オペレッタDVDの推薦盤

<映像編>



オペレッタの真髄は、あくまで劇場で体感することにあります。
しかし、それほど舞台公演があるわけではありません。
映像ソフト(DVD,BS2放映物)で舞台芸術として視覚と聴覚の両面から楽しみましょう。
なお、関連するオペラ作品にも触れています。


* * なお、ユニテルのオペレッタ映画については、こちらへ * *

★★★ オペレッタを知るために先ず聴いていただきたい名盤です。
★★   三ツ星をマスターし守備範囲を広めたいなら聴いてください。
★    オペレッタ・フリークになってしまったら聴いてください。


J.シュトラウスU世「こうもり」(1874)
  演出:オットー・シェンク
  指揮:カルロス・クライバー、バイエルン国立管弦楽団、国立歌劇場合唱団

  アイゼンシュタイン:エーベルハルト・ヴェヒター(Br)
  ロザリンデ:パメラ・コバーン(S)
  アデーレ:ジャネット・ペリー(S)
  ファルケ:ヴォルフガング・ブレンデル(Br)
  オルロフスキー公爵:ブリギッテ・ファルベンダー(A)
  アルフレート:ヨーゼフ・ホプファーヴィーザー(T)
  刑務所長フランク:ベンノ・クシェ(Bs) etc.
  
Rec.1986.12 Live バイエルン国立歌劇場
  UM−グラモフォン POBG−1016(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
これは実に楽しい、文字通りの喜歌劇です。やっぱりオペレッタの名作であることを実感させられます。ひとえにオットー・シェンクの演出によります。しぐさ、舞台上の動き、そして音楽との連動、ひとつひとつが考え抜かれた、しかし極めて自然な流れで、笑いを誘っていきます。第二の貢献は、アイゼンシュタイン役のエーベルハルト・ヴェヒター。下記で触れる「ルクセンブルク伯爵」からは少なくとも15年以上は経過しているでしょう、かつての艶やかなダンディぶりから、下心を見せるもののちょっと間の抜けた中年紳士といった感じになっていて、このアイゼンシュタイン役としては、映像を伴うこのDVDでは、その名演ぶりが色を添えて、彼こそアイゼンシュタインだと思わせるだけのものになっています。CD盤のヘルマン・プライと優劣をつけるのではなく、まったく別個性のアイゼンシュタインと見るべきでしょう。オルロフスキー公爵については、クライバーのCD盤ではイヴァン・レブロフのファルセット・ボイスを用いて効果的な音空間を演出していましたが、この映像作品では、本来のアルトにやらせています。ブリギッテ・ファルベンダーは中性的な役柄を無難にこなしています。刑務所長フランク役のベンノ・クシェはCD盤でも同役をやっていましたが、これがまた、なかなかの名脇役ぶり。このDVDの高水準の仕上がりに貢献すること大と言えます。もちろんクライバーの指揮は、歌手たちに劣らぬ表情をオーケストラにつけていて、まさに渾然一体の舞台芸術となっています。残念なのは、日本語字幕。観客のウケからすると、かなりいろいろと愉快なやりとりをしているようですが、字幕からはほとんどうかがえません。そこがドイツ語がわからない者としては楽しみが半減するだけに、残念でなりません。

なお、ユニバーサル・ミュージックとユニテルとの契約切れで、この名盤は廃盤となってしまいましたが、かわってドリームライフからユニテル・オペレッタ映画シリーズのひとつ(映画ではなく舞台録画なのに、なぜこのシリーズに入っているのでしょう?)として入手できます。詳しくは、ユニテル・オペレッタ映画編をご覧ください。

また、これより14年前のユニテル映画でも、オットー・シェンク演出、エーベルハルト・ヴェヒターによるアイゼンシュタインの「こうもり」が楽しめます(カール・ベーム指揮、ウィーン・フィル)。詳しくは、ユニテル・オペレッタ映画編をご覧ください。

J.シュトラウスU世「こうもり」(1874)
  演出:オットー・シェンク、装置:ギュンター・シュナイダー=ジームセン
  衣装:ミレナ・カノネロ、振付:ゲルリンデ・ディル
  指揮:テオドール・グシュルバウアー、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団・バレエ団
  アイゼンシュタイン:ベルント・ヴァイクル
  ロザリンデ:ルチア・ポップ
  アデーレ:エディタ・グルベローヴァ
  ファルケ:ワルター・ベリー
  オルロフスキー公爵:ブリギッテ・ファスベンダー
  アルフレート:ヨーゼフ・ホプファーヴィーザー
  刑務所長フランク:エーリッヒ・クンツ
  フロッシュ:ヘルムート・ローナー
 etc.
  Rec.1980.12.31 Live ウィーン国立歌劇場
  TDK CORE TDBA−0089(国内盤) 画面サイズ4:3
★★
これもオットー・シェンク演出の「こうもり」。演出は、ベーム盤・クライバー盤と基本的にかわりありません。この盤の魅力は、豪華キャストとオーケストラの響きにあります。どこをとっても「こうもり」の最もオーソドックスな映像作品と言えるでしょう。グシュルバウアーの指揮も、十分に生き生きとしています。上のクライバーの棒が繰り広げるドライブ感にはかなわず、かつエーベルハルト・ヴェヒターが醸し出すとぼけた感じにも愛着があるので、個人的にはクライバー盤に軍配を上げますが。

アーノンクール指揮の秘密〜《こうもり》を振る〜
  演出:ユルゲン・フリム
  指揮:ニコラウス・アーノンクール、ウィーン交響楽団、ウィーン・シェーンベルク合唱団
  アイゼンシュタイン:ウォルフガング・ブレンデル
  ロザリンデ:シルヴァーナ・ダスマン
  ファルケ:オラフ・ベア
  オルロフスキー公爵:アグネス・バルツァ[ゲネプロ]、イードナ・プロチニック[ピアノ稽古]
  アルフレート:ヘルベルト・リッペルト
  刑務所長フランク:アントン・シャリンガー

  Rec.1999.5、ウィーン芸術週間 Live
  キングレコード KIBM−1029(国内盤) 画面サイズ16:9
★★★
1999年ウィーン芸術週間で行われたヨハン・シュトラウスの「こうもり」のリハーサル風景をとらえた88分のドキュメンタリー作品です。これは実に面白い映像です。「誤った味付けが行われることにより本来の姿ではないウソの表現がなされているのです。……ですから、これから、本来の作品についてしまった汚れを落としていきましょう」と言うように、アーノンクール自身の口から出てくる、ロベルト・シュトルツによって色塗られ伝統となった(慣用化した)「こうもり」の音楽をもう一度楽譜に書かれた音楽に戻す作業のようです。それはつまり、スコアに書かれている響き(実はアーノンクールの耳を通しての響きですが)をいかに再現し生かしていくかということのようです。これこそモノとしての楽譜を、生きた音楽へと再生していくことにほかなりません。アーノンクールの意図が伝わるや、音楽が確かに生きはじめ、歌手やオーケストラが実に楽しそうに演奏しはじめるのが、とてもよく伝わってくるのです。この舞台裏の「こうもり」を通して、「こうもり」の本質かくやと思わせるだけでも、アーノンクールの、そしてこのDVDのすごさがあるのです。

レハール「メリー・ウィドウ」(1905)
  演出:ジェローム・サヴァリー
  指揮:アルミン・ジョルダン、スイス・ロマンド管弦楽団、ジュネーヴ大劇場合唱団、バレエ団
  ハンナ・グラヴァリ:アンヌ・ホーウェル(S)
  ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ミカエル・エルビ(T)
  ヴァランシエンヌ:マリー・マックローリン(S)
  カミーユ:バリー・マックコレー(T) etc.
  Rec.1983.12 Live スイス・ジュネーヴ大劇場
  ドリームライフ DLVC−1056(国内盤) 画面サイズ4:3
★★
フランス語による上演。だからハンナではなくパリミエリと名が代わっていたり、マキシムの女たちの名前がそっくり替わっていたりします。舞台がパリだけに、雰囲気は出ています。ただ音としてのみで言えば、当然のことながら、やはりメロディにのりにくいところもあるようです。主役のハンナ、ダニロの2人とも悪くはないのだけれど、映像で容姿まで見ると、どうしても2人とも風格がなくて、ちょっと引いてしまいます。画質はやや不鮮明。また音も、ケースにはステレオと表記されていますが、左右分離はなく、モノラルです。それでもフリークならば、映像作品として絶対に落とせません。ジョルダンは、BS2で放映されたパリ・オペラ座公演(こちらは原語上演)でも指揮をしていました。そちらの演奏は、カリタ・マッティラとボー・スコウフスの名唱とあわせて、なかなかの名演でした。DVD化を強く望んでいます。

レハール「メリー・ウィドウ」(1905)
  
演出:ロトフィ・マンスーリ、振付:ローレンス・ペック
  指揮:エリック・カンゼル、サンフランシスコ歌劇場管弦楽団・合唱団・バレエ
  ハンナ・グラヴァリ:イヴォンヌ・ケニー
  ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ボー・スコウフス
  ヴァランシエンヌ:アンゲリカ・キルヒシュラーガー
  カミーユ:グレゴリー・トゥレイ
  ツェータ男爵:カルロ・ハルトマン
  ニエグシュ:エリヤ・チェスター etc.
  Rec.2001.12.8 Live サンフランシスコ、戦争記念歌劇場
  BBC OPUS ARTE OA 0837 D(輸入盤) 画面サイズ16:9
★★
この公演は英語上演です。また輸入盤のため字幕はスペイン語のみ。地の台詞の脚本は、ピュリッツァー賞受賞の劇作家ウェンディ・ワッサーステインによるそうです。台詞はともかくも、せめて歌が原語上演でないのが惜しまれる(やはりメロディと英語の響きとの間に、やや違和感があります)と思う程に、舞台としては、けばけばしくなく品のよいセットで、振り付けもまた過剰にならず、実に素敵なものに仕上がっています。イヴォンヌ・ケニーのハンナは、はじめ、ちょっと年を取りすぎているようにも思えますが、次第に主役としての存在感の前には年齢など気にならなくなっています。ボー・スコウフスの粋なダニロは、もちろん文句なし。アンゲリカ・キルヒシュラーガーのヴァランシエンヌはチャーミング。グレゴリー・トゥレイのカミーユも優男ぶりが適任です。ツェータ男爵(カルロ・ハルトマン)とニエグシュ(エリヤ・チェスター)のコンビのユーモラスな存在感も欠かせません。エリック・カンゼルの指揮は、シンシナティ・ポップスでの上質のエンターテイメントがここでも生きていて、練達の語り口で全体をまとめています。なお、第3幕冒頭、マキシムでのバレエが「オリジナルの再現」と帯の説明にありますが、「ルクセンブルク伯爵」のワルツのメロディが聴こえてくるので、どういう意味での「オリジナル」なのか、疑問が残ります。演奏自体は、これが原語上演なら、間違いなく三ツ星推薦でした……。

レハール「メリー・ウィドウ」(1905)
  
演出:ヘルムート・ローナー、振付:ジョルジョ・マディア
  指揮:フランツ・ヴェルザー=メスト、チューリヒ歌劇場管弦楽団&合唱団
  ハンナ・グラヴァリ:ダグマル・シェレンベルガー
  ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ロドニー・ギルフリー
  ヴァランシエンヌ:ウーテ・グフレラー
  カミーユ:ピョートル・ベチャーラ
  ツェータ男爵:ルードルフ・A・ハルトマン
  ニエグシュ:ヘルベルト・プリコパ etc.
  Rec.2004 Live チューリヒ歌劇場
  ART HAUS 100 451(輸入盤、日本語字幕あり) 画面サイズ16:9
★★★
フランツ・ヴェルザー=メストは、ハンナ・グラヴァリをフェリシティ・ロット、ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵をトーマス・ハンプソンで1993年7月のロイヤル・フェスティバルホールでのライブ盤(ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団&グライドポーン合唱団)をすでにCDで出しており(→堪能編)、これがなかなかの名盤でした。それから10年が過ぎて、今度は舞台公演の映像が出ました。映像による「メリー・ウィドウ」は、ジョルダン指揮のフランス語版、カンゼル指揮の英語版、そしてドイツ語版がメルビッシュ湖上での野外ライヴ(→ユニテル・オペレッタ映画編)として出ましたが、ヴェルザー=メスト盤でようやく、劇場におけるドイツ語上演としての映像の登場です。ヴェルザー=メストはもちろんのこと、歌手たちの粒ぞろいの名演は、文句なし。舞台ならではの遊びもあります。たとえば、女・女・女のマーチで有名な場面。普通はもう一度繰り返すところを、男性陣が下がると今度は女性陣が出てきて、男・男・男のマーチを繰り広げるなど。残念なのは、演出&舞台がやや平凡なこと。台詞に随所の遊びが用意されていても(台詞は基本的にメルビッシュ湖上ライヴのDVDと同じです。ということはウィーン・フォルクスオパーでのものを基にしているということだと思われます)、とりわけ第2幕から第3幕にかけての人の動かし方や細かな仕草、そして舞台セットに、それほど軽妙な工夫を感じることが出来ません。そのため、残念ながら舞台芸術としては、いまひとつ愉悦に欠けるというのも事実です。それでも十分三ツ星推薦に値する音楽的な質の高さはあります。

レハール「メリー・ウィドウ」(1905) 
  
