◎中高年のストレス
近年、社会情勢の煩雑化とともに職場においても家庭においても何かとストレスを受けることが多く心身の不調を訴える患者の数が増加しています。特に中高年期の40歳〜65歳ごろの人たちは家庭では子どもがそろそろ自立し、職場では責任ある立場にあります。人生半ばの過渡期を迎え、第二の出発点とも言えます。この時期は体力的な衰えを自覚したり、社会的にストレスを受けやすく、非常に精神的に不安定になる時期でもあります。中高年期は医学的観点からみて成人病が起こりやすい年齢を迎えているだけでなく、社会的および心理的なストレスからうつ病、自殺の増加、アルコール依存や薬物依存、ノイローゼや心身症に陥る時期でもあります。どのような危機が中高年期にみられるかを具体的に述べてみます。
身体的には加齢に伴う体力の衰え、視力の低下、歯や骨が脆くなる、性欲の減退、成人病、女性では閉経に関連して更年期障害が起こります。
心理的には、記憶力や学習能力の低下傾向がみられます。従って、新しい知識や技術を学ぶことや新しい環境に適応することが困難になってきます。
社会的には役割や責任が重くなり、昇進、転勤、単身赴任、人事異動、役割・職種の変化に伴い、自分の能力に限界を感じたりします。また、定年退職、同僚の突然死、配偶者の死、成人病を体験した場合、体力の限界を感じたり、死を意識するようになります。
家庭的には、そろそろ子供が自立して親のもとを巣立って行くため、親としての役割が軽減し、親子の関係が希薄になってきます。それまで子育てに生きがいを感じ、すべてをかけてきた母親は子供の就職・独立・結婚を通して空虚感や喪失感を抱き、不安、ゆううつ、心身の不調をきたすことが少なくありません。また、この時期は親の死、別居や借金などを通して夫婦間で様々な葛藤が起こり、いろいろなトラブルが生じてきます。
中高年期の危機は思春期の危機に比べて、その対処の仕方に責任が重く、厳しいと思われます。それまでに身につけた個々の体験と知識で対処することになります。この時期をうまく乗り越えられた人、挫折した人、また、挫折しても再起して適応ができた人など、それぞれに応じて次なるライフサイクルである老年期の生活を左右すると考えられます。
対処方法としては各自の人生の発達段階に応じて何が自分のストレスの原因になっているかを知る必要があります。また、個別の危機に対し、柔軟な対応ができるよういろいろな生き方や価値観について日頃から検討しておくことが重要です。
◎仮面うつ病とは?
Aさん(46歳)は不動産会社に勤務していました。バブル経済の崩壊で、会社は赤字に陥ってしまいました。営業成績を何とかしなくてはという思いにかられて毎日頑張っていました。まもなく、不眠が生じ、疲労感、頭重感、動悸、めまい、吐き気が現れるようになりました。何となく気分がすっきりせず、内科で精密検査を受けましたがいずれも異常はないと言われました。精神科を訪れ、カウンセリングをうけ、悩みを聞いてもらい、また、抗うつ剤の内服により3ケ月後には上記の症状はすべて消失しました。
これが仮面うつ病の典型例です。仮面うつ病は、身体の症状が目立ち、精神症状に気づかれず、患者自身も身体の病気と考え精神科以外の一般診療科を訪れることが多いようです。すなわち、うつ病が身体症状という仮面をかぶっているために、本来のうつ病の姿が目立たない状態です。しかし、本体はうつ病です。過労、ノイローゼ、自律神経失調症、更年期障害、心身症などと診断され、適切な治療が行われないで、医者を転々と変えるといったドクタ−ショッピングをすることも少なくありません。性格として、几帳面、責任感が強い、まじめで仕事熱心、他人に気をつかうなどの特徴がみられます。
身体症状として倦怠感や疲労感がみられます。このだるさや疲れは休んでもなかなか回復しません。不眠の訴えも多く、寝つきが悪い、深夜早朝に目が覚める、熟睡できないなどがあります。また食欲がない、食事がおいしくない、体重が減少したということもあります。その他、肩こり、めまい、頭痛、動悸、息切れ、ため息が多いなどがみられます。
