オペレッタCDの推薦盤

<堪能編>



お気に入りのナンバーが見つかったら、
そのナンバーの含まれる全曲を、通して聴いてみましょう。

なお、全曲といっても、台詞をどの程度収録するかで、
全体の収録時間はだいぶ異なります。

ここでは、
「こうもり」は別格として取り上げましたが、
他は“銀の時代”の名曲を
レハール、カールマンを中心に、厳選してみました。


★★★ オペレッタを知るために先ず聴いていただきたい名盤です。
★★   三ツ星をマスターし守備範囲を広めたいなら聴いてください。
★    オペレッタ・フリークになってしまったら聴いてください。

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* * 近 道 * *
J.シュトラウスU世 (1825-1899) オスカー・シュトラウス (1870-1954)
フランツ・レハール (1870-1948) エメリッヒ・カールマン (1882-1953)



J.シュトラウスU世「こうもり」

初演:1874年4月5日 ウィーン・アン・デア・ウィーン劇場

台本:カール・ハフナー&リヒャルト・ジェネ

あらすじ:
<第1幕>税務署員を侮辱したかどで禁固刑を言い渡され、収監される運命にあるアイゼンシュタイン。友人ファルケ博士がやって来て留置場に入る前に一騒ぎしようと、オルロフスキー公爵の夜会に誘われ、妻ロザリンデに内緒で出かける。かねてロザリンデに懸想していたアルフレートは、アイゼンシュタインがてっきり留置場にいると思い、その隙にロザリンデ会いにやってくるが、ちょうどその時収監にやって来た刑務所長に勘違いされて彼が刑務所へ行くはめに。
<第2幕>華やかなオルロフスキー家の舞踏会に、正体を偽って参加したアイゼンシュタインは、自分の家の女中アデーレに似ている女優オルガに興味を持ち、ちょっかいをかける。それを、実はそこに来ていた妻ロザリンデに見られてしまう。妻もハンガリーの伯爵夫人と偽り、仮面をつけて参加していたのだ。それぞれがそれぞれに探りを入れながら宴が進むうちに、真夜中を知らせる鐘が鳴り、アイゼンシュタインは留置場へと出頭していく。
<第3幕>留置場にやって来たアイゼンシュタインは、アルフレートが自分の身代わりとして収監されていることに驚き、弁護士になりすまして接見し、事情を聞き出す。ちょうどその時妻ロザリンデもやって来たので、妻の不貞をなじろうとしたところで、登場人物全員のお出まし。すべては、かつて恥をかかされたファルケが仕返しにと仕組んだ茶番劇であったと説明。最後に「シャンパンが悪酔いさせたのね」を合唱して幕が閉じる。
指揮:ブルーノ・ザイドラー・ウィンクラー
ドイツ・グラモフォン管弦楽団、ベルリン王立歌劇場合唱団
アイゼンシュタイン:ロベルト・フィリップ(T)
ロザリンデ:エミリ・ヘルツォック(S)
アデーレ:マリー・ディートリッヒ(S)
ファルケ:マックス・ベゲマン(Br)
オルロフスキー公爵:シーレ・ミュラー(Ms)
アルフレート:ジュリウス・リーバン(T)
刑務所長フランク:アルフレッド・アーノルド(Br) etc.
Rec.1907 
ケンレコード WCD13(国内盤)MONO

全曲の世界初録音。ライナー・ノート(郷多朗氏執筆)によると、「G&T(グラモフォン・アンド・タイプライター)の78回転(SP)レコード28面」に録音されたものをCD1枚に収めたもの。ただしCD1枚の収録限界により、序曲のみ同じ指揮者のベートーヴェン:交響曲第9番の世界初全曲録音盤の方に収録されています。2枚組になってもいいから、序曲から始まる製品として出してほしかったです。エミリ・ヘルツォック(S)、ロベルト・フィリップ(T)らヨハン・シュトラウス生前に舞台で歌っていた人たちの声が聞けるという、驚くべき資料的価値あるCDとして、興味のある方は是非お聞きください。台詞付きで、舞台の雰囲気を一層高めています。音質は100年近く前の録音にしては想像以上に良好な状態です。

指揮:クレメンス・クラウス
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
アイゼンシュタイン:ユリウス・パツァーク(T)
ロザリンデ:ヒルデ・ギューデン(S)
アデーレ:ヴィルマ・リップ(S)
ファルケ:アルフレート・ペル(Br)
オルロフスキー公爵:ジークリンデ・ヴァーグナー(A)
アルフレート:アントン・デルモータ(T)
刑務所長フランク:クルト・プレーガー(Bs)
 etc.
Rec.1950.9 ウィーン・ムジークフェラインザール
UM−ロンドン POCL4062/3(国内盤’96−8)MONO 2枚組
NAXOS 8.110180−81
★★
モノラル時代のウィーン・フィルによる名盤として定評のあるもの。クラウス&ウィーン・フィルの能弁な活きのよさを堪能できます。歌手はすべてウィーンの人たちです。ロザリンデやアデーレといった女性陣も好調。ただユリウス・パツァークによるアイゼンシュタインは、端正すぎて弱い感じがします。アイゼンシュタインのお調子のよさや間抜けさを、過剰にならない程度に表現してほしいと思うのですが、ウーン……もの足りないのです。なお第2幕フィナーレにはワルツ「春の声」を使用しています。台詞部分は相当に省略されていますが、「こうもり」を音楽として楽しむCDと割り切れば、気にはなりません。もっとも第3幕の刑務所での場面は、ひとつの見せ所(笑わせ所)でもある看守フロッシュの台詞がなく、曲だけだとあっという間に終わってしまいますが。音質は良好なモノラルです。2002年5月、NAXOS Historical からも復刻されました。

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
フィルハーモニア管弦楽団、合唱団
アイゼンシュタイン:ニコライ・ゲッダ(T)
ロザリンデ:エリーザベト・シュヴァルツコップ(S)
アデーレ:リタ・シュトライヒ(S)
ファルケ:エーリヒ・クンツ(Br)
オルロフスキー公爵:ルドルフ・クリスト(T)
アルフレート:ヘルムート・クレプス(T)
刑務所長フランク:カール・デンヒ(Br)
 etc.
Rec.1955.4 ロンドン・キングズウェイ・ホール
EMI CLASSICS 7243 5 67153 2 5(輸入盤)、To−EMIクラシックス TOCE11377/8(国内盤’99−7)MONO 2枚組

カラヤンの旧盤。クラウス盤と並ぶモノラル期の名盤とされるものです。クラウス盤かカラヤン盤か、どちらをとるか? オケの雄弁さではクラウス盤のウィーン・フィルに軍配が上がりますが、歌手ではカラヤン盤の方が国際級をそろえています。と言っても、クラウス盤の歌手が聴き劣りするわけでもなく……。うーん、どちらかを選ぶなど無理な話です。ただし、第3幕は看守フロッシュの役者ぶりが見せ所ですが、この盤のフロッシュの吃音演技は、愉快を通り越して不快感を抱かせます。よって★はクラウス盤2つに対してカラヤン盤は1つとしておきましょう。

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団
アイゼンシュタイン:エーベルハルト・ヴェヒター(Br)
ロザリンデ:ヒルデ・ギューデン(S)
アデーレ:リタ・シュトライヒ(S)
ファルケ:ヴァルター・ベリー(Br)
オルロフスキー公爵:ゲルハルト・シュトルツェ(T)
アルフレート:ジュゼッペ・ザンピエリ(T)
刑務所長フランク:エーリヒ・クンツ(Br)
フロッシュ:ヨゼフ・マインラート etc.
Rec.1960.12.31 ウィーン国立歌劇場Live
RCA 74321 61949 2(輸入盤)MONO 3枚組
★★★
半年前の6月にもウィーン・フィルとスタジオでステレオ録音をして、豪華なガラ・パフォーマンスで有名ですが、こちらは大晦日の公演ライブ。残念ながらモノラル録音で、サウンドとしてはあまりお薦めできませんが、各幕ごとに1枚ずつ計3枚に収録されたこのCDは、オペレッタ実演の雰囲気を見事に伝えています。おまけに大晦日=ジルベスターという特別の日ですから、盛り上がりは最高潮に達しています。ヴェヒター、ギューデン、シュトライヒ、ベリー、クンツ……、という名を見るだけでワクワクしてきます。そんな舞台に、せめて音だけででも同席できるのです。しかも、ライブならではのガラ・パフォーマンスでは、ヴァルター・ベリーによる挨拶と紹介に続いて(何を言っているのか不明ながら、観客は熱狂しています。その雰囲気だけでも楽しくなってきます)、エーリヒ・クンツによる“ウィーンの辻馬車の歌”、ジュゼッペ・ディ・ステファノによる“オー・ソレ・ミオ”と“君こそ我が心のすべて”と繰り広げられます。また第2幕フィナーレにはポルカ「観光列車」を使用しています。第3幕のフロッシュ役のヨゼフ・マインラートも、何を言っているのやらさっぱりわかりませんが、大喝采!を受けています。さぞや当意即妙のギャグを乱発しているのでしょう。演技が、表情が、目に浮かんできます。この公演、ライナーノートに舞台写真が使われているので、ひょっとしたら映像があるのかも。是非見てみたいものです。とにかく幸せなひと時を味わえること、請け合いです。