演出:ジェローム・サヴァリー
  指揮:マンフレート・ホーネック、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団&合唱団
  ハンナ・グラヴァリ:ペトラ=マリア・シュニッツァー
  ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ボー・スコウフス
  ヴァランシエンヌ:リディア・トイシャー
  カミーユ:オリヴァー・リンゲルハーン
  ツェータ男爵:ギュンター・エメリヒ
  ニエグシュ:アーマッド・メスガラ etc.
  Rec.2007.12.21 Live ドレスデン、ゼンパーオーパー
  medici arts 2056818
(輸入盤、日本語字幕なし) 画面サイズ16:9
★★★
ドレスデン国立歌劇場での「メリー・ウィドウ」とは、また嬉しいDVDです。ボー・スコウフスの粋なダニロは、サンフランシスコ歌劇場でのものがすでにDVD化されていて、なかなか素敵な舞台に仕上がっていましたが、いかんせん英語上演ということで、メロディと英語の響きとの間に違和感を感じただけに、原語上演であり、かつドレスデン・シュターツオパーでの上演は、「待ってました」と言いたくなる映像です。

レハール「ルクセンブルク伯爵」(1909)
  演出:ミヒャエル・ショッテンベルク
  指揮:アルフレート・エシュヴェウィーン放送交響楽団、ウィーン・クランクボーゲン音楽祭合唱団
  ルクセンブルク伯爵ルネ:ボー・スコウフス
  アンジェル:ユリアーネ・バンゼ
  バジール侯爵:アンドレーアス・コンラート
  アルマン:ライナー・トロスト
  ジュリエット:ガブリエーレ・ボーネ
 etc.
  Rec.2005.7.16 Live アン・デア・ウィーン劇場[ウィーン・クランクボーゲン音楽祭2005]
  cpo 777194(輸入盤、日本語字幕なし) 画面サイズ4:3
★★★
ボー・スコウフスによるルクセンブルク伯爵の登場です。上に紹介したサンフランシスコ歌劇場での「メリー・ウィドウ」でも粋なダニロを楽しませてくれましたが、この「ルクセンブルク伯爵」でも、期待通りのルネを演じています。ユニテル映画版でのエーベルハルト・ヴェヒターこそ極めつけのルネと思いますが、それに肉薄する粋なルネを見ることが出来ます。初演の場でもあったアン・デア・ウィーン劇場での本公演は、回り舞台をうまく使って場面の転換をスムーズに連続させながら、中規模クラスの劇場の大きすぎないことを生かして、舞台いっぱいに繰り広げられる楽しい物語とレハール最高の音楽を楽しませてくれます。ボー・スコウフス以外の歌手もオケも指揮も、まったくもって上出来です。英・仏・独語の字幕のみで日本語字幕がないので、台詞部分のやり取りが把握できないこともありますが、舞台がそれをカバーするほどに巧みにかつわかりやすく展開していくので、特に困りはしません。当初はCD制作の予定が、「演出など視覚的な素晴らしさを考慮してDVD化」(NAXOSホームページ内のcpo解説による)とあるように、まさに本場での舞台公演としてのこのDVDの登場は、嬉しい限りです。

レハール「微笑みの国」(1929)
  
演出:ウィンフリート・パウエルンファイント、美術:ロルフ・ランゲンファス、振付:ギゼラ・ワルター
  指揮:ルドルフ・ビーブル、メルビッシュ祝祭管弦楽団・合唱団、中国湖南省舞踊団
  リーザ:イングリート・ハーベルマン(S)
  スー・チョン王子:サン・ホー・チョイ(T)
  チャン:田辺とおる(Br)
  ミー:三谷結子(S)
  グストル中尉:ディートマール・ケルシュバウム etc.
  Rec.2001.7.28 Statisterie der Seefestspiele Morbisch
  VIDEOLAND VLMD 007(輸入盤) 画面サイズ16:9
★★
メルビッシュ音楽祭2001年の公演。独語上演ですが、輸入盤のため字幕は一切ありません(日本語はもちろん英語字幕も)。NHK−BS2で放映された時は当然日本語字幕がついていましたが、さすがに台詞のやりとりは、字幕がないとつらいです。それでも筋を承知していれば十分ついていけるし、何より歌の部分の魅力は十全です。このメルビッシュ音楽祭では、本番の舞台公演に先立ってCD録音が先行発売されるのですが、そのCD録音時とこの本番DVDで、リーザ役がエリザベス・フレシュルからイングリート・ハーベルマンに変わっています。CD録音後にキャスト変更があったのか、それともダブル・キャストなのかは不明です。中国湖南省舞踊団が加わり、中国宮廷らしさを演出しているほか、スー・チョン、チャン、ミーに東洋人が起用されているのも、視覚的効果を狙ったと思われますが(チャン役の童顔とやや過剰な振りが気になるところ)、単なる視覚効果だけでなく、歌手としてもまずまず充実の歌唱です(スー・チョン王子役がちょっと弱いけど)。ただしルドルフ・ビーブルの音楽運びには、いま少しの生彩さが望まれます。

カールマン「チャールダーシュの女王」(1915)
  
演出:ヘルムート・ローナー、美術:ロルフ・ランゲンファス、振付:ジョルジオ・マディア
  指揮:ルドルフ・ビーブル、メルビッシュ祝祭管弦楽団・合唱団・バレエ団
  シルヴァ:ヴェラ・シューネンベルク(S)
  エトヴィン:フェルディナンド・フォン・ボスマール(T)
  ボーニ:マルクス・ウェルバ(T)
  スタージ伯爵令嬢:ケルスティン・グロトリアン(S)
  フェリ:フリジュシュ・ハルシャーニ(Br) etc.
  Rec.2002 Statisterie der Seefestspiele Morbisch
  VIDEOLAND VLMD 009(輸入盤) 画面サイズ16:9
★★★
メルビッシュ音楽祭2002年の公演。独語上演ですが、輸入盤のため字幕は一切ありません。このDVDでも、先行発売されたCDとでキャストが一部異なります。シルヴァ役がマルティナ・セラフィンからヴェラ・シューネンベルクに、ボーニ役がエードリアン・エロードからマルクス・ウェルバに変わっています。CD録音後にキャスト変更があったのか、それともダブル・キャストなのかは不明です。ところが、このボーニ役のマルクス・ウェルバが、歌でも芝居でも、実に秀逸なのです。そしてブダペスト・オペレッタ劇場でおなじみのフリジュシュ・ハルシャーニも好演。「チャールダーシュの女王」という作品は、主役のシルヴァとエトヴィン以上に、ボーニとフェリによって出来が左右されるといってもいいくらいに、重要な下支えを成す役柄なのですが、この2人の存在だけで、このDVDは三ツ星です。もちろん主役2人も、またハロルド・セラフィンとミルヤーナ・イーロシュの老夫婦コンビも、湖上のセットも振り付けも、カールマンの魅力を存分に伝えてくれます。ルドルフ・ビーブルの指揮は、このところのメルビッシュ音楽祭では、時に乗りが悪く感ずることもあるのですが、この時はこなれた指揮で満足させてくれます。

オッフェンバック「地獄のオルフェ(天国と地獄)」(1858)
  演出:ローラン・ペリー
  指揮:マルク・ミンコフスキ、リヨン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、グルノーブル室内管弦楽団
  神々の長ジュピテール:ローラン・ナウリ(Br)
  地獄の支配者プリュトン:ジャン=ポール・フシェクール(T)
  音楽教師オルフェ:ヤン・ブロン(T)
  妻ウリディス:ナタリー・デッセー(S)
  世論:マルティーヌ・オルメダ(A) etc.
  Rec.1997.12 リヨン国立歌劇場
  パイオニアLDC PIBC−2034(国内盤) 画面サイズ16:9
★★★
これまた実に楽しい、はちゃめちゃ喜歌劇です。CD盤(→深入編)でも、小気味よいどんちゃん騒ぎの雰囲気は手に取るように伝わってきましたが、そこで想像していた以上の舞台でした。たわいもない話ですが、地上から白で統一される天国へ、そして黒が基調となる地獄へと、ローラン・ペリーの演出はセンスの良い猥雑さを重ねに重ね、マルク・ミンコフスキの指揮はオッフェンバックのほとばしる才気を軽快な運びで十二分に伝えています。ナタリー・デッセーの超絶的名唱のみならず巧みな演技までもが目を耳を釘づけにし、彼女を取り囲む他の歌手たちも、歌に演技に舞台を席巻していきます。パントマイム風のしぐさや男性までが女性バレリーナと同じ格好で踊るところなど、いかにもフランス的な見所もいっぱいあります。究極は地獄に下りたジュピテールがハエ男に扮してウリディスにからんでいく場面。なんとも妖しい雰囲気が絶妙です。まさに、これぞオッフェンバック・ワールド! なお、キャストに一部異動があるので、ほとんど大差はありませんが、CD盤とDVD盤とは別録音と思われます。

オッフェンバック「美しきエレーヌ」(1864)
  演出:ローラン・ペリー
  指揮:マルク・ミンコフスキ、グルノーブル=ルーヴル宮音楽隊・合唱団
  エレーヌ:フェリシティ・ロット(S)
  パリス:ヤン・ブロン(T)
  メネラオス:ミシェル・セネシャル(T)
  アガメムノン:ローラン・ナウリ(Br)
  カルカス:フランソワ・ル・ルー(Bs) etc.
  Rec.2000.10 パリ・シャトレ座
  TDK CORE TDBA−0024(国内盤) 画面サイズ16:9
★★★
CD盤(→深入編)に続き、待望のDVDが発売されました。「地獄のオルフェ」同様、ローラン・ペリーの演出は、メイヤック&アレヴィとオッフェンバックのひねりの利いた作品を、さらにひねったもので、見てのお楽しみが随所にちりばめられています。倦怠期の妻が夢の中でかなえるアバンテュール願望という枠を設定し、その夢の中で、4000年前のギリシアの神々(歌手)が下世話な日常を繰り広げる一方で、ギリシアの古代遺跡を観光(すなわち非日常)する現代のツアー客(合唱団)を登場させ、その両者が舞台を錯綜するというのですから、……おっと、あとは見てのお楽しみでしたね。フェリシティ・ロットは、下に紹介する「ばらの騎士」では気品ある、そして切ないまでの伯爵夫人を演じていましたが、このエレーヌでは一転、見事な喜劇役者ぶりを発揮しています。なお、CD盤とDVD盤とでキャストに異動はありませんが、録音日がCDの方が9月から10月にかけてと幅があるので、全くの同一音源ではないのかもしれません。

オッフェンバック「パリの生活」(1866)
  演出:アラン・フランソン
  指揮:ジャン=イヴ・オソンス、リヨン国立歌劇場管弦楽団・合唱団
  ボビネ:ジャック・ヴェルジェ
  ギャルドゥフー:ジャン=フランソワ・シヴァディエ
  メテッラ:エレーヌ・ドゥラヴォ
  フリック:アラン・オシーヌ
  ガブリエル:イザベル・マザン
  ゴンドルマルク男爵:ジャン=イヴ・シャトゥレ
  ゴンドルマルク男爵夫人:クレール・ヴォティオン etc.
  Rec.1991 リヨン国立歌劇場
  ジェネオンエンターテイメント GNBC−2006(国内盤) 画面サイズ4:3
★★
「地獄のオルフェ」、「美しきエレーヌ」と、ギリシア物のパロディから一転、この「パリの生活」は、作曲当時のパリの世相(似非上流社会やお上り観光熱に浮かれる人々)を笑い飛ばす作品。この舞台は、初演時の5幕版で上演されています。また、メテッラ役以外に喜劇役者を起用しているのも、もともとオッフェンバック自身がオペラ歌手でなくとも歌えるように作曲したことをふまえてのことのようです。音楽としては、オッフェンバック作品の中でも第一級の出来であることを、あらためて実感しました。しかし、演出にはいささか不満が残ります(否定というのではありません)。ローラン・ペリー演出の「地獄のオルフェ」と「美しきエレーヌ」とを知ってしまった身としては、この優れた作品も、もっともっと生き生きと描けるはず、という思いがつのるのです。役者は魅力ある人々であるにも関わらず、彼らを生かせていないと思います。人々のからみをもっとコミカルにスリリングに描いてほしいですね。また場面展開において間延びするところもあり。これも楽しみきれない一因となっています。

オッフェンバック「青ひげ」(1866)
  演出:ヴァルター・フェルゼンシュタイン
  指揮・編曲:カール=フリッツ・フォイクトマン、ベルリン・コーミシェ・オーパー管弦楽団・合唱団
  青ひげ、騎士:ハンス・ノッカー(T)
  ダフニス:マンフレート・ホップ(T)
  フルーレット:イングリット・チェルニー(S)
  ブロット:アニー・シュレム(MS)
  ボベーシュ王:ヴェルナー・エンダース(T)
  クレマンティーヌ王妃:ルート・ショープ=リプカ(Ms) etc.
  Rec.1973 ベルリン
  ドリームライフ DLVC−1065(国内盤) 画面サイズ4:3
★★
1947年からベルリン・コーミシェ・オーパーの総監督となったヴァルター・フェルゼンシュタイン(1901-1975)は、ゲッツ・フリードリヒやハリー・クプファーといった演出家の師としても有名ですが、やはり彼自身の創出した演出自体を楽しみましょう。この「青ひげ」は、オッフェンバックの音楽の中ではそれほどすぐれているわけでもないのですが、彼ならではの、いささかひねりのきいた、そして人をくった展開が、さらにフェルゼンシュタインにより、一層戯画化され、おまけに最後に“オペレッタ”を逆手に取った、ちょっとした仕掛けも用意され(もちろん言う訳にはいきませんが)、なかなかやってくれています。登場する歌手たちも、一癖もふた癖もありそうなキャラクターを揃えていて、視覚的にも楽しめます。舞台作品ではなく、スタジオ映画作品です。画質はまあまあといったところ。モノラル音声です。