見逃されがちとなる精神症状として気分の落ち込み、意欲の低下があり、テレビや雑誌をみてもつまらない、趣味が楽しめないことがあります。また、不安や焦燥感があり、何となく落ち着かず、居ても立ってもいられないこともあります。症状には周期的に繰り返されることや日内変動がみられる特徴があります。
治療上大切なことは、できるだけ休養をとり抗うつ剤を中心とした薬物治療を受けることが治癒への早道と言えます。本文中の症例のように不眠を伴った場合は睡眠導入剤はためらわずに飲んだ方がよいと思われます。休養するという意味からも、また、抗うつ剤が効率よく効果を発揮してくれるためにも睡眠は十分に確保される必要があると考えられます。家族や友人や周囲の人たちは患者に対し負担となるような励ましや気晴らしのつもりの誘いかけはしないで下さい。また、気のせい、考えすぎ、気の持ちようだと簡単にすませず、この病気をより正確に理解し、温かく見守り、援助や協力をしてあげていただきたいと思います。
◎更年期障害・更年期うつ病
更年期の女性たちはそれまで考える間もなく忙しく追われてきた子育てが一段落し、子供がそろそろ独立し、やがて親のもとを巣だっていく頃にあたります。夫は会社中心の生活で、社会的な責任が重く多忙な時期を迎えています。かって愛の巣であった家庭は空っぽになって孤独感や虚無感に襲われます。この時期は肉体的にも精神的にも不安定な時期でもあります。こうした40歳から65歳頃の女性にみられるうつ病は更年期うつ病といわれます。また、そのような症状を空(から)の巣症候群と呼ばれています。
女性の更年期は「第二の思春期」と呼ばれ、これまでに気がつかなかったさまざまのことを余裕をもって考え、今後の半生の生きがいを考える大切な時期でもあります。老化していく自分をありのままに受け入れる一方で、母親として以外の自分自身の生き方をみいだすことはその後の生活を生きがいのあるものにしていくためにも重要な課題であると思われます。
更年期障害は卵巣機能の低下を中心とした狭義のもの以外に、心身症、神経症、うつ病がその中に含まれることが多く、心理的な原因によるものが半数以上を占めています。
更年期障害の45%は卵巣機能の衰退(身体型)によるものとされています。この治療はホルモン療法が有効とされています。
また、心身症や神経症のタイプは両者併せて更年期障害の45%を占めるといわれます。心身症型は環境に無理して適応しようとしたため精神的ストレスが生じ、身体に破綻を来たした自滅タイプの人が多いといわれます。 神経症型は几帳面や神経質などの性格的な原因によって環境にうまく適応できない人に多いようです。これらの治療には抗不安剤が使用されます。その他、自律訓練法、交流分析やバイオフィードバック療法が有効です。
更年期障害の10%はうつ病であるといわれます。うつ病型は生真面目で責任感が強い人がなりやすいといわれています。うつ病型は不眠、倦怠感、頭重感やその他の自律神経失調症状などを訴えることが多く、精神症状に気づかれず放っておいて病状が進むと自殺することがあります。治療においては抗うつ剤が中心となり劇的に改善することが多いようです。
更年期障害は単にホルモンを補充すれば症状が改善するというものではないようです。心理的な側面からカウンセリングを受けながら自分自身の役割について再検討し、次なる老年期を楽しく迎えるために自分の人生設計を再構築していくことも大切なことです。
以下の表のような症状があったら早めに精神神経科、または心療内科を受診して下さい。必ずよい結果につながります。
更年期に生じる身体・精神症状
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身体症状
・のぼせ感、ほてり、冷え、動悸、息切れ
・頭痛、頭重感、めまい、耳鳴り、目の疲れ
・腰痛、肩こり、背痛
・発汗、口の乾燥、皮膚乾燥
・頻尿、排尿痛
・吐き気、嘔吐、食欲不振、便秘、下痢
・乳房痛、むくみ、不正出血
精神神経症状
・疲労感、倦怠感、不眠、イライラ、ゆううつ
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