指揮:カルロス・クライバー
バイエルン国立管弦楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団
アイゼンシュタイン:ヘルマン・プライ(Br)
ロザリンデ:ユリア・ヴァラディ(S)
アデーレ:ルチア・ポップ(S)
ファルケ:ベルント・ヴァイクル(Br)
オルロフスキー公爵:イヴァン・レブロフ(CT)
アルフレート:ルネ・コロ(T)
刑務所長フランク:ベンノ・クシェ(Bs)
 etc.
Rec.1975.10 ミュンヘン・ヘルクレスザール
DG 457 765−2(輸入盤)、UM−グラモフォン POCG30141/2(国内盤’00−1)
2枚組
★★★
名盤中の名盤。「こうもり」はこれ1枚でいいといっても過言ではありません。これでオケがウィーンpoだったら、というのは贅沢というもの。クライバーの指揮は、ちょっと厳しすぎる面もなくはないけど、音楽のドライブ感は、やはり彼ならではです。オペレッタ“銀の時代”の作品をこうやられたら絶対に許せないでしょうが、“金の時代”はこうでなくっちゃ、と思ってしまうほどの一気呵成の妙義。さらに、よくぞオルロフスキー役を通常のメゾ・ソプラノもしくはアルトではなくイヴァン・レブロフにしてくれました! 彼のファルセットボイスが、これまた絶品です。耳だけで楽しませてくれる点で、彼の起用は成功と思います。もちろん他のキャストにもスター級歌手をそろえているだけのことはあり、それぞれすばらしい出来です。なお第2幕フィナーレにはポルカ「雷鳴と電光」を使用しています。なお、映像で楽しむなら、同じクライバー指揮バイエルン国立歌劇場によるDVD盤(1986年収録)があります。ただしキャストは全く異なります。
 →映像編をご覧下さい。


オスカー・シュトラウス「ワルツの夢」

初演:1907年3月2日 ウィーン・カール劇場

台本:フェリックス・デルマン&レオポルド・ヤコブソン

あらすじ:時は1900年、北ドイツにあるフラウゼントゥルンという架空の国でのお話。
<第1幕>大公ヨアヒムの娘ヘレネの結婚式が行われている。相手はウィーンの伯爵とは名ばかりの陸軍中尉ニーキ。ヘレネ姫ともウィーンで出会った。しかし、この結婚を歓迎していないのが、ヘレネと結婚して自分の次期大公をねらっていたローター伯爵。そこで彼はニーキに、身分の低い貴族であるのにお前が結婚できたのは、ただの種馬としか見られていないからだと、そそのかす。それを聞いたニーキは失望してしまい、花嫁の寝室に入ろうとしない。そしてちょうどウィーンから来ていた楽団の奏でるワルツを耳にし、ウィーンが恋しくなり出かけてしまう。この時歌われる「花の香りが漂う庭園で」が美しい。それを見ながらほくそ笑むのはローター伯爵。
<第2幕>町へ出たニーキは、そこでウィーンの楽団女指揮者フランツィと出会い、2人は少しずつ恋に芽生えていくが、ヘレネ姫もニーキを探しにやってくる。ヘレナ姫はニーキがウィーンを恋しがっているのならと宮廷と自分をウィーン風に仕立てようと思い、ニーキと恋仲とも知らず、よりによってフランツィに教えを乞う。
<第3幕>ヘレナ姫のひたむきさに心を打たれ、ニーキの幸せのためには自分が身を引くしかないと考えたフランツィは、ヘレナとニーキの間をとりもつ決心をする。そして自分の恋は「ワルツの夢」だったと言いきかせる。

とことんウィーン優位を歌い上げるため、プロイセンに負けたウィーンの人々の感情が移入され、人気を博した作品だとか。しかしそれだけではなく、話として単なるどたばた喜劇に終始しない、この切ない恋が甘いウィンナ・ワルツにのって歌われていくところにこそ、“銀の時代”の魅力があると言えます。レハールの「ロシアの皇太子」も同じような展開となる。ちなみにオスカー・シュトラウス(Straus)とヨハン・シュトラウス(Strauss)には血縁関係はありません。
指揮:ヴィリー・マッテス
グラウンケ交響楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団
ヘレネ姫:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
ニーキ中尉:ニコライ・ゲッダ(T)
フランツィ:エッダ・モーザー(S) etc.
Rec.1970.4 ミュンヘン
EMI CLASSICS 7243 5 65965 2 8(輸入盤)
★★★
このCDの指揮者ヴィリー・マッテス。1916年ウィーン生まれ。以下のCDでもたびたび出てきますが、実にすばらしい指揮者です。音楽雑誌の指揮者名鑑で取り上げられているのを見たことがないのですが、これもオペレッタを低く見ているが故なのでしょうか。もちろんローテンベルガー、ゲッダの主役コンビも文句なし。“ワルツの夢”ならぬ“オペレッタの夢”を見事につむぎだしています。


フランツ・レハール「メリー・ウィドウ」

初演:1905年12月30日 アン・デア・ウィーン劇場

台本:ヴィクトル・レオン&レオ・シュタイン

あらすじ:舞台は20世紀初頭のパリ。
<第1幕>小国ポンテウェドロのフランス公使をつとめるツェータ男爵宅では、祖国の君主の誕生を祝う会を開かれている。そこでは、様々な招待客が、それぞれ夫または妻の目を盗んで、ひと時のアバンチュールを楽しもうとしている。主人ツェータ男爵の若き妻ヴァランシェンヌもまたしかり。パリの伊達男カミーユ・ド・ロションとおあつい関係。そんなことも露知らず、主人ツェータ男爵には悩みが。まもなく訪れるハンナ・グラヴァリは祖国の富豪の未亡人。彼女の莫大な財産目当ての男たちが、未亡人を狙っている。しかし、もし彼女が他国の人と再婚してしまったら、彼女の財産も流出してしまう。そうなれば、小国ポンテウェドロはもはや破綻まちがいなし。それゆえ何としても故国の男との結婚を画策しなければならない。そこで白羽の矢があたったのが、お気楽な伯爵ダニロ・ダニロヴィッチ。独身生活を謳歌している彼は、毎日キャバレー「マキシム」に入り浸り、パリジェンヌに囲まれてご満悦。もっとも、かつてハンナとダニロは恋仲だったが、貴族であるダニロと平民であったハンナとの結婚はかなわなかったのだ。ところが今や、ハンナの方がはるかに裕福。だからこそ、それが目当ての男どもを尻目に、金目当てと見られることに耐えられない自分はハンナに結婚を申し込むことなどできないと、意地をはっている。そしてやけっぱちのマキシム通いなのであった。一方ハンナも、ダニロから愛していると言われない限り、意地でもこちらから気があることは見せられない。
<第2幕>一転、ハンナ邸にて。祖国の歌と踊りが繰り広げられる中、互いに惹かれつつ、意地を張り合ってはぶつかる2人に、カミーユとヴァランシエンヌのアバンチュールが絡み、四つ巴、いやツェータ男爵も加わって五つ巴?のてんやわんやが繰り広げられ、ますます誤解を招いていく。失意のうちに「昔王子と王女がおりました」で自分とハンナとの関係を揶揄し、マキシムへと去っていくダニロ。そんなダニロの自分への愛を確信するハンナ。
<第3幕>マキシム風に仕立てたハンナ邸にて。この前の誤解を解こうとするハンナ。そうであったとしても、ハンナの財産の前に決して求婚しようとしないダニロ。結局最後は落ち着くところに落ち着くのだが、ちょっとした落ちがシャレていて、それは見てのお楽しみということで、種明かしするのはよしておきましょう。