★★★
オッフェンバック「ホフマン物語」(1881)

こちらも、フェルゼンシュタイン演出作品(映画版、ドイツ語)です。画質にやや乱れがあり、モノラル音声ですが、そんなことが気にならないほど、楽しめます。映画版ならではの演出の創意も納得できますし、個性溢れる出演者たちも、実に魅力的です。
 指揮・編曲:カール=フリッツ・フォイクトマン、ベルリン・コーミシェ・オーパー管弦楽団・合唱団
 ホフマン:ハンス・ノッカー(T)、ニクラウス:シルヴィア・クジェムスキ(S)
 オランピア、アントニア、ジュリエッタ、ステッラ:メリッタ・ムセイ(S)
 コペリウス、ミラクル、ダペルトゥット:ルドルフ・アスムス(Br)
 アンドレアス、コシュニーユ、フランツ、ピティキナッチョ:ヴェルナー・エンダース(T) etc.
 Rec.1970 ベルリン
 ドリームライフ DLVC−1069(国内盤) 画面サイズ4:3




★★★
オッフェンバック「ホフマン物語」(1881)

カナダ出身のロバート・カーセン演出によるパリ・オペラ座(バスティーユ)の2002年公演は、舞台作品として演出・演奏者・映像いずれも最上級の出来です。すばらしい歌唱を聞かせつつも、見た目にやや貧相な感のあるニール・シコフは、しかしこのホフマン役では、もちろん歌唱に加えて見た目もまさにホフマン!当たり役に違いありません。4役こなすブリン・ターフェルの存在感、逆に1人で演ずることもあるオランピア、アントニア、ジュリエッタの各ヒロインを、ここでは別の歌手に演じさせるのも、それぞれ違う個性の表出とともに見事な歌で満足させられます。パリ・オペラ座に欠かせないミシェル・セネシャルも主要人物たちに比肩する彩を添えます(この人の極めつけは、同じTDKコアから発売されているマスネの「マノン」におけるギヨー役、この姑息にして悪辣ぶりは感動物です。まったく正反対にこれもTDKコアから出ているオッフェンバックの「美しきエレーヌ」でのメネラオス役もありますね。シリアスな役もコミカルな役もこなす性格俳優ならぬ性格歌手です)。そして何よりも演出に魅せられます。女性たちに「ドン・ジョバンニ」を意識させる関連づけがなされることで、女性を翻弄し果ては地獄に堕ちる“ドン・ジョバンニ”の対極として、女性に翻弄させられつつも最後はニクラウス(ミューズ)により救済される“ホフマン”という枠組みが示されています。なかでも第3幕(ジュリエッタ)は見物です……なので、どんな舞台かは秘しておきましょう。実はあの有名な「ホフマンの舟歌」の美しい音楽にもかかわらず、実際の公演で見た時には、これまでのところ、どうも弛緩というか雑然というか、釈然としなかったので、この舞台映像に“してやられたり”です。
 指揮:ヘスス・ロペス=コボス、パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団
 ホフマン:ニール・シコフ
 リンドルフ、コッペリウス、ミラクル博士、ダッペルトゥット:ブリン・ターフェル
 ミューズ、ニクラウス:スザンヌ・メンツァー
 アントニア:ルース・アン・スウェンソン
 ジュリエッタ:ベアトリス・ユリア=モンゾン
 アンドレ、コシュニーユ、フランツ、ピティキナッチョ:ミシェル・セネシャル
 ステッラ:バンビ・フロケ etc.
             Rec.2002.10 Live パリ・オペラ座(バスティーユ)
             TDKコア TDBA−0061(国内盤) 画面サイズ16:9
 

オッフェンバック「ペリコール」(1868)
  演出:ジェローム・サヴァリー
  指揮:マルク・スーストロ、スイス・ロマンド管弦楽団、ジュネーヴ大劇場合唱団
  ペリコール:マリア・ユーイング
  ピキーヨ:ニール・ローゼンシャイン
  総督ドン・アンドレス・デ・リベイラ:ガブリエル・パキエ
  ミゲル・ド・パナテリャス伯爵:リカルド・カシネリ
  ドン・ペドロ・ド・ヒノヨーサ:パオロ・マルティネリ etc.
  Rec.1982 Live スイス・ジュネーヴ大劇場
  ドリームライフ DLVC−1058(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
「カルメン」の原作者メリメの作品「秘蹟の四輪馬車」を、メイヤック&アレヴィが台本化した喜歌劇。18世紀ペルーのリマが舞台で、インディオ娘ペリコールとスペイン男ピキーヨの2人の恋に、ペリコールを狙う総督の横槍が入っての、てんやわんやが繰り広げられる喜歌劇です。ジェローム・サヴァリーの演出は、上の「メリー・ウィドウ」での演出に比べて、はるかに秀逸です。メルヘンチックな舞台セットがカラフルで、しかも人々の喧騒と狂乱が舞台いっぱいに繰り広げられ、南米の祝祭空間が見事に再現されてます。オッフェンバックの音楽も、この「ペリコール」の場合は、音楽だけで聴いても十分鑑賞に堪える水準となっています。ペリコール役のマリア・ユーイングは、正直言ってあまりアップにしてほしくはないけれども、不思議な雰囲気を醸し出していることは間違いありません。オッフェンバックの世界を見事に表出した作品であり、舞台であると言えるでしょう。なお、ケースにはステレオと表記されていますが、左右分離はなく、モノラルです。画質は「メリー・ウィドウ」ほど悪くはなく、まあまあといったところです。

オッフェンバック「盗賊」(1869)
  演出:ルイ・エルロ&アラン・マラトラ
  指揮:クレール・ジボー、リヨン歌劇場管弦楽団・合唱団
  ファルサカッパ:ミシェル・トランポン(Br)
  フィオレラ:ヴァレリー・シュヴァリエ(S)
  フラゴレット:コレット・アリヨ=リュガーズ(S)
  ピエトロ:リカルド・カシネッリ(T)
  カルマニョーラ:ガイ・フレッチャー(T)
  ドミノ:ジャン=ルイ・ムニエ(T)
  バルバヴァーノ:アントワーヌ・ガルサン(Bs)
  マントヴァ王子:ジャン=リュック・モレット(T) etc.
  Rec.1989 リヨン歌劇場
  ドリームライフ DLVC−1103(国内盤) 画面サイズ4:3

メイヤック&アレヴィによるオリジナル台本で、イタリアの山賊がスペイン王妃の金を横領しようとして繰り広げられる喜歌劇ですが、このリヨン歌劇場での演出は、舞台を1920代のシカゴ・ギャングに置き換えています。舞台としては、なかなか楽しめますが、たとえばシカゴ・ギャングの館の天井から本来の設定通りの登山姿のマントヴァ王子が落ちてくるというように、本来の台本とこの演出との間に齟齬があり、必ずしも成功した演出とは言えないと思います。音楽も、それほど優れてはいません。オッフェンバックに深入りするなら、ご覧ください。

ギルバート&サリヴァン「ミカド」(1885)
  演出・振付:ブライアン・マクドナルド
  指揮:ベルトルト・カリエール
  ミカド:ギドン・サクス(Br)
  ナンキプー:ヘンリー・イングラム(T)
  ココ:エリク・ドンキン(Br)
  ヤムヤム:マリー・バロン(S)
  ピッティ・シン:ケレン・ウッド(S)
  カティシャ:クリスティーナ・ジェームズ(Ms)
  プーバー:リチャード・マクミラン(Br)
  Rec.1982 カナダ・ストラトフォード
  ドリームライフ DVLC−1049(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
明治時代の横浜ゲーテ座でも数多く上演された(詳細は浅草オペラ前史をご覧下さい)ギルバート&サリヴァンのオペレッタの代表作です。副題が"Town of Titipu"となっており、日本の架空の町(秩父を想起するのは自然ですね)を舞台とした作品です。ということで、2001年に秩父で上演されたそうです(知らなかった……残念)。その公演については、楽々亭太丸さんのHP内の「『ミカド』in秩父」で報告があります。そこでは当DVDとの比較もなされています。また「ミカド」という作品については、猪瀬直樹の大宅壮一ノンフィクション賞受賞作『ミカドの肖像』(新潮文庫、上・下)が読み応えがあります。また、ミカドをめぐる考察のHPとして、ナンキプーさんのHPがお薦めです。さて肝心のこのDVDですが、かなりヘンです。でもあくまで架空の町の話なのですから、目くじらを立てるなんて無粋なことはやめて、そのヘンさも含めて思い切り笑い楽しめばいいのです。このヘンな世界そのものが、喜歌劇の真髄とも言えるのですから。実際、外国から見たフシギの国ニッポンの得体の知れないイメージを上手く表出していると思います。シンプルなセットをうまく使い、かなりよく出来た舞台に仕上がっていますし、歌手たちも、歌のみならずその演技も、見事なまでに個性的コメディアンになりきっていて、とにかく楽しめるのです。画質も良好。ただし音は、ケースにはステレオと表記されていますが、左右分離はなく、モノラルです。

*2003年3月、秩父市民オペラ版「ミカド」が、秩父と東京で再上演されました。オペレッタ鑑賞履歴のレポートをご覧ください。

以下は、いわゆるオペレッタではありませんが、関連付けるべき作品です。ぜひ守備範囲を広めてください。

R.シュトラウス「ばらの騎士」(1911)
  演出:オットー・シェンク
  指揮:カルロス・クライバー、ウィーン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
  元帥夫人:フェリシティ・ロット(S)
  レルヒェナウの男爵オックス:クルト・モル(Bs)
  オクタヴィアン:アンネ・ソフィー・フォン・オッター(Ms)
  ファニナル:ゴットフリート・ホーニク(Bs)
  ゾフィー:バーバラ・ボニー(S) etc.
  Rec.1994.3 Live ウィーン国立歌劇場
  UM−グラモフォン UCBG−1001/2(国内盤)2枚組 画面サイズ4:3
★★★
えっ、「ばらの騎士」って、オペレッタじゃないよ!! もちろん知っています。でも、ウィンナ・ワルツがふんだんに使われた「フーゴー・フォン・ホフマンスタールの台本による音楽のための3幕の喜劇」をどうして取り上げないでおれましょうか。オペラだろうとオペレッタだろうと、素敵な音楽劇は、みんな心を豊かにしてくれるのですから。もっともリヒャルト・シュトラウス自身は「20世紀のオッフェンバック」たらんとし、またヴェルディの「ファルスタッフ」を崇敬するとともに、同時代のオペレッタを「悪趣味」とし排除すべきと言っていたようですが(マイケル・H・ケイター『第三帝国と音楽家たち』および山田由美子『第三帝国のR.シュトラウス 音楽家の<喜劇的>闘争』による)。
「ばらの騎士」は私の最も愛すべきオペラ作品でもあります。ちなみに録音嫌いのクライバーですが、この「ばらの騎士」関しては、この1994年のウィーン国立歌劇場公演のほかに、1979年にバイエルン国立歌劇場とも同じオットー・シェンク演出(といっても全く同じなのではないそうですが)で映像作品として残しています。こちらは見ていないので比較できませんが、購入時には、歌手で選ぶか、オーケストラで選ぶか、という選択基準で、私は後者で選びました。でも、見てみて(聴いてみて)歌手たちにも大満足。フェリシティ・ロット演ずる元帥夫人の哀しみが見事に表出されています。その対比としてのアンネ・ソフィー・フォン・オッターとバーバラ・ボニーの若々しさ。「ばらの騎士」の命とも言える3人の女性歌手が等しく成功しています。さらにクルト・モルによる男爵の悪辣さが加わり、もう、このDVDで決まりです。


★★★
こちらの映像もお薦めです。
女性歌手たちの外見では、クライバー盤の方が断然上ですが、音楽的には遜色なし。カラヤンの演出は、さすがに音楽にぴったりと寄り添った動きを見せてくれます。なかでも第1幕で元帥夫人の部屋へいろいろな売込みがやってくる場面での、理髪師が元帥夫人の髪型をセットし直す仕草と音楽との重なりは、秀逸の極みです。
 演出&指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
 元帥夫人:アンナ・トモワ・シントウ(S)
 レルヒェナウの男爵オックス:クルト・モル(Bs)
 オクタヴィアン:アグネス・バルツァ(Ms)
 ファニナル:ゴットフリート・ホーニック(Bs)
 ゾフィー:ジャネット・ペリー(S) etc.
              Rec.1984 Live ザルツブルク祝祭大劇場
              Sony Records SIBC26/26(国内盤)2枚組 画面サイズ4:3


