりました。その頃より、全身のかゆみ、顔面、首の発赤、発疹が悪化するようになりました。かゆみのため、イライラしたり眠れないことや不安、ゆううつな気分も出現するようになりました。軟膏、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬以外に抗不安薬、睡眠薬を使用したところ、順調に皮膚症状は軽快し、不安症状に対しても明らかな改善が認められました。
  アトピー性皮膚炎は通常、生後、数ヶ月に発病し、大半は思春期までに自然治癒するといわれています。近年、成人型のアトピー性皮膚炎が増加しつつあります。その背景に心理的なストレスの関与が指摘されています。準備因子として遺伝要因、性格、家庭環境があげられます。誘因として、生活環境(ほこり、ダニ、かび類など)、食事内容、環境の変化、心理・社会的ストレスがあります。
皮膚のかゆみによる不快感やイライラに加え、顔面、頚部などの皮膚の露出部に発疹が現れるため、一層、精神的に不安定になり、対人関係、社会生活を維持していく上で弊害となることも少なくありません。
 アトピー性皮膚炎になったことで家庭や職場でこれから先々、どうなるのかという不安を抱いたり、悲観的になることもあります。かゆみのため、夜よく眠れなくなり、不安がさらに増強することも多いようです。
 アトピー性皮膚炎が重症になると腎障害を起こしたり、眼科的な合併症を引き起こすことがあります。また再発し、ますます悪化するのではという不安を抱くこともあります。
ステロイド剤をいつまで使用しなければならないのか、副作用がでないかどうかといった処方された薬に対する不安を訴えることが多いようです。
このように、アトピー性皮膚炎の患者は心理的に多くの悩みや不安を抱えていることが多く、治療にあたっては心身両面からのアプローチが必要になってきます。
 日常の生活指導や心理療法を併用し、漫然とステロイド剤や抗不安薬を使用することのないようにすることが大切です。