第2幕冒頭でハンナによって歌われる「妖精ヴィリアの歌」(ちなみに、この歌の内容自体を題材にして、プッチーニはオペラ第1作「妖精ヴィルリ」を1884年に作りました。1時間ほどの作品ですが、すでにメロディーメーカーの才能が遺憾なく発揮されています。マゼール盤あり。つまり「メリー・ウィドウ」は、プッチーニを敬愛していたレハールによる、プッチーニへのトリビュート作品と言えるかもしれません)をはじめ、カミーユとヴァランシエンヌによる二重唱「バラの蕾が」と「あそこに小さな東屋が」(ここが一番甘美な場面です。場面的には、これはモーツァルトの「フィガロの結婚」第4幕を想起させます)、ハンナとカミーユができてしまったと勘違いしたダニロによって歌われる失望の歌「昔王子と王女がおりました」、そして終幕のハンナとダニロによる二重唱「唇は黙し」など、名旋律がもったいないくらいに次から次へと繰り出してきます。やはり間違いなくオペレッタの最高傑作と言えるでしょう。
指揮:オットー・アッカーマン
フィルハーモニア管弦楽団、合唱団
ハンナ・グラヴァリ:エリーザベト・シュヴァルツコップ(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:エーリヒ・クンツ(T)
ヴァランシエンヌ:エミー・ルーゼ(S)
カミーユ:ニコライ・ゲッダ(T)
ミルコ・ツェータ男爵:アントン・ニースネル(Br) etc.
Rec.1953.4 ロンドン・キングズウェイホール
EMI CDM 7 695202(輸入盤)MONO

マタチッチ盤より9年前、シュヴァルツコップ37歳の時の録音。さすが若々しい美声です。気になるのはエーリヒ・クンツのダニロ。彼の登場場面で音を4度下げて歌っています。音域上の理由なのでしょうが、やはり違和感が先立ち、興をそいでしまいます。もっといえば、これは「メリー・ウィドウ」ではないようにさえ聞こえてしまうのです。音域上の問題なのだとすると、なぜ無理に4度下げをやってまでクンツを使ったのでしょうか。しかも、やや甘ったるい歌唱も、あまり気に入っていません。一連のシュヴァルツコップのEMIへのモノラル録音のひとつとして、世評では高く評価されていますが、アルバムとしては疑問を感じる一枚です。シュヴァルツコップを聴くCDでしょう。ちなみにCAPRICCIOからヨッヘン・コワルスキーのオペレッタ名曲集が出ていますが、そこでも同じ事がなされていました。

指揮:ロベルト・シュトルツ
ウィーン国立歌劇場管弦楽団、合唱団
ハンナ・グラヴァリ:ヒルデ・ギューデン(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ベル・グルデン(T)
ヴァランシエンヌ:エミー・ローゼ(S)
カミーユ:ヴァルデマール・クメント(T)
ミルコ・ツェータ男爵:カール・デンヒ(Br) etc.
Rec.1958 ウィーン
DECCA 458 549−2(輸入盤)2枚組、UM−デッカ POCL90069(国内盤’98−12)
★★
輸入盤の方は台詞入り2枚組全曲盤。ウィンナ・オペレッタの大御所(作曲家として指揮者として)ロベルト・シュトルツ、「メリー・ウィドウ」の初演指揮者でもあります。しかも冒頭にシュトルツ編曲による序曲が収録されています。これがまるでブロードウェイ・ミュージカル風の仕上がりになっているところ、シュトルツという人の個性がうかがえる点でも、興味ある盤です。表記はウィーン国立歌劇場管弦楽団となっていますが、たぶんシュターツオパーではなくフォルクスオパーの方でしょう。往年の名オペレッタ歌手による、古き良き時代のローカルな名演というところでしょうか。録音はステレオですが、やや古びています。輸入盤1枚目「メリー・ウィドウ」第1幕の前に、「ルクセンブルグ伯爵」ハイライトが約30分収録されています。ヒルデ・ギューデン&ヴァルデマール・クメントのコンビで、マックス・シェーンヘル指揮ウィーン・フォルクスオパーによる1966年録音のもの。これが実は、とてつもなく名演です。余白収録には惜しい、むしろこちらが買い、と言っていいくらいの、名曲の粋な名演となっています。一方、国内盤はハイライツ17曲となっていますが、セリフのカットがあるくらいで、ほとんど全曲収録といってよいでしょう。

指揮:ロヴロ・フォン・マタチッチ
フィルハーモニア管弦楽団、合唱団
ハンナ・グラヴァリ:エリーザベト・シュヴァルツコップ(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:エーベルハルト・ヴェヒター(Br)
ヴァランシエンヌ:ハンニー・シュテフェック(S)
カミーユ:ニコライ・ゲッダ(T)
ミルコ・ツェータ男爵:ヨゼフ・クナップ(Br)
ニエグシュ:フランツ・ベーハイム(T) etc.
Rec.1962.6 ロンドン・キングズウェイホール
EMI CLASSICS 7243 5 67367 2 6(輸入盤)、To−EMIクラシックス TOCE8583/4(国内盤’95−1)
2枚組
★★★
シュヴァルツコップは1953年にもオットー・アッカーマン指揮でモノラル録音していて、こちらも高く評価されています。このステレオ盤は、マタチッチらしく民族色豊かなリズムを生かして、スケール豊かに描いています。第2幕冒頭でのティンパニの強打など、一度聴いたら忘れられず、他の盤がさして強くたたいていなくても、自分の頭の中では、マタチッチ式強打で響いていることに気付くでしょう。ちなみに、この部分でマタチッチと同じように強打させているのは、ヴェルザー=メスト盤のみです。シュヴァルツコップの歌は、「フィガロの結婚」の伯爵夫人、「ばらの騎士」の元帥夫人と並ぶ気品に溢れたハンナを演じています。ヴェヒターのダニロも、ちょっと崩れた雰囲気が見事。「メリー・ウィドウ」で真っ先にお薦めすべきCDではあるでしょう。個人的見解は下のワルベルク盤のコメントを見てください。

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
ハンナ・グラヴァリ:エリザベス・ハーウッド(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ルネ・コロ(T)
ヴァランシエンヌ:テレサ・ストラータス(S)
カミーユ:ヴェルナー・ホルヴェーク(T)
ミルコ・ツェータ男爵:ゾルターン・ケレメン(Br)
ニエグシュ:カール・レナール(T) etc.
Rec.1972.2 ベルリン・イエス・キリスト教会
DG 435 712−2(輸入盤)、Po−グラモフォン POCG2870/1(国内盤’93−7)
2枚組

DG初のオペレッタ全曲録音としても話題になったそうですが、それが話題になること自体、やはりオペレッタに対する評価がうかがえます。オペレッタか否かが問題なのではなく、作品としての質が問題であるべきはずですから。これはウィーン国立歌劇場での上演についても言えることですが。カラヤンとベルリンpoの演奏は、比較的遅めのテンポとオーケストラの音のぎっしりと詰まった重厚感がむしろあだになり、重苦しく飽食気味の感を抱きます。テンポも遅すぎる部分が多々あります。エリザベス・ハーウッドは可もなく不可もなく、といったところ。ルネ・コロは同じテノールによるダニロでもニコライ・ゲッダに比べて軽い感じがし、オケの重みが余計にうっとうしく感じられてしまいます。また、やはりテノールだとカミーユとの差異があいまいになるのも問題です。一番いいのはテレサ・ストラータスのヴァランシエンヌ。後の「道化師」のネッダ役(プレートル盤、レヴァイン盤)や「ルル」のルル役(ブーレーズ盤)のイメージが強いだけに、ここでのさわやかさが意外です。カラヤン&ウィーンpoによる唯一のニュー・イヤー・コンサート(DG)の妖艶さを知るにつけ、この盤はちょっと期待はずれでした。世評の高い一枚ですが、カラヤンのオペレッタ観を知るためのCDと位置付けています。