★★★
カラヤンの「ばらの騎士」をもう1枚。こちらは1960年のザルツブルク音楽祭で、新しく建設された祝祭大劇場のこけら落とし演目で、全6回公演のうちシュヴァルツコップが出演したのは8月6日の1回のみ(他公演はデラ・カーザで、CDは出ている)。ただしこのDVDは、音源は当日のもの(といっても、もともとのモノラル録音音源を後にステレオ処理化したものらしい)に、この時の公演記録ではなく後日、パウル・ツィンナー監督で映画映像として収録し直した映像をかぶせたというものです。映像の質はさすがにやや古めかしくなってしまいましたが、それでも十分鑑賞に堪えるカラー映像です。なによりも、シュヴァルツコップのビロードの美しさにも聞き惚れますが、映像で見るその凛とした気品もまた感動の極みです。
 演出:ルドルフ・ハルトマン、装置:テオ・オットー、衣装:エルニ・クニーペルト
 指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、
 ウィーン国立歌劇場合唱団・バレエ団
 元帥夫人:エリザーベト・シュヴァルツコップ(S)
 オクタヴィアン:セーナ・ユリナッチ(Ms)
 ゾフィー:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
 オックス男爵:オットー・エーデルマン(Bs)
 ファーニナル:エーリッヒ・クンツ(Br)
             歌手:ジュゼッペ・ザンピエーリ(T)
             Rec.1960.8 ザルツブルク祝祭大劇場
             ドリームライフ DLVC1183(国内盤) 画面サイズ4:3

シュヴァルツコップの元帥夫人は、1956年のステレオ録音CDでも聴くことができます。ARTリマスタリングで、聞きやすい音に甦っています。こちらのキャストも見事なものです。
 EMI CLASSICS 0946 3 77357 2 5(輸入盤)3枚組
 元帥夫人:エリーザベト・シュヴァルツコップ
 オクタヴィアン:クリスタ・ルートヴィヒ
 オックス男爵:オットー・エーデルマン
 ゾフィー:テレサ・シュティヒ=ランダル
 ファニナル:エバーハルト・ヴェヒター 他
 フィルハーモニア管弦楽団&合唱団




★★★
2007年9月に初来日したフランツ・ヴェルザー=メスト&チューリヒ歌劇場の来日記念盤。同じキャストによる映像です。スヴェン=エリック・ベヒトルフの演出は、いい意味での才気に満ちていて、とにかく楽しめる仕掛けがいっぱいです。第1幕に登場する歌手の登場の仕方も驚きでしたし、とりわけ第2幕を厨房に設定し、そこでばらの騎士や新郎を迎えるなど、いくら新興貴族であっても絶対にあり得ない、という疑問を吹き飛ばすくらいに、その仕掛けを楽しめてしまうのです。しかし楽しめる仕掛け演出以上に、このスヴェン=エリック・ベヒトルフ演出の特筆すべきは、元帥夫人を、毅然としたい気持ちとは裏腹に、思いを整理しきれずに苦しむ姿をはっきりと打ち出したことにあります。こうした元帥夫人ゆえに、通常は冒頭と最後での小姓のモハメッドの扱いに特色があります。それは見てのお楽しみ。元帥夫人の「切なさ」の表出としては一番の演出です。
 演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
 指揮:フランツ・ヴェルザー=メスト、チューリヒ歌劇場管弦楽団、合唱団
 元帥夫人:ニナ・シュテンメ
 オクタヴィアン:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
 ゾフィー:マリン・ハルテリウス
 オックス男爵:アルフレート・ムフ
 ファーニナル:ロルフ・ハウンシュタイン
 歌手:ボイコ・スヴェタノフ
 Rec.2004年Live チューリヒ歌劇場
           EMIミュージックジャパン TOBW3588(国内盤)2枚組 画面サイズ16:9


★★★
ロバート・カーセンの演出は、ザルツブルク祝祭大劇場の横に広い空間を、逆にうまく利用して、主となる空間の横に、通常であれば幕の奥の見えない空間をも現出させ、物語に奥行きを出しています。20世紀初頭を設定した舞台は、とりわけ第三幕を売春宿にし、かなり過激な演出処理と共に、この物語の猥雑な一面を浮かび上がらせています。ベッドシーンで始まるこのオペラを、ベッドシーンで終わらせるという首尾一貫もなるほどとうなづけますが、その背後に迫る武器を持った兵士たちの群像は、来たりくる第一次世界大戦を暗示しているのでしょう。最後にゾフィーが落としたハンカチを拾いに来る元帥夫人の小姓は、通常は子役が務めるはずなのですが、この舞台では成人男性が務めていましたが、彼もまたハンカチを拾うのではなく、銃を持って戦う仕草をしています。一夜の仮の喜劇のあとに待っているとめどもなく深い悲劇を想起すれば、その前に繰り広げられる売春宿の狂乱もまた、むなしくも騒ぎ狂うしかない人々の姿を映し出したとも言えるかもしれません。
 演出:ロバート・カーセン
 指揮:セミヨン・ビシュコフ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
 元帥夫人:アドリアンヌ・ピエチョンカ
 オクタヴィアン:アンゲリカ・キルヒシュラーガー
 ゾフィー:ミア・パーション
 オックス男爵:フランツ・ハヴラータ
 ファーニナル:フランツ・グルントヘーバー
 歌手:ピョートル・ベチャーラ
              Rec.2004年8月Live ザルツブルク祝祭大劇場
              TDKコア TDBA−0136(国内盤)2枚組 画面サイズ16:9



★★★ 
ドレスデン国立歌劇場の2007年来日公演をNHKがハイディフィニション収録したもの。発売はEUR輸入盤としてですが、独語・英語・仏語のほかに、日本語字幕もついています。この劇場で初演された時のセットをもとにしているそうです。すべてがオーソドックスと言える舞台は、いろいろと工夫のある最近の舞台を楽しんだ目にも、スタンダードでありながら、かつ新鮮ななものに感じることもできます。元帥夫人のアンネ・シュヴァネヴィルムスの毅然とした気品はクライバー盤のフェリシティ・ロットに、そしてオクタヴィアンのアンケ・フォンドゥングもクライバー盤のアンネ・ソフィー・フォン・オッターの青年らしさに匹敵します。小間使いマリアンデルとしては、オッターよりもかわいらしく、こちらに軍配が上がります。ルイージ率いるドレスデン・サウンドの雄弁な事、この歌劇場の「ばらの騎士」の伝統は健在と言えます。このDVDの収録日である11月25日、私もこのホールで舞台を見ていただけに、この日の公演が映像化されたのは、この上ない喜びです。
 演出:ウヴェ=エリック・ラウフェンベルク
 指揮:ファビオ・ルイージ、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団&合唱団
 元帥夫人:アンネ・シュヴァネヴィルムス
 オクタヴィアン:アンケ・フォンドゥング
 ゾフィー:森麻季
 オックス男爵:クルト・リドル
 ファーニナル:ハンス=ヨアヒム・ケテルセン
 歌手:ロベルト・サッカ
 Rec.2007年11月25日Live NHKホール
            medici arts 2056918(輸入盤)2枚組 画面サイズ16:9




CDなら、クナッパーツブッシュ盤がお気に入り。
 第2次世界大戦で焼失したウィーン国立歌劇場の再建記念公演のライヴ録音。
 同時期に録音された数々の名盤の中で、このクナ盤が1番のお気に入りです。
 歌手たちもオーケストラも、そして無骨なクナッパーツブッシュにも色気あり!
 BMG 74321 69431 2(輸入盤)3枚組モノラル

*セーナ・ユリナッツについては堪能編のカールマン「マリッツァ伯爵令嬢」項と下のベルク「ヴォツェック」項もご覧下さい。
ほぼ同時期のウィーン・フィルによる「ばらの騎士」には、クナッパーツブッシュ盤以外にも、下記の録音が残されています。なかでも全くの同一キャストであるエーリヒ・クライバーによるスタジオ録音は、クナッパーツブッシュ盤よりも世評は高いようですが……。

  【比較参考盤】
ジャケット 指揮&オーケストラ 元帥夫人 オクタヴィアン ゾフィー 録音
セル
 &
ウィーン・フィル
ライニング ノヴォトナ ギューデン ARIOSO
1949 Live
モノラル
E.クライバー
 &
ウィーン・フィル
ライニング ユリナッツ ギューデン DECCA
1954
モノラル

クナッパーツブッシュ
 &
ウィーン国立歌劇場
ライニング ユリナッツ ギューデン RCA
1955 Live
モノラル

カラヤン
 &
ウィーン・フィル
デラ・カーザ ユリナッツ ギューデン DG
1960 Live
モノラル

CDでのステレオ録音は、上のカラヤン&フィルハーモニア管弦楽団による1956年盤と、カラヤン&ウィーン・フィルによる1984年盤の2枚が名盤として有名ですが、カラヤン盤は映像にまかせるとして、CDとして個人的にお気に入りなのは、次の2枚です。

元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの3人のアンサンブルの美しさに酔いしれます。
エド・デ・ワールト指揮&ロッテルダム・フィル(1976年)
  DECCA 473 361-2(輸入盤)3枚組
  元帥夫人:イヴリン・リアー
  オックス男爵:ジュール・バスタン
  オクタヴィアン:フレデリカ・フォン・シュターデ
  ゾフィー:ルース・ウェルディング
  ファニナル:デレク・ハモンド・ストラウド
  ちなみに第1幕で歌手役として登場するのはホセ・カレラスです。


初演したドレスデン国立歌劇場のオーケストラの響きは、やはり美しいものです。
ハンス・フォンク指揮&ドレスデン国立歌劇場管弦楽団(1985年2月、ドレスデン国立歌劇場復興記念公演ライヴ)
  DENON COCQ-84369/71(国内盤)3枚組
  元帥夫人:アナ・プサール=ヨリッチ
  オックス男爵:テオ・アダム
  オクタヴィアン:ウーテ・ヴァルター
  ゾフィー:マルゴット・ステイルカル
  ファニナル:ロルフ・ハウンシュタイン、他





<お薦め本>
岡田暁生『<バラの騎士>の夢 リヒャルト・シュトラウスとオペラの変容』
                                   (春秋社,1997年9月)
  −本の帯広告から−
  ワーグナー以後 オペラはどこへ向かったか?
  芸術が大衆娯楽でありえた時代の最後の幸福な夢芝居《バラの騎士》。
  オペラの背後にうごめく人々の欲望、社会の不穏な揺らぎを鋭く活写する。
   【目次】
          プロローグ 《バラの騎士》が生まれた時代
          第1章    楽劇・ヴェリスモ・メルヘン
          第2章    陶酔と抽象―《サロメ》と《エレクトラ》の詩学
          第3章    「モーツァルトへ帰れ!」
          第4章    二重ストーリーと様式交差−−台本構造への一瞥
          第5章    仮面と素顔―様式混合の問題
          第6章    調和の幻想―様式統一の問題
          第7章    夢の終わりに―《バラの騎士》の詩学
          エピローグ 私はこの世に忘れられ―シュトラウスと20世紀オペラ
      *岡田暁生『オペラの運命』(中公新書,2001年サントリー学芸賞受賞)も必読です。


<お薦めHP>
「ばらの騎士」についての詳細なHPに「リブラリア・ムジカ」があります。
              TOP
→オペラ・声楽曲→CD評→歌劇『ばらの騎士』と進んでください。必見です。


モーツァルト「フィガロの結婚」(1785/86)
  演出:トーマス・ラングホフ
  指揮:ダニエル・バレンボイム、ベルリン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
  フィガロ:ルネ・パーペ
  スザンナ:ドロテア・レシュマン
  アルマヴィーヴァ伯爵夫人:エミリー・マギー
  アルマヴィーヴァ伯爵:ロマン・トレケル
  ケルビーノ:パトリシア・リスレイ
  ドン・バジリオ:ペーター・シュライアー etc.
  Rec.1999.6 Live ベルリン国立歌劇場
  ART HAUS 100 017(輸入盤、日本語字幕あり) 画面サイズ16:9
★★★
リヒャルト・シュトラウスが前衛的手法で古代を描いた「サロメ」や「エレクトラ」を発表した後、古典回帰して生み出した「ばらの騎士」は、“20世紀のフィガロ”とも称されています。とすると、お次は「フィガロの結婚」です。まさに喜歌劇の典型とも言うべき錯綜した人間関係と恋のかけひき、そして知恵を尽くしてのたくらみの果てのドタバタと大団円。扮装した妻と知らずに言い寄る夫、ズボン役の登場、部屋の人物を入れ替えるスリリングさ、そして最後は浮気男をみんなでやりこめていく愉快さ。「フィガロ」こそ、後の「ファルスタッフ」にも「バラの騎士」にも、そして「こうもり」や「メリー・ウィドウ」にもつながっていく種々の要素が盛り込まれているのです。まさにオペレッタ(小歌劇の謂いではなく、喜歌劇という意味で)の母なる存在と言ってよいのではないでしょうか。
さて、このDVDで演ずるのは、ペーター・シュライアー以外の歌手は、日本ではまだそれほど知名度はないかもしれませんが、ヨーロッパの主要劇場で活躍している人ばかりです。個々の歌手の技量はもちろんのこと、そのアンサンブルの美しさにおいても、バレンボイム指揮するベルリン国立歌劇場管弦楽団ともども、高水準の出来となっています。トーマス・ラングホフの演出は、人々を如何に動かすかにこのオペラの真髄があると言ってもいい、その複雑かつ滑稽な人間模様を、見ている者をはらはらどきどきさせつつも、解きほぐしていくことに成功しています。なかでもアルマヴィーヴァ伯爵の造型に際立って強烈な個性(まるでドン・ジョヴァンニ的な)を付与しているように思われ、ロマン・トレケルがそれを見事に演じています。2004年の新国立劇場「神々の黄昏」でのグンター役もはまっていましたが、この人の存在感はなかなかのものです。ただし第4幕が映像としては少し暗すぎるのが玉に瑕です。実際の舞台では夜の青い証明がおそらく美しく幻想的に見えることでしょうが、カメラの限界でしょうか、うまく撮りきれていないもどかしさが残ります。まあこれは、部屋の明かりを消して真っ暗な中で見れば解消しますし、そうすることで青の美しさが実感できます。これも楽しみのひとつとしておきましょう。


☆☆☆ 
1980年のウィーン国立歌劇場日本公演映像。
 演出:ヘルゲ・トマ、舞台装置・衣装:ジャン・ピエール・ポネル
 指揮:カール・ベーム、ウィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団
 フィガロ:ヘルマン・プライ
 スザンナ:ルチア・ポップ
 アルマヴィーヴァ伯爵:ベルント・ヴァイクル
 アルマヴィーヴァ伯爵夫人:グンドラ・ヤノヴィッツ
 ケルビーノ:アグネス・バルツァ
 マルチェリーナ:マルガリータ・リローヴァ
 バルトロ:クルト・リドル
            ドン・バジーリオ:ハインツ・ツェドニク
            ドン・クルツィオ:クルト・エクウィルツ
            バルバリーナ:マリア・ヴェヌーティ
            アントニオ:ワルター・フィンク
            Rec.1980.9.30 Live 東京文化会館
            NHKエンタープライズ NSDS9492(国内盤) 画面サイズ4:3


★★
イギリスの名演出家ジョナサン・ミラーの「フィガロ」は、小さな動きにも神経の行き届いたもので、さすがです。しかしキャストは上のバレンボイム&ベルリン国立歌劇場盤の方がすぐれています。総じて若い人たち中心のキャストのようですが、なかでもアルマヴィーヴァ伯爵夫人が少し若すぎ、それだけドラマにおける伯爵夫人の位置が見えにくくなってしまっています。フィガロ役のジョルジョ・スーリアンはいい声です。メータの指揮も精彩さ・躍動感に欠けるでしょう。あくまでジョナサン・ミラーに楽しませてもらいましょう。
 演出:ジョナサン・ミラー
 指揮:ズービン・メータフィレンツェ5月音楽祭管弦楽団&合唱団
 フィガロ:ジョルジョ・スーリアン
 スザンナ:パトリツィア・チョーフィ
 アルマヴィーヴァ伯爵夫人:エテーリ・グヴァザーヴァ
 アルマヴィーヴァ伯爵:ルーチョ・ガッロ
 ケルビーノ:マリーナ・コンパラート
 ドン・バジリオ:セルジオ・ベルトッキ etc.
             Rec.2003.10 Live フィレンツェ歌劇場(テアトロ・コムナーレ)

             TDKコア TDBA−0109(国内盤) 画面サイズ16:9



★★★
ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」(1816)
もうひとつの「フィガロ」の物語です。物語は、ボーマルシェのフィガロ3部作の第1部で、モーツァルトの「フィガロの結婚」の前編にあたり、アルマヴィーヴァ伯爵がフィガロの協力によりロジーナ(後の伯爵夫人)を手に入れるまでの話が展開されます。チェチーリア・バルトリが22歳にして堂々たる存在であるのをはじめとして、彼女をとりまくベテラン歌手たちも皆、歌唱のみならず演技も秀逸です。さらにミヒャエル・ハンペが、喜劇に必須の人々の配置と動きを巧みに演出しています。
 演出:ミヒャエル・ハンペ
 指揮:ガブリエレ・フェルロ、シュトゥットガルト放送交響楽団、ケルン歌劇場合唱団
 アルマヴィーヴァ伯爵:デイヴィッド・キューブラー(T)
 フィガロ:ジーノ・キリコ(Br)
 ロジーナ:チェチーリア・バルトリ(Ms)
 バルトロ:カルロス・フェラー(Bs)
 ドン・バジーリオ:ロバート・ロイド(Bs) etc.

 Rec.1988 Live シュヴェツィンゲン音楽祭 シュヴェツィンゲン・ロココ劇場
             パイオニアLDC PIBC−2047(国内盤) 画面サイズ4:3


★★★
ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」(1816)
フランスの映画監督コリーヌ・セローによる演出は、「セヴィリアの理髪師」をイスラームの世界に置き換えた演出となっています。装置、衣装ともども見事な読み替え・置き換えと言えるでしょう。実際、セヴィリアは8世紀から13世紀までイスラム勢力の支配下にありました。カロン・ド・ボーマルシェ原作の「セヴィリアの理髪師」が18世紀の作品で、当時すでにイスラム支配ではないとしても、そこでかつて繁栄したイスラム文化がスペインにおけるエキゾティシズムを醸成しているとすると、このアイデアはなるほど、うまいところをついたと言えるかもしれません。アラベスク模様を色彩豊かに用いたセットとイスラム風の衣装(と言っても、単にイスラム風にしているだけではなく、フィガロに、町の何でも屋を象徴するかのように、依頼を受け付ける?携帯電話をたくさんぶら下げさせるような遊びもあります)は、「セヴィリアの理髪師」に新風を送り込むことに成功しています。もちろん歌手・演奏も文句なしの出来です。
 演出:コリーヌ・セロー、装置:ジャン=マルク・ステレ&アントワーヌ・フォンテーヌ
 衣裳:エルザ・パヴァネル、照明:ジュヌヴィエーヴ・スービル
 指揮:ブルーノ・カンパネッラ、パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団
 アルマヴィーヴァ伯爵:ロベルト・サッカ
 フィガロ:ダリボール・イェニス
 ロジーナ:ジョイス・ディドナート
 バルトロ:カルロス・ショーソン
 ドン・バジーリオ:クリスティン・ジグムンドソン etc.

              Rec.2002.4 Live パリ・オペラ座(バスティーユ)
              TDKコア TDBA−0109(国内盤) 画面サイズ16:9     
        

ヴェルディ「ファルスタッフ」(1893)
  演出&指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
  サー・ジョン・ファルスタッフ:ジュゼッペ・タディ(Br)
  フォード:ローランド・パネライ(Br)
  フォード夫人アリーチェ:ライナ・カバイヴァンスカ(S)
  ナンネッタ(フォード夫妻の娘):ジャネット・ペリー(S)
  クイックリー夫人:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms)
  ページ夫人メグ:トゥルデリーゼ・シュミット(S)
  フェントン:フランシスコ・アライサ(T)
  バルドルフォ(ファルスタッフの家来):ハインツ・ツェドニク(T)
  ピストラ(ファルスタッフの家来):フェデリコ・ダヴィア(Bs)
  医師カイウス:ピエロ・デ・パルマ(T)
  Rec.1982 Live ザルツブルク祝祭大劇場
  Sony Records SIBC16(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
リヒャルト・シュトラウスは、ヴェルディのオペラの中で、この「ファルスタッフ」が最もお気に入りであったそうです。また、リヒャルト・シュトラウスとホフマンスタールは、「ばらの騎士」を生み出すに際して、モーツァルトの「フィガロの結婚」とともに、この「ファルスタッフ」を念頭においていたとも言われています。確かにこの3つのオペラは、アルマヴィーヴァ伯爵−ファルスタッフ−オックスという共通項に対して、女性陣がからみ、ギャフンと言わせる点において、そしていずれも上質の音楽によって支えられているという点においても、喜劇オペラの三大傑作と言えるかもしれません。そこに更に切なさを加えた点で、やはり「ばらの騎士」が最高の傑作であると、あらためて痛感させられもします。さて、この「ファルスタッフ」はヴェルディ最後のオペラ作品。シェイクスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」と「ヘンリーW世」をもとにアリゴ・ボーイトが書いた台本が、「オテロ」発表以降、事実上の隠遁生活に入っていたヴェルディの創作意欲を刺激して生み出された作品です。最後に全員で歌われる歌に、この喜劇の真髄が言い尽くされています。「世の中すべて冗談だらけ/人間は生まれながらに道化師だ/誠実や知性なんて当てにはならぬ/人間すべていかさま師/互いにあざけりあい/みんな他人を笑うけど/最後に笑う者だけが/本当に笑う者なのだ」……。みんなで仲良く笑って喜劇は終わります。なお、原作ではファルスタッフは、フォード夫人とページ夫人とに3度にわたり懲らしめられますが、このボーイト台本では、2番目の女装しての逃走の話がカットされています。
カラヤンによるザルツブルクでの公演は、何よりまず舞台が美しいです(ただし映像は下に紹介する他のDVDに比べると鮮明さに欠けますことは否めませんが)。祝祭大劇場の横広の舞台も、この「ファルスタッフ」では奥行きを必要としないので、問題ありません。歌手はタイトル・ロールのジュゼッペ・タディをはじめ、いずれも高水準。中でもクイックリー夫人役のクリスタ・ルートヴィヒが素晴らしい歌と演技を見せてくれます。またページ夫人メグ役のトゥルデリーゼ・シュミットも魅力的です。そして、ウィーン・フィルがとにかく上手い。大劇場での公演らしくスケールの大きな、しかし繊細な表現で、惚れ惚れします。カラヤン演出は、いい意味でオーソドックスにして、「ファルスタッフ」のスタンダードと言えるものになっています。



☆☆☆ 
上のカラヤン盤と同年上演のジュリーニ盤。
 演出:ロナルド・エア
 指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団
 ファルスタッフ:レナート・ブルゾン(Br)
 アリーチェ:カーティア・リッチャレッリ(S)
 フォード:レオ・ヌッチ(Br)
 ナンネッタ:バーバラ・ヘンドリックス(S)
 フェントン:ダルマシオ・ゴンザレス(T)
 クィックリー夫人:ルチア・ヴァレンティーニ=テラーニ(Ms)、他
 Rec.1982 Live コヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス
           ワーナーミュージックジャパン WPBS90228(国内盤) 画面サイズ4:3



★★★
シェークスピア・オペラといえば、ゼッフィレッリ演出も欠かせません。実に自然な動きで、この人間喜劇を解きほぐしています。舞台セットもファルスタッフの時代かくやと思わせるものになっています。歌手たちは、いずれも高水準(ファルスタッフ役のポール・プリシュカとトメトロポリタンのオケは、カラヤン盤やムーティ盤に比べてやや弱いですが)。それを統率するレヴァインもまた、この複雑なテクスチュア作品を、おどろくまでに明快かつ雄弁に提示しています。
 演出:フランコ・ゼッフィレッリ
 指揮:ジェイムズ・レヴァイン、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団
 ファルスタッフ:ポール・プリシュカ(Bs)
 フォード:ブルーノ・ポーラ(Br)
 フォード夫人アリーチェ:ミレッラ・フレーニ(S)
 ナンネッタ(フォード夫妻の娘):バーバラ・ボニー(S)
 クイックリー夫人:マリリン・ホーン(Ms)
 ページ夫人メグ:スーザン・グレアム(S)
             フェントン:フランク・ロパード(T)
             バルドルフォ(ファルスタッフの家来):アントニー・ラチューラ(T)
             ピストラ(ファルスタッフの家来):ジェイムズ・コートニー(Bs)
             医師カイウス:ピエロ・デ・パルマ(T)

             Rec.1992.10 Live メトロポリタン歌劇場
             UM−グラモフォン UCBG−1074(国内盤) 画面サイズ4:3


★★★
ブッセート・テアトロ・ヴェルディは、座席数328という小さな劇場で、ヴェルディの生地に近いことから、ヴェルディを記念して作られたということ。また、この劇場では、ヴェルディ生誕100年を記念する1913年に、アルトゥーロ・トスカニーニ指揮により記念公演が上演されました。このDVDに記録された2001年のスカラ座引越し公演では、装置と衣装を1913年公演のオリジナル・デザインを用いての上演だそうです。ここでのエリザベス朝の衣装は、登場人物たちの階級の衣装としては正しくはないとのことですが(解説による)、このシェークスピア喜劇の雰囲気を雄弁に語っているという点においては、実に秀逸な衣装であると思います。ブッセートの小さな劇場も、このファルスタッフでは何の問題もなし(TDKコアから出ているDVDのゼッフィレッリ演出「アイーダ」では、さすがに窮屈さが気になりました)。ファルスタッフ役のアンブロージョ・マエストリは、まだ30台の若手ですが、柔らかな声と豊な表情・演技、そして完璧な技術で、大好演です。小劇場ゆえにオーケストラの規模もおさえたことで、かえって鮮明かつ軽快なサウンドとなり、喜劇の快楽感が増しています。舞台も美しく、かつ画像も最上質です。
 演出:ルッジェーロ・カップッチョ
 指揮:リッカルド・ムーティ、スカラ座管弦楽団・合唱団
 ファルスタッフ:アンブロージョ・マエストリ(Br)
 フォード:ロベルト・フロンタリ(Br)
 フォード夫人アリーチェ:バルバラ・フリットリ(S)
 ナンネッタ(フォード夫妻の娘):インヴァ・ムーラ(S)
 クイックリー夫人:ベルナデッテ・マンカ・ディ・ニッサ(A)
 ページ夫人メグ:アンナ・カテリーナ・アントナッチ(Ms)
             フェントン:フアン・ディエゴ・フローレス(T)
             バルドルフォ(ファルスタッフの家来):パオロ・バルバチーニ(T)
             ピストラ(ファルスタッフの家来):ルイージ・ローニ(Br)
             医師カイウス:エルネスト・ガヴァッツィ(T)

             Rec.2001.4 Live ブッセート・テアトロ・ヴェルディ
             TDKコア TDBA−0029(国内盤) 画面サイズ16:9


★★
DVD映像の、斬新な演出です。この公演の翌年に56歳で急死するヘルベルト・ヴェルニッケの演出は、設定を現代にし、また簡潔な舞台セットで瞬時に場面転換させることで、「ファルスタッフ」に新風を吹き込ませています。ファルスタッフ役のウィラード・ホワイトは、豊かな声で存在感を示しています。もっとも道化というより、かなり強持てキャラクターとなっています。これはホワイトのキャラクターによるのか、それとも、これもヴェルニケの演出によるのでしょうか。道化芝居というよりも、かなりシリアスなドラマとなっています。それだけに、最後のファルスタッフへの仕返しも、どこか重苦しく、後味の悪い仕返しという感が否めないのもまた事実です。その点、三ツ星とするのに躊躇しています。

 演出:ヘルベルト・ヴェルニッケ
 指揮:エンリケ・マッツォーラ、パリ管弦楽団、ヨーロッパ音楽アカデミー合唱団
 ファルスタッフ:ウィラード・ホワイト(Br)
 フォード:マーカス・ジュピター(Br)
 フォード夫人アリーチェ:ジェラルディン・マクグリーヴィー(S)
 ナンネッタ(フォード夫妻の娘):ミア・ペーション(S)
 フェントン:ヤン・ボイロン(T) etc.