指揮:ハインツ・ワルベルク
ミュンヘン放送局管弦楽団、バイエルン放送局合唱団
ハンナ・グラヴァリ:エッダ・モーザー(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ヘルマン・プライ(T)
ヴァランシエンヌ:ヘレン・ドナート(S)
カミーユ:ジークフリート・イェルサレム(T)
ミルコ・ツェータ男爵:ベンノ・クシェ(Bs)
ニエグシュ:ホルスト・ザックトレーベン(nar) etc.
Rec.1979.4 ミュンヘン・バイエルン放送局
EMI CLASSICS 7243 5 65381 2 2(輸入盤)、To−EMIクラシックス TOCE9560/1(国内盤’97−10)
2枚組
★★★
ダニロは、テノールが歌う場合とバリトンが歌う場合がありますが、やはりバリトンの方があっています。中でもこのヘルマン・プライの美声が一番のお気に入り。もっと崩れている方がダニロらしいとわかっていながら、それでも彼の声は深く印象に刻み込まれていきます。ハンナも深みのあるソプラノがふさわしいと思っていますが、その点、このエッダ・モーザーが今のところ一番適役と思います。しかも、カミーユがジークフリート・イェルサレム!! これは聞き逃せません。同じワーグナー歌手の起用といっても、カラヤン盤のルネ・コロによるダニロよりも、こちらの方が適材適所です。とにかく主役2人の声質だけをとっても、マタチッチ盤をおさえて、このCDが個人的には「メリー・ウィドウ」のベスト盤となっています。ワルベルクの指揮も、こなれたものです。

指揮:ルドルフ・ビーブル
ウィーン・フォルクスオパー管弦楽団、合唱団
ハンナ・グラヴァリ:ミルヤーナ・イーロッシュ(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ペーター・ミニッヒ(T)
ヴァランシエンヌ:ダグマール・コラー(S)
カミーユ:リシャード・カルチコフスキー(T)
ミルコ・ツェータ男爵:ヘルベルト・プリコーパ(T)
ニエグシュ:ルドルフ・ヴァッサーロフ etc.
Rec.1982.6 Live 東京文化会館
DENON COCQ85140/1(国内盤’98−12)2枚組

ウィーン・フォルクスオパー来日公演の記録。日本でのライブということで、適度に日本語を交えて楽しませてくれます。ルドルフ・ビーブルの指揮も、こういうのを“こなれた”と言うのでしょう、テンポ設定と変化を見事に表出していきます。残念なのは、1人1人の歌手は安定した歌唱を聞かせますが、男性の主要な役どころが皆テノールによって歌われ、またハンナとヴァランシエンヌの女性陣も声質がさして違わないため、アンサンブルという面で、視覚に訴える舞台では気にならないかもしれませんが、CDでの音だけの鑑賞の場合には、どうしても平板になってしまっています。

指揮:フランツ・ヴェルザー=メスト
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、グライドポーン合唱団
ハンナ・グラヴァリ:フェリシティ・ロット(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:トーマス・ハンプソン(Br)
ヴァランシエンヌ:エルズビエタ・シュミトカ(S)
カミーユ:ジョン・エイラー(T)
ミルコ・ツェータ男爵:ロパート・ポールトン(Bs) etc.
Rec.1993.7 Live ロイヤル・フェスティバルホール
EMI CLASSICS 7243 5 55141 2 7(輸入盤)、To−EMIクラシックス TOCE8414(国内盤’94−10)
★★★
ヴェルザー=メストのテンポは重くない程度にたっぷり歌わせたり軽快にドライブしたりと、なかなか良いです。ライブゆえの不揃いも若干ありますが、一方くだけた乗りの良さも楽しめます。といってもブダペスト・オペレッタ劇場盤のように完全収録ではなく、74分収録というところからもわかるように、3日分の公演からCDとしての編集がなされており、台詞も必要最小限におさえられ、執拗な繰り返し(があったかどうかはわかりませんが)もないので、拍手がなければライブとは思えません。録音状態も良好。聴き所の第一は、やはりトーマス・ハンプソンの名歌手はもちろんのこと名優ぶりでしょう。ハンナ役のフェリシティ・ロットは、カルロス・クライバー&ウィーン国立歌劇場の「ばらの騎士」(DGのDVD→映像編)で元帥夫人を歌っています。ここでもなかなか気品あるハンナとなっています。他の歌手たちのアンサンブルも見事です。CD盤としては他にもっと魅力ある盤もありますが、ぜひ映像で見てみたいという気を起こさせます。つまり上出来ということ。このCDを聴いていると、やはりオペレッタはライブでないとなあと、つい思ってしまうのです。

指揮:ジョン・エリオット・ガーディナー
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、モンテヴェルディ合唱団
ハンナ・グラヴァリ:シェリル・ステューダー(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ボー・スコウフス(Br)
ヴァランシエンヌ:バーバラ・ボニー(S)
カミーユ:ライナー・トロスト(T)
ミルコ・ツェータ男爵:ブリン・ターフェル(Br)
ニエグシュ:ハインツ・ツェドニク(T) etc.
Rec.1994.1 ウィーン・ムジークフェラインザール
DG 439 911−2(輸入盤)、Po−グラモフォン POCG1840(国内盤’95−2)
★★
ジョン・エリオット・ガーディナーがオペレッタを指揮したこと自体が驚きでした。でも聴いてみて全く違和感はありません。ウィーン・フィルもこの曲の初録音です。やはりこのオケのウィンナ・ワルツは絶品。これだけは、他のどんなオケもかないません。フォルクスオパーのワルツ・リズムも、ちゃんと変則的なウィーン訛りになっているのですが、シュターツオパーの場合、そこにさらに微妙な表情が、まさに絶妙に表出されるのです。スコウフスもいい味を出しています(ジョルダン指揮パリ・オペラ座1997年ライブの方がもっと印象に残りますが→映像編)。ただしハンナ役のシェリル・ステューダーの音程が不安定なところがどうしても気になり、玉に瑕で★2つどまりとします。

指揮:井ア正浩
ハンガリー国立ブダペスト・オペレッタ劇場管弦楽団、合唱団
ハンナ・グラヴァリ:ジュジャ・カロチャイ(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:フリジュシュ・ハルシャーニ(Br)
ヴァランシエンヌ:ユディト・デーネシュ(S)
カミーユ:イシュトヴァーン・コヴァーチハージ(T)
ミルコ・ツェータ男爵:ペツカイ・エンドレ(Br)
ニエグシュ:シルテシュ・ガーボル(Br) etc.
Rec.1997.6 Live 東京渋谷・オーチャードホール
ムジークレーベン MLOP−1001/2(国内盤’98−1)2枚組

同じ来日公演でも、ウィーン・フォルクスオパーのものと比べても、それはもう、とにかくはちゃめちゃなオペレッタを知るには絶好のCDです。来日公演のライブを完全収録。2000年1月の来日公演もほとんど同じキャストで、このCDを聴くたびに、その時の舞台がそのままの形で甦ってきます。日本語のダジャレや、しつこいまでに繰り返される反復もオペレッタの楽しみ。ただし舞台あってのことであり、音だけで聞くと、やはり冗長さを感じざるをえません。音楽としてではなく、オペレッタ舞台とはどういうものか、その雰囲気を窺い知るために聴くCDでしょう。なお、原語のドイツ語ではなく、ハンガリー語で演じています。

指揮:ヘルムート・フロシャウアー
ケルン放送交響楽団、ジーゲン・フィルハーモニー合唱団
ハンナ・グラヴァリ:パメラ・コバーン(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ミヒャエル・ヘルトウ
ヴァランシエンヌ:カトリナ・リヒター(S)
カミーユ:ジョアン・ホセ・ロペラ(T)
ミルコ・ツェータ男爵:カール・フェース
ニエグシュ:エルンスト・H・ヒルビッヒ etc.
Rec.1997.11 クラウス・フォン・ビスマルク・ザール
CAPRICCIO 60 077−2(輸入盤)2枚組

「Original version」となっています。一番の特色は、第3幕Zwischenspiel(間奏曲)約3分があることです。もちろん「メリー・ウィドウ」中の曲を数曲つないでいるだけですが、しっとりとした雰囲気にまとめています。ガーディナー指揮の「WIENER SOIREE」(DG)に収められている“Ballsirenen”(約7分、昨年のウィーン国立歌劇場来日公演でも、第3幕間奏曲としてこの曲が演奏されました)が「メリー・ウィドウ」おなじみのメロディを立て続けに華やかに演奏するのと好対照です。ちなみに当CDにも最後に“Ouverture(1940)”という表記で8分15秒の曲が演奏されています。上記“Ballsirenen”とは構成上は類似していますが、同じではありません。他のいくつかの部分にもオーケストレーションに微妙な違いがあるように聴こえますが、Original versionゆえなのか、録音によるのか、それとも指揮者の指示ゆえなのかは、判断がつきません。1933年生まれのフロシャウアーは、スワロフスキー門下で、ウィーン楽友協会合唱団指揮者としてカラヤンとの共演を数多く残した合唱畑の指揮者。テンポは中庸、しかしオーケストラを見事にドライブして表情をつけています。ただ、このCDもアッカーマン盤と同じくダニロ登場場面で音を4度下げて歌っています。「Original version」と銘打っているので、もしこの4度下げたほうがオリジナルだとすると、ちょっとショックです。どうしても違和感を拭い去れないので。このダニロ役のミヒャエル・ヘルトウは、むしろツェータ男爵をやった方が似合っているような声質で、ちょっと年を取りすぎているダニロです。歌手というより、役者が歌も歌っているという感じです。CDの解説によると、どうも本業は役者のようです。全体としても台詞をかなり収録しており、演劇性をねらったCDと言えるかもしれません。他の歌手も、まずまずといったところです。

<ハイライト盤>
指揮:ヴィリー・マッテス
グラウンケ交響楽団、バイエルン放送合唱団
ハンナ・グラヴァリ:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ニコライ・ゲッダ(T)
ヴァランシエンヌ:エリカ・ケース(S)
カミーユ:ロベルト・イロスファルヴィ(T) etc.
Rec.1967.6 ミュンヘン・ビュルガーブラウ
EMI CDM 7 69090 2(輸入盤)
★★
ハイライツ14曲、約45分収録。EMIはマッテスに数多くのオペレッタを録音させたのに、最もメインであるはずの「メリー・ウィドウ」はハイライトしか録音させていません。これは1962年のマタチッチというよりはシュヴァルツコップ盤のせいでしょうか。残念至極、痛恨の極みです。アンネリーゼ・ローテンベルガーのハンナはシュヴァルツコップに劣らぬ魅力を備えています。さらにマッテスのテンポ設定と表情づけも、いつもながら納得させられるものです。自分としてはダニロ役はバリトン派なのですが、テノールのゲッダは、豊かな表情をつけていて、しかも軽い声質のテノールでないだけに、納得させられる出来になっています。演奏内容としては★3つをつけたいところですが、「メリー・ウィドウ」の場合、CD1枚でほぼ全曲収録可能なことを考えると、ハイライト45分という収録内容では、やはり減点せざるをえません。減点の理由はそれだけで、演奏自体は★3つの価値が十分にあります。

指揮:Yvon Leenart
パリ音楽院管弦楽団、ルネ・デュクロ合唱団
パルミエリ夫人:Micheline Dax
ダニロ:Michel Dens
ナディア:Suzanne Lafaye
カミーユ:Andre Mallabrera
ポポフ男爵:Michel Roux etc.
Rec.1967.4/9 パリ・ワグラム・サル
EMI 7243 5 74094 2 1(輸入盤)2枚組
★★★
このフランス語による全曲盤はお薦めです。下に紹介したバリー・ワーズワース指揮、ニュー・サドラーズ・ウェルズ・オペラによる英語版ではその言葉の響きとメロディとの間に違和感がありましたが、このフランス語版はいけます。そもそも舞台がパリなので雰囲気が合っているということもあるでしょうが、レハールのメロディにこの盤のフランス語訳をうまく合わせているのでしょう。独語・仏語ともにわからないので、あくまで雰囲気と直感でしかないのですが。部分的にフランス語を優先してメロディ・ラインのリズムが変更されているところもあり、また登場人物名やダニロによって歌われるキャバレーの女たちに寄せる“ロロ、ドド、ジジュ、クロクロ、マルゴ、フルフル”という部分もフランス語名にかわっていますが、全曲を通して独語とは違った「メリー・ウィドウ」のもう一つの世界を表出しています。パルミエリ夫人(=ハンナ・グラヴァリ)は声が可憐すぎるきらいがありますが、ダニロのアウトロー的存在をはじめ、それぞれ名唱・名演技(台詞として)を繰り広げています。指揮のYvon Leenartとパリ音楽院管弦楽団も絶妙のフレンチ・サウンドでレハール・サウンドを再生しています。そう言えば、このオーケストラはアンドレ・クリュイタンスが1967年に亡くなった後、同年11月にパリ管弦楽団として再スタートしますから、このCDは、パリ音楽院管弦楽団としての最後の録音のひとつということになります。このことだけでも貴重な音盤と言えるのではないでしょうか。

指揮:ルドルフ・ビーブル
メルビッシュ祝祭管弦楽団、合唱団
ハンナ・グラヴァリ:マルガリータ・デ・アレラーノ
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:マティアス・ハウスマン
ヴァランシエンヌ:エリーザベト・シュタルツィンガー
カミーユ:マルワン・シャミーヤ
ミルコ・ツェータ男爵:アルフレッド・シュラメック etc.
Rec.2005.2 Kulturzentrum,Eisenstadt
OEHMS CLASSICS OC 530(輸入盤)
★★
この盤のハンナとダニロのコンビは、いずれも聴かせてくれます。いずれも太く深みのある声で、デュエットでも調和しています。ただ、ヴァランシエンヌも同じく深い声なので、ハンナとの区別がつきにくいのが難点です。ヴァランシエンヌはもっと軽くてチャーミングな声であってほしいと思います。ルドルフ・ビーブルの指揮は、カールマンではいまひとつのノリでしたが、このレハールでは練達の唄わせ方とテンポ設定、そしてオーケストラの楽器間のバランス処理において、「メリー・ウィドウ」演奏の、ひとつの(良い意味での)模範解答とも言える演奏になっています。ただし、模範的ということは、それだけ個性的な魅力にやや欠けるとも言えます。欲を言えば、音楽の勢いというか軽やかさがもう少しほしいところです。


フランツ・レハール「ルクセンブルグ伯爵」

初演:1909年11月12日 アン・デア・ウィーン劇場

台本:アルフレート・マリア・ヴィルナー&ロペルト・ボダンツキー

あらすじ:舞台は20世紀初頭のパリ。
<第1幕>ロシア大使館の参事バジール侯爵は、あるオペラ歌手に恋をしているのだが、彼女が貴族でないため結婚が認められない。そこで貧乏な貴族を買収して偽装結婚させ(もちろん同居などしないし名前も明かさない形だけの結婚という条件で)、彼女をまず貴族の一員に加えた上で、3ケ月後に離婚させ、晴れて自分の妻として迎え入れようと考える。そこで選ばれたのが没落貴族ルクセンブルグ伯爵ルネ。もちろん彼も大金が手に入るとあって承諾する。そして2人の間についたてを置き、互いに顔も合わせぬままに、公証人を立てての法律上だけの結婚式が始まる。
<第2幕>3ケ月がたち、約束の離婚の日の前夜のこと。翌日の再婚をひかえ、アンジェールはオペラ歌手引退のパーティを開催している。ルネもこの3ケ月名前を伏せパリからも離れていたが、その期日も迫り、前日に戻ってきた。そしてたまたまアンジェールの引退公演を見て感動し、このパーティーにやって来た。もちろん招待状がないのだが、入り口で押し問答をしていると、ちょうどアンジェールが出てくるが軽くあしらわれる。互いにまさか夫婦とも知らずに。そこへバジールもやって来て驚くので、ルネは何となく真相を察知する。そこで仮病を使って倒れこみ、介抱しようとするアンジェールの手を取ると、その手は確かに結婚指輪をはめたあの美しい手であることを確信する。そして明日離婚をする妻への思いがにわかに断ち難くなっている自分に気づく。一方のアンジェールも貴族になりたいがための結婚よりも真実の愛による結婚へと思いが変わり始めている。明日の結婚が嬉しくてたまらないバジールが真相をばらしてしまうが、逆にそれでは自分たちが本当に夫婦なのだと知って抱き合う2人……。
<第3幕>ココゾフ伯爵の未亡人スターシャなる人物がロシアからやって来る。彼女はバジールの初恋の人だったが、わけあってココゾフ伯爵と結婚した。しかし今や未亡人となり、再びバジールを尋ねてパリまでやって来たのだ。一方のバジールは、何とかしてルネとアンジェールの仲を裂こうとするのだが、そこへスターシャが登場するに及び……。さてさて、その後どのような展開で大団円のうちに幕が閉じられるかは、見てのお楽しみ。