 
Rec.2001.7 Live エクサン・プロヴァンス音楽祭
 ART HAUS 100 345(輸入盤、日本語字幕あり) 画面サイズ16:9



CDなら、これが一番!
トスカニーニ&NBC交響楽団による1950年スタジオ録音が極めつけですが、ここではステレオ録音から、トスカニーニの後継者とも言えるムーティ&ミラノ・スカラ座による、「ファルスタッフ」スカラ座初演100周年記念公演ライブです。

 指揮:リッカルド・ムーティ、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
 ファルスタッフ:ホアン・ポンス
 フォード:ロベルト・フロンターリ(Br)
 フォード夫人アリーチェ:ダニエラ・デッシー(S)
 ナンネッタ(フォード夫妻の娘):モーリーン・オフライン(S)
 フェントン:ラモン・ヴァルガス(T)
 etc.
             
Rec.1993.6 Live ミラノ・スカラ座
             Sony Records SRCR9742/3(国内盤)2枚組


★★
サリエリ「ファルスタッフ」(1799)
アントニオ・サリエリ、そうです、映画「アマデウス」で有名なサリエリ(1750-1825)です。1799年の作曲ですから、すでにモーツァルト(1756-1791)は亡くなっています。映画では天才モーツァルトの前に矮小化されたサリエリ。確かに音楽にモーツァルトのような、一度耳にすると忘れることが出来ない天才的メロディは皆無ですが、見るオペラとしては、なかなかの出来だと思います。ミヒャエル・ハンペの演出と歌手たちの演奏の水準の高さが、作品を一層よく見せているとも言えるでしょう。けっこう楽しめました。物語は、ファルスタッフへの3度の仕返しに終止し、フォード夫妻の娘ナンネッタ(原作ではページ夫妻の娘アン)とフェントンとの恋の話はなく(当然、登場もしません)、フォード夫人が夫に娘たちの結婚を認めさせるという、もうひとつの物語がありません。これで話がかえってシンプルになり、サリエリのさして特色のない音楽のためには、プラスに働いていると言えるかもしれません。
 演出:ミヒャエル・ハンペ
 指揮:アルノルト・エストマン、
      シュトゥットガルト放送交響楽団、ルートヴィヒスハーフェン宮殿歌劇場合唱団
 ファルスタッフ:ジョン・デ・カルロ
 
フォード:リチャード・クロフト
 フォード夫人アリーチェ:
テレサ・リングホルツ etc.
 
Rec.1995 Live シュヴェツィンゲン音楽祭 シュヴェツィンゲン・ロココ劇場
 ART HAUS 100 023(輸入盤、日本語字幕あり) 画面サイズ4:3



こちらも「ファルスタッフ」の物語です。
ニコライ「ウィンザーの陽気な女房たち」(1849)
このオペラを初演したベルリン国立歌劇場と、録音当時の錚々たるメンバーによる演奏です。物語の進行を説明するナレーションが入っていますが、これがけっこう鬱陶しいです。CDプレーヤーでナレーション部分を飛ばすプログラミングにして聴く方が、音楽の魅力を楽しめると思います。
 指揮:ベルンハルト・クレー、ベルリン国立歌劇場管弦楽団・合唱団
 ファルスタッフ:クルト・モル(Bs)
 フルート:ベルント・ヴァイケル(Br)
 フルート夫人:エディット・マティス(S)
 ライヒ:ジークフリート・フォーゲル(Bs)
 ライヒ夫人:ハンナ・シュヴァルツ(Ms)
 アンナ・ライヒ:ヘレン・ドナート(S)
 フェントン:ペーター・シュライアー(T)
 etc.
             Rec.1976 Berlin,Studio Christuskirche
             Berlin Classics BC 2115−2(輸入盤)2枚組

*さらに、ラルフ・ヴォーン=ウィリアムス(1872-1958)の「恋するサー・ジョン」もファルスタッフ物です。
 なおシェークスピアの日本語訳は、白水社・白水Uブックス版シェークスピア全集に尽きます。小田島雄志訳の愉快なこと! シェークスピアの言語世界が、見事に日本語に転換されています。

レオンカヴァッロ「道化師」(1892)
  監督:フランコ・ゼッフィレッリ
  指揮:ジョルジュ・プレートル、ミラノ・スカラ座管弦楽団、合唱団
  ネッダ(コロンビーナ):テレサ・ストラータス(S)
  カニオ(パリアッチョ):プラシド・ドミンゴ(T)
  トニオ(タデオ):ホアン・ポンス(Br)
  ペッペ(アルレッキーノ):フロリンド・アンドレオッリ(T)
  シルヴィオ:アルベルト・リナルディ(Br) etc.
  Rec.1982
  UM−フィリップス PHBP−1007(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
道化師ファルスタッフ、とくれば、「ファルスタッフ」の前年に発表された道化師パリアッチョですね。そもそも悲劇とは究極の喜劇です。「La commedia e finita !」(喜劇はこれで終わりです)という台詞で終わるこの「道化師」こそ、喜劇とは何かを考えるのに絶好のヴェリズモ・オペラの傑作です。レオンカヴァッロ自身、1908年(40歳)以降の後半生はオペレッタ作曲家として「バラの小公妃」(1912)など10曲のオペレッタを残しているそうです。ぜひとも聴いてみたいものです。かつて映像作品「ロシアの皇太子」(下記参照)のソーニャ役やカラヤン盤の「メリー・ウィドウ」のヴァランシエンヌ役をつとめていたテレサ・ストラータスも、ここではシリアスに悲劇の一翼を担っています。本当はこの盤でのプラシド・ドミンゴよりも、メトロポリタン歌劇場公演(レヴァイン指揮。演出はいずれもゼッフィレッリで、基本的には同じですが、プレートル盤が映画と舞台の折衷的映像であったのに対し、レヴァイン盤は舞台ライブとなっている)でのルチアーノ・パヴァロッティの方が、パリアッチョの嫉妬に苦しむ男の弱さと狂気がよく出ていて、そちらを推薦したいのですが、残念ながらDVD化されていません。パヴァロッティで聴くなら、CDのムーティ盤(フィリップス)です。


 <道化師>
★★★
往年のNHKイタリア・オペラ来日公演の歴史的映像から。道化師はドミンゴか、パバロッティか。この選択もなかなか楽しいものですが、古くはエンリコ・カルーソーでしょう。しかしこれはちょっと古すぎるか。とすると20世紀の道化師は、やはりマリオ・デル・モナコに尽きるでしょう。映像はモノクロで、演出も現在の技術水準から見ると見劣りするところもありますが、それでもデル・モナコの迫真の演技は、40年経過しても古びることなく、深く強く、見るものに人間の“業”を痛感させてくれます。
 演出:ブルーノ・ノフリ
 指揮:ジュゼッペ・モレルリ、NHK交響楽団ほか
 カニオ:マリオ・デル・モナコ
 ネッダ:ガブリエルラ・トゥッチ
 トニオ:アルド・プロッティ etc.
 Rec.1961.10.25 Live 東京文化会館
 キングレコード KIBM−1015(国内盤) 画面サイズ4:3(モノクロ映像)




CDなら、デル・モナコが歌うプラデッリ盤(デッカ)もいいけど、やはり、これが一番!
 指揮:リッカルド・ムーティ、フィラデルフィア管弦楽団ほか
 カニオ:ルチアーノ・パヴァロッティ
 ネッダ:ダニエラ・デッシー
 トニオ:ホアン・ポンス etc.
 
Rec.1992.2 Live
 PHILIPS 434 131−2(輸入盤)

*このCDでは、「La commedia e finita !」という最後のセリフを、通常のカニオではなくトニオに言わせています。ライナーノートによると、ムーティがレオンカヴァッロの自筆スコアを精査した結果を反映させているようです。ネッダとシルヴィオを刺殺したカニオが言うのと、カニオにナイフを差し出したトニオが言うのとでは、幕切れの演出的効果のみならず、オペラ全体の意味も相当に変わってくるでしょう。トニオはネッダとシルヴィオとの密会の現場をカニオに見せる役割も果たしています。この時カニオがネッダに間男の名前を聞き出そうとするにもかかわらず、ネッダがけっして口を割ろうとしないことが、一層カニオの嫉妬と憎悪を増幅させ、そのことが後の劇中劇での虚実不分明の状態へと彼を追い込んでいくことになります。一見劇中において誰からも軽くあしらわれているトニオこそが、実はこのドラマの支配者として他の人物の運命を牛耳っていると言えるのです。そうであるならば、オペラ冒頭、幕前でトニオが観客に語りかける独唱と呼応して、再びトニオによって観客に向かって発せられる幕切れのあの一言、「La commedia e finita !」は、トニオによって発せられるからこそ首尾一貫するのであって、フレーム的役割を果たすトニオという存在こそが、このドラマの真の中心人物であると言えるのです。いや、中心というよりも、超越と言うべきかもしれません。トニオという枠の中の入れ子として、その中で繰り広げられる現実の愛憎のドラマが、さらに非現実の劇中劇という入れ子において最悪の結末へとなだれ落ちていく、その悲劇的展開こそが、まさしく喜劇的としか言いようのないところに、この「道化師」という作品の真髄があるのです。……ああ、そういう演出の舞台を見てみたい!

  −ライナーノートより (by Bernard Jacobson)−
Note that the restoration of this concluding phrase - sung in many performances over the years by Canio - to Tonio is one of more than 100 instances where Riccardo Muti has returned to readings found in the autograph score of the opera , which was unearthed in the 1970's after diappearing from view for decades

プッチーニ「ボエーム」(1893/96)、「トスカ」(1898/99)、「トゥーランドット」(1920/25)
  演出:フランコ・ゼッフィレッリ
  指揮:ジェームス・レヴァイン(ボエーム、トゥーランドット)、ジュゼッペ・シノーポリ(トスカ)
  メトロポリタン歌劇場管弦楽団、合唱団
 <ボエーム>
  ロドルフォ:ホセ・カレーラス
  ミミ:テレサ・ストラータス
  マルチェルロ:リチャード・スティルウェル
  ムゼッタ:レナータ・スコット etc.
  Rec.1982.1 Live メトロポリタン歌劇場
  パイオニアLDC PIBC−2013(国内盤) 画面サイズ4:3
 <トスカ>
  トスカ:ヒルデガルド・ベーレンス
  カヴァラドッシ:プラシド・ドミンゴ
  スカルピア:コーネル・マックニール etc.
  Rec.1985.3 Live メトロポリタン歌劇場
  パイオニアLDC PIBC−2012(国内盤) 画面サイズ4:3
 <トゥーランドット>
  トゥーランドット:エヴァ・マルトン
  カラフ:プラシド・ドミンゴ
  リュー:レオーナ・ミッチェル etc.
  Rec.1987.4 Live メトロポリタン歌劇場
  UM−グラモフォン UCBG−1007(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
レハールが多大な影響を受けたプッチーニ(「ボエーム」→「ルクセンブルク伯爵」、「蝶々夫人」&「トゥーランドット」→「微笑みの国」)のオペラについては、上の「道化師」同様、フランコ・ゼッフィレッリ演出をお薦めします。メトロポリタン歌劇場で上演された上記3演目は、いずれもプッチーニ作品の規範、というよりむしろ、最高峰と言っても過言ではない作品です。演奏も文句なし。唯一残念なのは、画面が4:3のため、ゼッフィレッリのスケールを十分に伝え切れていないことです。画面が16:9のビスタサイズなら、なおよかったのに。