売れない絵描きアルマンとその恋人ジュリエットが上記のお話に絡んで展開していくため、レハールの「ボエーム」とも言われますが、これはちょっと強引の感も。彼らはあくまでサブ・キャストですから。ただし音楽としては、第1幕冒頭のモンマルトルでの場面など、プッチーニの「ボエーム」(1896)第2幕のカルチェ・ラタンでの音楽の影響も強く感じます。プッチーニを敬愛していたレハールの、「メリー・ウィドウ」に続くトリビュート作品第2弾と見ることができるかもしれません。一番の聴き所は第1幕の終わり。結婚を前にアンジェールの歌う「今日から私は人妻になるのね」から、お互い誰とも知れぬ相手と結婚式をあげるルネとアンジェールによる「微笑みかける幸福よ」にかけての場面は、レハールの音楽の中で最も美しくてしかも楽しいものと確信しています。個人的にはレハール作品の中で最もお気に入りの作品です。
指揮:ヴィリー・マッテス
グラウンケ交響楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団
アンジェール:ルチア・ポップ(S)
ルクセンブルグ伯爵ルネ:ニコライ・ゲッダ(T)
バジール侯爵:クルト・ベーム(Br)
アルマン:ヴィリー・ブルクマイアー(T)
ジュリエット:レナータ・ホルム(S) etc.
Rec.1968.8 ミュンヘン
EMI CLASSICS 7243 5 65375 2 1(輸入盤)2枚組
★★★
マッテス指揮のもと、とりわけ第1幕の終わりで、ルチア・ポップとニコライ・ゲッダの何とも艶やかな二重唱が、偽装結婚であるにもかかわらず至福のひと時を迎えているという、オペレッタならではのコミカルでありながら甘い甘い恋の世界を、見事に描いています。聴いている者までも至福に包まれること間違いなし。それにしても、マッテスのテンポ設定はこのCDでも、どの場面をとっても完璧です。名曲の名盤として大切にしたいCDです。

<ハイライト盤>
指揮:ロベルト・シュトルツ
ベルリン交響楽団、Der Gunther Arndt−Chor
Rudolf Schoch,Ernst Krukowski,Claudio Nicolai
Margit Schramm,Lotte Schadle,Paul−Otto Kuster
Dietrich Lorenz,Martin Hopner(配役との対応は不明)
Rec.?
BMG eurodisc 74321 21356 2(輸入盤)
★★
ハイライツ13曲、約50分収録。ハイライツですが、主要曲はほとんど収録しているので、このオペレッタの、曲としての魅力を味わうには十分と言えるでしょう。ルドルフ・ショックのルクセンブルク伯爵はなかなか張りのある声で聞かせてくれますし、ロベルト・シュトルツの指揮もこなれた展開で、あっという間に50分が過ぎていきます。

指揮:ルドルフ・ビーブル 
メルビッシュ祝祭管弦楽団、合唱団
アンジェール:Ruth Ohlmann
ルクセンブルグ伯爵ルネ:Michael Suttner
バジール侯爵:Alfred Sramek
アルマン:Marko Kathol
ジュリエット:Ana-Maria Labin etc.
Rec.2006.3 Kulturzentrum,Eisenstadt
OEHMS CLASSICS OC 570(輸入盤)

毎年恒例のメルビッシュ音楽祭が、ついに「ルクセンブルク伯爵」を取り上げてくれました。愛すべき作品だけに期待は大きかったのですが……。どこに傷があるというのでもなく、部分部分に耳を傾けると充実した響きも聞こえてきますが、通して聞いていて、どうしても音楽の流れに乗れないのです。アンジェールとルネの偽りの結婚の場面のワルツなど、もっともっと愉悦に浸れるはずなのに、重い感じが残ります。メルビッシュ音楽祭のホームページで見ることの出来る舞台が実に洒落たものなので、映像としてはもっと楽しめるはず、とは思います。なお、「ルクセンブルク伯爵」のナンバーだけでなく、「エヴァ」からの“夢さえあれば”(トラック6)も取り入れていました。


「メリー・ウィドウ」と「ルクセンブルグ伯爵」からのハイライト集。「メリー・ウィドウ」はRUDOLF NEUHAUS指揮、ドレスデン・フィルパモニー管弦楽団、「ルクセンブルグ伯爵」はフランツ・バウアー・トイスル指揮、ウィーン・フォルクスオパーによる演奏。いずれも自然に楽しめる演奏になっています。(edel 00722CCC) 左が「メリー・ウィドウ」、右が「ルクセンブルグ伯爵」で、いずれもバリー・ワーズワース指揮、ニュー・サドラーズ・ウェルズ・オペラによる英語版ハイライト盤です。かつてオペレッタは、上演する地の言語で演じられました。イギリスなら当然英語です。でも、やはり違和感があるなあ。ワーズワースの指揮は遅めのテンポで、良くも悪くもノーブル。彼の指揮したロンドン交響楽団とのディーリアス管弦楽曲集(Collins盤13362)は、そのノーブルさがぴったりだったけど、この2枚では、物足りないですね、丁寧なオペレッタというのはね。「メリー・ウィドウ」(CDTER1111)は1986年6月、「ルクセンブルグ伯爵」(CDTER1050)は1983年3,4月のスタジオ録音です。 メラニー・ホリデイによる「メリー・ウィドウ」を中心にしたレハール名曲集です。オラ・ルードナー指揮、ウィーン国立歌劇場舞踏会オーケストラに、テノールのリシャード・カルチコフスキーとバリトンのヨーゼフ・ルフテンシュタイナーが共演しています。ぶりちょふ氏のお薦めにより入手しました。(カメラータ・トウキョウ 20CM−160)


フランツ・レハール「パガニーニ」

初演:1925年10月30日 ウィーン・ヨハン・シュトラウス劇場

台本:パウル・クネプラー原本をベーラ・イェンバッハが修正改訂

あらすじ:19世紀初め、ルッカ共和国でのお話。
<第1幕>カパンナーリ村のはずれ旅籠前の広場にて。パガニーニの弾くヴァイオリンのうまさに、村人たちがまるで悪魔の演奏だと言い合っている。パガニーニはルッカでの演奏会の練習をしているのだ。そこへアンナ・エリーザ公爵夫人(ナポレオンの妹)がお忍びでやって来る。彼女は夫フェリーチェ・バッキオッキ公爵がルッカ王立歌劇場のプリマ・ドンナであるベッラといずこへか行ってしまったのに腹を立てていたのである。そんな彼女にひと目ぼれしてしまったパガニーニは、自分の演奏会に招待する。そこへパガニーニのマネージャーをしているバルトゥッチがやって来て、何者かのせいで演奏会が中止になってしまったと告げる。怒るパガニーニ。村人に歓迎されながら再びアンナが登場し、パガニーニも彼女が妃殿下であることを知る。そこへちょうど夫フェリーチェ・バッキオッキ公爵がやって来るので、弱みを握っているアンナは夫に、パガニーニの演奏を許可するようにと迫る。仕方なく認めるバッキオッキ公爵。そして彼女に感謝してフィレンツェへ行ってしまおうと思っていたのを取りやめるパガニーニ。
<第2幕>ルッカ公爵の城内。パガニーニは王立歌劇場の総監督になっている。アンナがやって来て、最近パガニーニの自分への愛情が薄れているのではと詰め寄るので、彼は「君の甘いばら色の唇に」を歌ってご機嫌を取る。一方プリマ・ドンナのベッラも練習にかこつけてパガニーニとの逢引を言いかけてくる。それを見てバルトゥッチがパガニーニに、バッキオッキ公爵の奥方ばかりか愛人にまで手を出して大丈夫かと警告する。そこへナポレオンの使いがやって来て、妹アンナが一介のヴァイオリン弾きと噂になっていることを不快に思い、逮捕せよとの命令が出ていることを知らせる。アンナは、それは噂に過ぎないからと一蹴して舞台から下がる。そこへパガニーニがベッラを追いかけて登場し、ベッラから、アンナのために作った恋の歌の楽譜を自分に献呈してくれるならキスをしてもいいという誘いに乗ってしまう。と、ちょうどやって来たアンナはパガニーニを退出させ、ベッラにパガニーニとの関係について詰め寄る。するとベッラが自分の名を書いた恋の歌の楽譜を見せるので、アンナは怒り、演奏会終了後にパガニーニを逮捕することを許可してしまう。しかしその夜の演奏会でパガニーニの演奏に感動したアンナは、結局自分の手でパガニーニを逃がしてしまうのだった。
<第3幕>ルッカ公国の国境付近にて。パガニーニを追ってアンナもやって来る。そして一旦はパガニーニに戻ってきてもらおうとするのだが……。その後の結末がどうなるかについては、秘めておくこととしましょう。