フランコ・ゼッフィレッリの演出による新映像が出ました。待望の16:9のビスタサイズです。
<ボエーム>
★★★
1963年以来、40年を経たゼッフィレッリの演出は、今もなお古びず、美しくも切なく悲しく、青春群像を描き続けています。その美しくも鮮明な映像に感銘。残念なのは、映像作品ゆえに、カメラワークが細部を映し出すメリットとともに、一方でゼッフィレッリの描く舞台のそこここに描き尽くすアイディアを多く捨てざるをえないという限界。やむをえないことではありますが、ゼッフィレッリの才は、舞台でこそ一層感じ入ることができるのです。それでも、この映像は、やはりすぐれた記録です。歌手たちからは、歌と演技を越えた、生き様を見せられます。ミミ役のクリスティーナ・ガイヤルド=ドマスは、下のデイヴィッド・パウントニー演出の2002年ザルツブルグ音楽祭での「トゥーランドット」ではリューを演じていますが、そのリューの死の時以上に、このミミの死の直前の歌と演技には、泣けます。彼女のミミには、病死する直前にこんなに歌える?という不自然さは全く感じられません。絶品のミミです。もちろん他の歌手たちも文句なし。バルトレッティ指揮のスカラ座オケもさすがに雄弁。絶対のオススメです。
  指揮:ブルーノ・バルトレッティ、ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団、
    スカラ座児童合唱団、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ音楽院児童合唱団
  ロドルフォ:マルセロ・アルバレス
  ミミ:クリスティーナ・ガイヤルド=ドマス
  マルチェルロ:ロベルト・セルヴィーレ
  ムゼッタ:ヘイ=キュン・ホン etc.
  Rec.2003.1 Live ミラノ・アルチンボルディ劇場
  TDK CORE TDBA−0085(国内盤) 画面サイズ16:9



<蝶々夫人>
★★★

意外にも、ゼッフィレッリが「蝶々夫人」の演出を手がけたのはこれが初めてとのこと。衣裳をワダ・エミ、振付を田口道子が担当しています。作品としても音楽としても極めて室内楽的精彩さ・繊細さを持つこの「蝶々夫人」には、アレーナ・ディ・ヴェローナの野外大劇場は本来ふさわしくないはずですが、そこはゼッフィレッリの才。ダニエル・オーレンの指揮とあいまって、スケールの大きな舞台となっています。岩山のふもとの平屋は、日本の調度を意識しつつも中国的な一面も見せ、室内に草履のまま上がるなど相変わらず滑稽な仕草もあり、おまけにカラフルな照明により、一層不可思議な空間となっていますが、よく考えてみると、舞台が長崎だから日本の風土や文化、色合いを正確に再現しなくてはならない、とも言えないでしょう。このオペラ自体、そもそも西洋のまなざしから見た日本であり、そのまなざしを再現することの方が意味があるかもしれません。エキゾチック・ジャポニズムの中に生きる人々は、こうした一見疑問を持ちやすい空間のなかにこそ息づいているのです。舞台自体が、作品のまなざしと一体化した時にこそ、この「蝶々夫人」というオペラはその本質を浮かび上がらせると言ってもよいのではないでしょうか。ゼッフィレッリの演出がそこまで意図していたかどうかはともかく、まちがいなく「蝶々夫人」が持つ異文化の越えがたい壁と人間の普遍的な生き方との間に横たわる大きな溝が、確実に表出されていたと思います。やはりゼッフィレッリはゼッフィレッリ以外の誰でもありませんでしたね。オーケストラの響きが、空間的にも力量的にも荒いのが難点ですが、出演者たちは文句なしの水準です。

  指揮:ダニエル・オーレン、アレーナ・ディ・ヴェローナ管弦楽団&合唱団
  蝶々夫人:フィオレンツァ・チェドリンス
  スズキ:フランチェスカ・フランチ
  ピンカートン:マルチェッロ・ジョルダーニ
  シャープレス:フアン・ポンス etc.
  Rec.2004.7 Live アレーナ・ディ・ヴェローナ
  TDK CORE TDBA−0105(国内盤) 画面サイズ16:9



   
     *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *


 <ボエーム>
★★★
これは何とお洒落な演出でしょう。ゼッフィレッリの世界とは全く異なる、しかし、ボエームの世界を見事に形象化した舞台です。ブレゲンツ・ボーデン湖湖上ステージは、すべてがデフォルメされた装置の中で、まるで登場人物たちがミニチュアであるかのように見えてきます。青春の切なくも淡いひと時のドラマを、過ぎ去りしおのれの青春を回顧するかのようなまなざしで見つめる。そんなもくろみがこの舞台からは感じられるのです。なかでも第2幕カフェ・モミュスでのはなやかな喧騒ときたら、もうこれしかないとしか言いようのないほどにキマッています。そして特筆すべきが、ムゼッタ役のエレーナ・デ・ラ・メルセド。マリリン・モンローを髣髴とさせるメイクと衣裳、そして仕草からワルツ「私が街をあるけば」が歌われるとき、もう、たまらないほどに魅了されてしまいます。これほどムゼッタかくやと思わせる舞台は、ゼッフィレッリでさえ及ばないと思ってしまいます。もちろん対照的なミミの可憐さも、アレクシア・ヴルガリドゥによって十二分に伝えられます。この2人の女性の好対照によって、この舞台は見事に花咲きました。輸入盤のため字幕は独・英・仏・伊語のみですが、もはやこの舞台にとっては、字幕すらむしろ邪魔になるのではないでしょうか。
  演出:リチャード・ジョーンズ、アントニー・マクドナルド
  
指揮:ウルフ・シルマー、ウィーン交響楽団、ブレゲンツ音楽祭合唱団、ブレゲンツ音楽学校児童合唱団

  ロドルフォ:ロランド・ビリャソン
  ミミ:アレクシア・ヴルガリドゥ
  マルチェルロ:リュドビク・テジエ
  ムゼッタ:エレーナ・デ・ラ・メルセド etc.
  Rec.2002.8 Live オーストリア・ブレゲンツ・ボーデン湖湖上ステージ
  CAPRICCIO 93515(輸入盤) 画面サイズ16:9




 <トゥーランドット>
★★★
ゼッフィレッリの豪華な演出に惹かれつつ、もうひとつの推薦盤は、「at the Forbidden City of Beijing」という副題のついた「トゥーランドット」にまさにうってつけの、北京・紫禁城前の屋外特設ステージでのライブ。舞台としての限界を帳消しにする壮大なスケールに圧倒されます。こちらはビスタサイズで、舞台空間の広がりを存分に伝えています。
 演出:チャン・イー・モウ(張芸謀)
 指揮:ズービン・メータ、フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団、合唱団、北京舞踏学院
 トゥーランドット:ジョヴァンナ・カゾッラ
 カラフ:セルゲイ・ラーリン
 リュー:バルバラ・フリットーリ etc.
 Rec.1998.9 Live 北京・紫禁城
 BMG BVBO−31001(国内盤) 画面サイズ16:9




 <トゥーランドット>
★★★
デイヴィッド・パウントニー演出による、2002年8月のザルツブルグ音楽祭での上演映像です。ザルツブルグ祝祭劇場の横広舞台が無機的な機械万能社会・全体主義社会を表現し、そこに画一化された民衆が群をなします。また巨大にデフォルメされたセットも原色の照明も、効果的に異空間を形成しています。このDVDのもうひとつの特色は、プッチーニの死による未完部分の補筆が、通常のフランコ・アルファーノによるものではなく、2001年に発表されたルチアーノ・ベリオによるものを使用していることです。パウントニーの演出は、このベリオ補筆を捉えて、リュー亡き後のトゥーランドットの融けゆく心とカラフとの愛の関係を丁寧に描いていますが、肝心の音楽の方は、私には共感できませんでした。確かにプッチーニの素材を用いつつも、プッチーニのサウンドの再現をめざそうとはしなかった姿勢は評価できますが、それまでのプッチーニ作曲部分とのあまりの異質性が、違和感を強く印象づけてしまうのでした。アルファーノ補筆の方は、質の低さがしばしば言われ、確かにその通りだとは思いますが、それは仕方のないことと思えば、プッチーニ作「トゥーランドット」の延長として受け止めることは出来たのです。もっとも耳慣れているかいないか、というのもあるかもしれませんので、もう少し聞き込むと考えが変わるかもしれません。ゲルギエフの指揮もいまひとつ盛り上がりに欠け(安易な盛り上げをあえてしていないのでしょうが)、物足りないと思います。歌手陣は、容姿はともかく、歌はいずれもすばらしいです。不満もありますが、演出と歌手の良さで、十分に三ツ星と判断しました。
 演出:デイヴィッド・パウントニー
 指揮:ワレリー・ゲルギエフ、
     ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団、テルツ少年合唱団
 トゥーランドット:ガブリエーレ・シュナウト
 カラフ:ヨハン・ボータ
 リュー:クリスティーナ・ガイヤルド=ドマス etc.
 Rec.2002.8 Live ザルツブルグ祝祭劇場大ホール
 TDK CORE TDBA−0035(国内盤) 画面サイズ16:9



 <トスカ>
★★★
往年のNHKイタリア・オペラ来日公演の歴史的映像から。レターナ・テバルディの気品に満ちた、毅然としたトスカ像は、古い映像からも十二分に伝わってきます。モノクロ映像が、記録としてのリアルさとともに、不思議にもドラマとしての迫真性を一層醸し出しているように思えてきます。
 演出:ブルーノ・ノフリ
 指揮:アルトゥーロ・バジーレ、NHK交響楽団ほか
 トスカ:レターナ・テバルディ
 カヴァラドッシ:ジャンニ・ポッジ
 スカルピア:ジャン・ジャコモ・グェルフィ etc.
 Rec.1961.10.22 Live 東京文化会館
 キングレコード KIBM−1013(国内盤) 画面サイズ4:3(モノクロ映像)



コルンゴルト「死の都」(1920)
  演出:インガー・レヴァント
  指揮:ジャン・レイサム=ケーニック
  ストラスブール・フィルハーモニック管弦楽団、ライン国立歌劇場合唱団
  マリー&マリエッタ:アンゲラ・デノケ
  パウル:トルステン・ケルル
  フランク:ユーリ・バツコフ etc.
  Rec.2001 Live ライン国立歌劇場
  ART HAUS 100 343(輸入盤、日本語字幕あり) 画面サイズ16:9
★★★
プッチーニに影響を受けたのは、レハールだけではありません。天才と言われたエーリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897−1957)にとっても、当時ウィーンを席巻していたプッチーニに多大な影響を受けたことが、この作品の響きからうかがうことができます。1892年に発表されたジョルジュ・ローデンバックの小説『死都ブリュージュ』を原作とした、コルンゴルト23歳の時のこのオペラは、20世紀前半の自己への不安の時代を見事に形象化した名作オペラです。リヒャルト・シュトラウスに劣らぬ、絢爛豪華でありながら透明感にあふれたオーケストレーションや、マリエッタによるアリア「私を包む幸せよ(リュートの歌)」など、魅力たっぷりの作品を映像として見ることのできるこのDVDは、絶対のお薦めです。「死の都」を、過度に陥らない象徴と照明とを駆使して表現した演出も納得させられます。

CDなら、これが一番!
 指揮:エーリヒ・ラインスドルフ、ミュンヘン放送管弦楽団・バイエルン放送合唱団
 マリー&マリエッタ:キャロル・ネブレット
 パウル:ルネ・コロ
 フランク:ベンジャミン・ラクソン etc.
 Rec.1975.6 
 BMGジャパン BVCC37095〜6(国内盤)2枚組


ベルク「ヴォツェック(1925)
  製作:ロルフ・リーバーマン、監督:ヨアヒム・ヘス
  指揮:ブルーノ・マデルナ
  ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団、ハンブルク州立歌劇場合唱団
  ヴォツェック:トニ・ブランケンハイム(Br)
  マリー:セーナ・ユリナッツ(S)
←−−注目!!
  アンドレス:ペーター・ハーゲ(T)
  軍楽隊隊長:リヒャルト・カッシリー(T)
  マルグリート:エリザベート・シュタイナー(S)
  医者:ハンス・ゾーティン(Bs)
  徒弟職人1:クルト・モル(Bs)
  徒弟職人2:フランツ・グルントヘーバー(Br)←−−注目!! etc.