ヴァイオリンの名手パガニーニを主人公に、事実もふまえながらのお話が、ソロ・ヴァイオリンの調べを巧み取り入れながら歌われる甘いメロディは、レハールの本領発揮といったところ。「灼熱の炎が私の血には流れているの」、「私は他に興味はないんだ」、「僕は女性たちに口づけしたけれど」、「私には分からない、信じられない」など、レハールの才能は尽きるところなし、といった感じです。
指揮:ヴィリー・ボスコフスキー
バイエルン交響楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団
ニコロ・パガニーニ:ニコライ・ゲッダ(T)
アンナ・エリーザ:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
フェリーチェ・バッキオッキ公爵:フリードリヒ・レンツ(Br)
ジャコモ・ピンピネッリ侯爵:ハインツ・ツェドニク(T)
ベッラ・ジレッティ:オリヴェラ・ミルヤコヴィッチ(S) etc.
Rec.1977.4/5 ミュンヘン・ビュルガーブラウ
EMI CLASSICS 7243 5 65968 2 5(輸入盤)2枚組
★★★
恋多き男の甘いささやき……。こういう役柄には、ニコライ・ゲッダはぴったりです。甘い甘いメロディを決して甘ったるくしてしまわないところに、彼のすばらしさがあると思います。名脇役ハインツ・ツェドニクも見逃せません。性格俳優よろしく見事に脇を固めています。そしてもちろん、アンネリーゼ・ローテンベルガーの可憐な声もいつもながら魅せられます。


フランツ・レハール「 ロシアの皇太子」

初演:1927年2月16日 ベルリン・ドイツ芸術劇場

台本ハインツ・ライヒェルト&ベーラ・イェンバッハ

あらすじ:
<第1幕>女嫌いの皇太子に頭を悩ませる叔父の大公と宰相は、とある作戦に出た。宮廷劇場の今夜の出し物に男装させた踊り子を出させる。そして舞台が終わった後、挨拶に行かせ、女とばれても何とかして皇太子のそばに居続けるように仕向け、女に慣れさせようと図るのだった。選ばれた美しい踊り子ソーニャは、皇太子の所に出向き、再び踊りを所望される。応じるソーニャに踊りにくいだろうから上着をとるように言う皇太子。上着をとれば女とばれてしまう。しかし拒むことのできないソーニャが上着を取ったため、皇太子は女であることに気づき怒る。仕方なくソーニャは宰相のたくらみを皇太子に打ち明け、皇太子もだまされたふりをして宰相をからかってやろうと仲良くしているふりをする。しかし女性と初めてひと時を過ごすうちに、すっかりソーニャの魅力にとりつかれてしまう皇太子。
<第2幕>女性への拒否もなくなったと判断した大公と宰相は、かねてからの計画通りミリッツァ王女との結婚を進めようと、ソーニャに役目が終わったことを告げる。そして自ら娼婦であると皇太子に告げるように言う。一方皇太子にもそのことを知らせたため、皇太子はソーニャをきびしく問い詰める。ソーニャはいったんは認める返事をするが、皇太子の怒りに耐えかねて、そう言うことがここにいるための条件だったことを白状してしまう。それを聞いて一層ソーニャへの思いを強める皇太子。
<第3幕>ナポリに逃れてきた2人の前に姿を表わした大公は、皇帝の容態がおもわしくないことを告げ、ソーニャとの別れと帰国を迫るが拒絶する皇太子。大公はソーニャに別れるよう頼み、ソーニャも自分が身を引くことが皇太子と彼の国にとって大切なことと悟り、自ら皇太子との別れを告げる。そんな折、皇帝の訃報を知らせる電報が届き、皇太子もソーニャとの別れを決意し去っていく。

悲しくも切ない別れのオペレッタ、やはり喜歌劇という訳ではそぐわないですね。お話だけで言えば、O.シュトラウスの「ワルツの夢」のヴァリエーションです。でも「ワルツの夢」の方が自己犠牲のせつなさがうまく表現できています。もちろん音楽に関しては、さすがレハール。ロシアの雰囲気をうまく取り込んで楽しませてくれます。「オペレッタに涙を入れた」と評されたレハールの、ベルリンに移ってからの名作のひとつ。ソーニャが皇太子に歌う「シャンパンは情熱の酒」が名曲です。他にも皇太子の歌う「ヴォルガの歌」が有名です。
指揮:ヴィリー・マッテス
グラウンケ交響楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団
ロシアの皇太子:ニコライ・ゲッダ
ソーニャ:リタ・シュトライヒ
マーシャ:ウルスラ・ライヒャルト
イヴァン:ハリー・フリーダウアー
大公:ハンス・シェンカー etc.
Rec.1968.6/8 ミュンヘン
EMI CLASSICS 7243 5 66173 2 2(輸入盤)2枚組
★★
登場人物のうち半分は台詞のみで、歌をあてがわれている人物が少ないです。それだけ話が込み入っていず、ある意味でわかりやすいとも言えます。おなじみのメンバーは、ここでも素敵な演奏を繰り広げています。グラウンケ交響楽団は、1945年に創立され、1990年にミュンヘン交響楽団と改名。コンサート、オペラ、オペレッタなどのほか、映画音楽なども担当しているそうです。「羊たちの沈黙」もこのオケの演奏だそうです。


フランツ・レハール「ロシアの皇太子」抜粋
指揮:ヴィリー・マッテス、グラウンケ交響楽団
ロシアの皇太子:ヴィエスワフ・オフマン

ソーニャ:テレサ・ストラータス
マーシャ:ビルケ・ブルック
イヴァン:ハラルド・ユーンケ
大公:パウル・エッサー

フランツ・レハール「パガニーニ」抜粋

指揮:ヴォルフガング・エーベルト、グラウンケ交響楽団、アイン合唱団
ニコロ・パガニーニ:アントニオ・テーバ
アンナ・エリーザ:テレサ・ストラータス
ジャコモ・ピンピネッリ侯爵:ペーター・クラウス
ベッラ・ジレッティ:ダグマル・コラー
Rec.1975頃
UM−PHILIPS UCCP−3084(国内盤)
★★
Unitel製作の映画版のサウンド・トラックからの抜粋盤。ベルト・グルントの編曲となっています。「ロシアの皇太子」は基本的に原曲に沿い、おそらく、本来ある映像に合わせるかたちで色を添えているようですが、「パガニーニ」の方はかなり手が加えられていると思われます。えっ、これがレハール?というくらいのナンバーもあり。その一番の特徴は、ベルリン・オペレッタ風のオーケストレーションです。オーケストラというよりもむしろバンド風の軽快さで、あるいは弦楽部分がミュージカルを思わせるゴージャスな色塗りとなっていて、いささか違和感を感じることも確かです(これはこれで一風変わっていて楽しいですが)。「ロシアの皇太子」の方は、何よりもヴィリー・マッテスの指揮で聴けるのが一番の魅力。やはりこの人の切れの良さは文句なしです。両曲ともに、テレサ・ストラータスの気品も忘れてはなりません。オペレッタには珍しい切ない幕切れとなる「ロシアの皇太子」でのソーニャの悲しみを、ユニテル映像で印象深く見たので、あらためてCD音盤として耳にすることができるのも嬉しいです。台詞は一切なし。「ロシアの皇太子」から約30分、「パガニーニ」から約35分収録。