  Rec.1970 ハンブルク州立歌劇場の上演に基づく映画化版
  ドリームライフ DVLC−1101(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
オペレッタ
“銀の時代”の魅力のところでも触れましたが、1918年のオーストリア・ハンガリー二重帝国の崩壊を目前に、1911年に初演されたリヒャルト・シュトラウスのオペラ「ばらの騎士」が“去り行く絢爛たる時代への回顧的レクイエム”であるとするなら、1925年に初演されたアルバン・ベルクのオペラ「ヴォツェック」は、“来たるべき混沌の時代への予見的レクイエム”であると言えるでしょう。この2つのオペラは、20世紀の傑作です。さて、このDVD映像ですが、歌劇場ライブではなく、ハンブルク州立歌劇場の上演に基づく映画化版です。わずかな画像ノイズが見られますが、ほとんど気にならない程度で、全般に優れたカラー画質が保たれています。ただし音はモノラル(比較的鮮明です)。上下・左右・遠近随意に展開されるカメラワークが非常に優れていて(しかも作為を感じさせない!)、映像作品として見事な仕上がりとなっています。ヴォツェック役のトニ・ブランケンハイムは、朴訥・不器用にしていささか神経質な役柄を、まさにこれぞヴォツェックと思わせる歌と演技で納得させてくれます。さらにマリー役がセーナ・ユリナッツであるだけでも嬉しいのに、その上に好演とくれば、もうたまりません。1950年代の代表的オクタヴィアンであった彼女も、それから十数年を経て、いささか肉付きがよくなり、声も少し太くなったようですが(1921年生まれだから、50歳になろうとしている時です)、欲情と悔恨のせめぎあう役柄をつややかに演じています。ハンス・ゾーティンやクルト・モルといった次代の大物のほかに、1980年代のヴォツェック役として名を上げるフランツ・グルントヘーバー(1987年6月のアバド&ウィーン国立歌劇場公演がCDとLDになっていて、DVD化が待ち望まれます)が、チョイ役で出ているのも、ちょっとした楽しみです。現代音楽作曲・指揮の旗手であったブルーノ・マデルナ(1920−1973)の最晩年にあたりますが、モノラル録音が惜しいものの、十分鋭角的な「ヴォツック」を描き出しています。とにかく傑作オペラの名盤登場と言えるでしょう。

CDなら、これが一番!
 指揮:ヘルベルト・ケーゲル
 ライプツィヒ放送交響楽団
 ヴォツェック:テオ・アダム(Bs)
 マリー:ギゼラ・シュレーター(S) etc.
 Rec.1973.4 Live Leipzig's Kongresshalle
 Berlin Classics 0020682BC(輸入盤)2枚組



ジェローム・カーン「ショウ・ボート」(1927)
  原作:エドナ・ファーバー、脚本:ジョン・リー・メイヒン
  監督:ジョージ・シドニー
  音楽監督:アドルフ・ドイチェ
  マグノリア:キャスリン・グレイソン
  ジュリー:エヴァ・ガードナー
  ゲイロード:ハワード・キール
  アンディ船長:ジョー・E・ブラウン
  ジョー:ウィリアム・ウォーフィールド etc.
  1951年度作品
  ジュネス企画 JVD−3010(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
「ショウ・ボート」は、1929年(監督:ハリー・ポラード)、1936年(監督:ジェームズ・ホエール)、1951年(監督:ジョージ・シドニー)と、3度映画化されていますが、待望のDVD化は、その3度目のMGM製作カラー作品です。期待に違わぬ全編魅力に満ちた作品で、ジェローム・カーンのすばらしい音楽はもちろんのこと、各役者も適格な配役となっています。エヴァ・ガードナーの美しさ(歌は吹き替えだそうです)は絶品ですし、アンディ船長役のジョー・E・ブラウンがいい味を出しています。主役のマグノリア役のキャスリン・グレイソンは、お顔は好みではありませんが(アメリカの多岐川裕美といった感じ)、ゲイロード役のハワード・キールとのコンビによる有為転変の人生は、彼女の表情を少しずつ成長させていきます。子役の踊りも見事です。そしてウィリアム・ウォーフィールドが歌う「Ol’Man River」の深い味わい(そこはかとなく表現された悲しみ)も心に沁みます。と同時に、この歌が映画全編の主題としても全体を引き締めていることに、あらためて気付かされます。素敵な作品です。

CDについては、深入編をご覧下さい。

コール・ポーター「キス・ミー・ケイト」(1948)
  脚本:ドロシー・キングスレー
  監督:ジョージ・シドニー
  音楽監督:ソウル・チャップリン、アンドレ・プレヴィン
  リリー・キャサリン:キャサリン・グレイソン
  フレッド・ペトルーシオ:ハワード・キール
  ロイス・ビアンカ:アン・ミラー
  リピー:キーナン・ウィン
  グレミオ:ボビー・バン
  ビル・ルセンシオ:トミー・ロール etc.
  1953年度作品
  ワーナー・ホーム・ビデオ DL−65088(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
ジェローム・カーン、そしてジョージ・ガーシュウィンを継ぐアメリカン・ミュージカルの才人コール・ポーターの名作。シェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」を基にしていますが、舞台公演と舞台裏を重ねて同時進行させ、舞台上の本番公演で舞台裏のトラブルが芝居と重なるという、レオンカヴァッロ「道化師」さながらの展開もありますが、こちらは「So In Love」はじめポーターの名曲に加えて、タップ・ダンスでも見せ場たっぷりのコメディです。上の「ショウ・ボート」同様、ジョージ・シドニー監督、キャサリン・グレイソンとハワード・キールのコンビによるこの映画。「ショウ・ボート」ほどの深みは無いものの、オペレッタから着実に引き継がれた上質のエンターテイメントがあることは間違いありません。

★★★
ヴィクトリア・パレス・シアター(ロンドン)における2003年8月20−23日のライヴが映像化されました。台本は上の映画と基本的に一致していますが、細部には改変もうかがえます。なによりこの映像の魅力は、キャストの充実にあります。主役はもちろんのこと、脇役まで個性的なキャラクターがそろい、これらの人々の存在だけでも十分に楽しめます。また嬉しいことに、この舞台では、オペレッタから発展・継承されたミュージカルという姿を実感することが出来ます。劇中劇の巧みな現実との絡ませ方はもちろん、すれ違い、意地の張り合い、そして芽生える素直な愛の心、一方で2人のギャングが道化役で立ち回ったり、バレエをふまえた適度なダンスもあり(1970年代以降のミュージカルは、歌から踊りへと比重が移っていて、もはやオペレッタとのつながりを感じることは出来ませんから)、どこをとってもオペレッタからミュージカルへと続く要素をふんだんに取り入れた舞台を見て取ることが出来るのです。このような舞台が21世紀になっても高い質で上演されていることが、何よりも喜びと言えるかもしれません。
  演出:マイケル・ブレイクモア、装置:ロビン・ワーグナー、衣裳:マーティン・パクレディナス、
  照明:ピーター・カーチュオロフスキ、振付:キャスリーン・マーシャル
  リリー・キャサリン:レイチェル・ヨーク
  フレッド・ペトルーシオ:ブレント・バレット
  ロイス・ビアンカ:ナンシー・アンダーソン
  グレミオ:ニック・ウィンストン
  ビル・ルセンシオ:マイケル・ベレッセ etc.
             TDK CORE TDBA−0099(国内盤) 画面サイズ16:9



ジョージ・ガーシュウィン「巴里のアメリカ人」(1951)
  原作・脚本:アラン・ジェイ・ラーナー
  監督:ヴィンセント・ミネリ
  音楽監督:ジョニー・グリーン、ソウル・チャップリン
  ジェリー・ミュリガン:ジーン・ケリー
  リズ:レスリー・キャスロン
  アダム・クック:オスカー・レヴァント
  富豪ミロ:ニナ・フォック etc.
  1951年度作品
  ワーナー・ホーム・ビデオ HS−56273(国内盤) 画面サイズ4:3
★★★
1951年度アカデミー賞で作品賞、オリジナル脚本賞、カラー撮影賞、カラー美術監督・装置賞、ミュージカル映画音楽賞、カラー衣装デザイン賞の6部門を受賞した「巴里のアメリカ人」は、ジョージ・ガーシュウインの名曲をちりばめたハリウッド・ミュージカル映画。パリの売れないアメリカ人画家(ジーン・ケリー)が2人の女性の間で繰り広げる恋物語、そしてガーシュウィン・ナンバーで繰り広げられる歌と踊り、というと陳腐ですが、一番のお薦めは、チャプター6なのです。この部分だけで、この作品は絶対のお薦めなのです。それは、ガーシュウィンによって書かれたワルツ「By Strauss」。アイラ&ジョージ・ガーシュウィンと親交のあったヴィンセント・ミネリの依頼により、1936年のレヴュー「ザ・ショー・イズ・オン」のために作曲されたこの「By Strauss」を、ヴィンセント・ミネリは自らが監督した「巴里のアメリカ人」でも、再度用いているのです。売れない画家ジェリーと売れないピアニストのクックという2人のアメリカ人と、売れているフランス人歌手アンリが、ジャズがいいかワルツがいいかを張り合うナンバーで、3人の歌は、カフェと路上の人々を巻き込んでダンスへと発展していきます。この場面の、何と至福のひと時であることか。ミュージカルの最も上質な一場面を味わうことが出来るのです。

<お薦め本>
 アラン・ジェイ・ラーナー(千葉文夫・星優子・梅本淳子訳)
   『ミュージカル物語−オッフェンバックから「キャッツ」まで』(筑摩書房,1990年4月)
『マイ・フェア・レディ』 『キャメロット』の作詞・脚本で知られるA・J・ラーナーが、才筆を揮って描くミュージカルの栄光の歴史。音楽劇の父オッフェンバックから今日の流行に至るまで、喜びと楽しさにみちたミュージカルの世界の歩みを、印象深いエピソードとともに浮き彫りにする。(本カバーの解説)

フレデリック・ロウ「マイ・フェア・レディ」(1956)
  原作:バーナード・ショー、脚本:アラン・ジェイ・ラーナー
  監督:ジョージ・キューカー
  音楽総監督:アンドレ・プレヴィン
  イライザ:マーニー・ニクソン(オードリー・ヘップバーンの吹き替え)
  ヒギンズ:レックス・ハリスン
  アルフレッド・ドリトル:スタンレー・ハロウェイ etc.
  1964年度作品
  ワーナーホームビデオ DL−16668(国内盤) 画面サイズ16:9
★★★
……とくれば、これも出すしかないでしょう。「マイ・フェア・レディ」は、音楽もストーリーも、ミュージカルの中ではもっともオペレッタの伝統を引き継いでいると思います。身分の違いが話の柱になっているし、上流階級の人々に一泡吹かせるなどの喜劇性や、そして、ちゃんとワルツ(「The Embassy Waltz」)もあるし。そういえば作曲のフレデリック・ロウは1904年ウィーン生まれです。ウィンナ・オペレッタを体感しているはずです。繰り返しましょう、オペラだろうとオペレッタだろうと、そしてミュージカルだろうと、素敵な音楽劇は、みんな心を豊かにしてくれるのですから。なお、このDVDには、お蔵入りしたオードリー・ヘップバーン自身の歌による2シーンがボーナス・トラックとして収録されています。「Wouldn't It Be Loverly」、「Show Me」の2曲です。1964年度のアカデミー賞で作品賞、主演男優賞(ハリスン)、監督賞、カラー撮影賞、カラー美術監督・装置賞、音響賞、編曲賞、カラー衣装デザイン賞の8部門を受賞しました。

CDについては、深入編をご覧下さい。

66


−−−以下はNHKで放映されたもの。DVDでの製品化を切望しています。−−−

レハール「メリー・ウィドウ」
  演出:ジョルジュ・ラヴェリ
  指揮:アルミン・ジョルダン、パリ・国立オペラ座管弦楽団、合唱団、バレエ団
  ハンナ・グラヴァリ:カリタ・マッティラ(S)
  ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ボー・スコウフス(T)
  ヴァランシエンヌ:アンリエット・ボンドハンセン(S)
  カミーユ:ミヒャエル・シャーデ(T)
  ツェータ:ワルデマール・クメント(T) etc.
  Rec.1997.12.31 Live パリ・オペラ座(ガルニエ宮)
★★★
DVDと同じくジョルダン盤。ただしDVDはフランス語上演でしたが、こちらは原語上演。キャストは段違いのハイレベルです。とりわけハンナ役のカリタ・マッティラはお気に入りの深みのある声で、芝居がすすむほどに風格のある色気を出していきます。ダニロ役のボー・スコウフスも、意地を張ってはみても結局一枚上手のハンナに翻弄され、あらためてハンナに惹かれていくという、なんともダニロチック(と勝手に造語してしまった)な、実にいい味を出しています。ハンプソンと並ぶ現代の名ダニロだと思います。1995年録音のガーディナー&ウィーンpoのDG盤CDよりもこちらの方が、よりうまみが増しています。演出も人の動きはいいのですが、ただ舞台装置は今ひとつ冴えません。特に第2幕で舞台下手半分に垂れている幕は抽象でも具象でもなく中途半端な感を抱きました。第3幕マキシムの雰囲気は良かったし、全体にいい演奏だっただけに残念です。

カールマン「チャールダーシュの女王」
  演出:イムレ・ハラシ
  指揮:カタリン・ヴァーラデイ
  ブダペスト・オペレッタ劇場管弦楽団、合唱団
  シルヴィア:ジュジャ・カロチャイ
  エドヴィン:イシュトヴァーン・コヴァーチハージ
  ボーニ:ラースロー・チェレ
  シュタージ:オズヴァルド・マリカ
  フェリ:フリジュシュ・ハルシャーニ
  ミシュカ:イシュトヴァーン・ミコー etc.

  Rec.1999年2月28日 東京渋谷・オーチャードホール
★★★
1999年来日公演をNHKが収録。これはBS2ではなく教育テレビで90分に抜粋されて放映されました。ブダペスト・オペレッタ劇場ならではの乗りのよさは、「メリー・ウィドウ」以上にこの「チャールダーシュの女王」で本領発揮です。オペレッタを楽しませることにかけては、この劇場にまさるものはないかもしれません。この劇場のプリマ・ドンナであるジュジャ・カロチャイのやや細いながらも澄んだ声と個性的な風貌も印象に残りますが、とりわけボーニ役のラースロー・チェレの名脇役ぶりは特筆に価します。このオペレッタは、実は主役のシルヴィアとエドヴィン以上に、ボーニという個性的役柄をどう演ずるかが鍵になっています。その点、このラースロー・チェレは、主役を支えると同時に存在感をたっぷりと示し、かつ見事なスパイス役を果たしています。またこの劇場の売りの1つであろう小柄なオズヴァルド・マリカの、歌って踊っての大熱演も見所です。とにかく音だけでは決して伝えられないオペレッタの、オペレッタならではのエンターテイメント性を存分に伝えてくれる上演です。教育テレビでの抜粋放映の後、BS2で全曲放映があったようですが、見逃してしまいました。残念無念。



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このページで流れているMIDI は、
レハールの「メリー・ウィドウ」から愛の二重唱“唇は黙し”です。
演奏時間は3分02秒です。
ホームページ新感覚クラシック音楽ページ ICの提供です。


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