フランツ・レハール「微笑みの国」

初演:1929年10月10日 ベルリン・メトロポール劇場

台本ルートヴィヒ・ヘルツァー&フリッツ・レーナー=ベーダ

あらすじ:舞台は1912年のウィーンと北京。
<第1幕>ウィーンはリヒテンフェルス伯爵邸にて。伯爵令嬢リーザの乗馬大会優勝祝賀パーティが行われている。中国のスー・チョン王子も来ている。彼はリーザに思いを寄せてはいるのだが、東洋人たるたしなみとして、微笑むだけで感情を表にはあらわそうとしない。しかし皆から東洋の話をせがまれ、リーザへの思いを込めて「りんごの花輪を」を歌う。そこへ大使館員が電報を届けに来る。首相に任命されたゆえ至急帰国せよ、という知らせだった。それを知ったリーザは、王子と二人だけにしてくれるよう頼み、王子への思いを告げる。王子もリーザへの気持ちをとうとう告白するのであった。
<第2幕>北京のスー・チョン王子の宮殿にて。王子の妹ミーが、テニス・ウェアを着て登場し、リーザとテニスを楽しんでいたと言うので、一族の長でもある伯父チャンは、中国の美しき風習が西洋に壊されるのかと不機嫌になる。そして王子にも、中国の伝統にのっとり4人の妃を迎えるようにすすめる。王子は気が進まないが、チャンからそれでは政治が円滑に進まないと言われ、形式上だけという条件でしぶしぶ承諾することになる。それを知った大使館付き武官のグスタフがリーザに知らせる。リーザは信じようとしないが、そこへ結婚式の衣装を着た王子がやってくるので、王子の気持ちを尋ねると、王子は「君こそ我が心のすべて」と歌うが、リーザは、たとえ形式だけでも嫌だ、自分は裏切られたのだと怒り去る。王子は臣下の者にリーザを宮殿から出さぬようにと命じるのだった。
<第3幕>スー・チョン王子の後宮にて。軟禁状態にあるリーザは、王子への憎しみが増していっている。リーは何とか兄とリーザの仲を取り持とうとするが、リーザにその気がないと知るや一転、愛するグスタフにリーザを託し、ここから逃してやろうと決意する。そしてミーが秘密の出口へとリーザとグスタフを導こうとしているところで、王子に見つかってしまう。王子は今でもリーザだけを愛していると言うが、リーザの心はかわらない。とうとう諦めた王子は、グスタフにリーザを託す。そして愛する者をそれぞれ見送る王子とリーは、「悲しみも微笑みの下に隠すのだ」を歌うのだった。

中国物について、永竹由幸氏は次のようにまとめています(『オペレッタ名曲百科』P132より)。
ヨーロッパに中国の存在が知られたのはマルコ・ポーロの時代からだが、実際にヨーロッパ人が直接遠征してき始めたのは喜望峰が発見されてからである。十七世紀頃からは欧中貿易が始まっている。
しかし、彼らがいだいたそのイメージは全くの別世界で、同じ人間として恋愛の対象となる世界ではなかった。西欧人が最初に恋愛の対象として文学化したり舞台化したりしたのは、更に遠くの神秘の国日本の方が先だった。ピエール・ロティの小説『お菊さん』(1888)に基づくメサジュの同名のオペラ・コミック(1893)、サリヴァンのオペレッタ《ミカド》(1885)、ジョーンズの《芸者》(1896)、マスカンニの《イリス》(1896)、プッチーニの《蝶々夫人》(1904)と目白押しである。
ところが1805年に日露戦争に日本が勝つと、神秘の国はやおら黄禍の元凶となり、今度は中国が神秘の国となる。ブゾーニの《トゥーランドット》(1917)、レハールの《黄色い上着》(1923)、プッチーニの《トゥーランドット》(1926)、そしてこの《ほほえみの国》(1929)として表現されたのである。現金なものだ。
「現金なもの」かどうかはともかく、この時期の音楽状況においては、おそらく1908年のマーラーの交響曲「大地の歌」が中国へと目を向けさせた最初の作品でしょう。そしてこれがオペラやオペレッタへも影響を与えていく。これに加えて、この「微笑みの国」の前年(1928)に発表されたカールマンの「シカゴの大公令嬢」にも、後半で五音階の中国色が出てきます。音楽としては、この「微笑みの国」の方がまとまっていますが。レハールのベルリン時代の名作、そしてレハール作品としても「メリー・ウィドウ」に次ぐ有名作品として、国内盤も発売されています。とりわけ、スーによって歌われる「君こそ我が心のすべて」は、レハールの書いたオベレッタ・アリアの中では最も聴き栄えのする作品です。プッチーニを敬愛していたレハールによるこの「微笑みの国」は、「メリー・ウィドウ」(「妖精ヴィルリ」への)、「ルクセンブルク伯爵」(「ラ・ボエーム」への)に続く、トリビュート作品第3弾(「トゥーランドット」への)と見ることも出来るかもしれません。
指揮:ヴィリー・マッテス
バイエルン交響楽団、バイエルン放送合唱団
リーザ:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
スー・チョン王子:ニコライ・ゲッダ(T)
ミー:レナーテ・ホルム(S) etc.
Rec.1967.6 ミュンヘン
EMI CLASSICS 7243 5 65372 2 4(輸入盤)、
To−EMIクラシックス TOCE9562/3(国内盤’97−10)2枚組
★★★
ヴィリー・マッテス指揮とくればおなじみのグラウンケ交響楽団、ではなく今回はバイエルン交響楽団、そしてバイエルン国立歌劇場合唱団ではなくバイエルン放送合唱団が起用されているのはどういう事情だったのでしょうか。といっても音楽的にはどっちがどう、というわけではありませんが。演奏はもちろん「メリー・ウィドウ」に次ぐ有名作品の名に恥じない名演を繰り広げています。最初に聴くなら、絶対にこのCDです。

指揮:Paul Dessau
管弦楽団、合唱団(固有名称の記載なし)
リーザ:Margit Suchy
スー・チョン王子:Richard Tauber
ミー:Hella Kurty etc.
Rec.1930
KOCH SCHWANN 3−1373−2(輸入盤)MONO

音源は、Film−Soundtrack Music from the film(1930)となっています。確かに台詞の部分は舞台での発声ではなく昔の映画の雰囲気を感じさせる台詞回しとなっています。一方の音楽部分は拍手入りで、あくまで舞台の感じを出しています。どんな映像作品なのか是非見てみたいものです。音質は良好なモノラル。リヒャルト・タウバーによるスー・チョン王子が全曲を通して聴けるのが売りですが、それ以上に指揮者のパウル・デッサウに注目です。なんと彼は旧東独の前衛作曲家(1894−1979)なのです。BERLIN Classicsで彼の作曲作品が聴けます。そのデッサウがオペレッタの指揮を?と驚きましたが、「ベルトルト・ブレヒトの思い出に」(1957)という作品を残していることからもわかるとおり、デッサウはブレヒトの舞台音楽に携わっていました。ということは、劇場畑の人だったのです。とすると、オペレッタとデッサウ、なるほど、つながっていたのですね。

     *下記のCDはオペレッタではありません。デッサウとブレヒトの作品から。
  P.DESSAU/B.BRECHT
  「Die Verurteilung des Lukullus(ルクルスの判決)」:Oper in 12 Szenen
     dirigent : Herbert Kegel
     Rundfunk-Sinfonie-Orchester Leipzig etc.
     BERLIN Classics 0021822BC



指揮:Franz Marszalek
ケルン放送交響楽団
リーザ:Antonia Fahberg(S)
スー・チョン王子:Fritz Wunderlich(T)
ミー:Luise Camer/Gerlinde Locker(S) etc.
Rec.1961?
Gala GL329(輸入盤)MONO

1966年に36歳で亡くなった名歌手フリッツ・ヴンダーリッヒによる、絶好調の(しかし結果的には晩年といっていい)録音。音源は不明。台詞はカットされ、曲の部分だけが収録されています。聴きやすいモノラルですが、第2幕冒頭の1トラック分だけ、なぜか擬似ステレオになっています。ミー役が2人表示されていることと関係があるのでしょうか。この部分だけ別録音を転用したのでしょうか。聴いた範囲では判断できません。それでもヴンダーリッヒの名唱は、やはり感動物です。

指揮:ヴォルフガング・エーベルト
シュトゥットガルト放送管弦楽団、シュトゥットガルト南放送合唱団
リーザ:ビルギット・ピッチ=サラタ
スー・チョン王子:ルネ・コロ
ミー:ダグマール・コラー
ポッテンシュタイン伯爵:ハインツ・ツェドニク etc.
Rec.1975頃
UM−PHILIPS UCCP−3083(国内盤・抜粋)
★★★
Unitel製作の映画版のサウンド・トラックからの抜粋盤。ベルト・グルントの編曲となっています。同時に出たユニテル・サウンド・トラック盤5種(他に、ヴェネツィアの一夜、小鳥売り、ロシアの皇太子&パガニーニ、マリッツァ伯爵令嬢)の中でも「マリッツァ伯爵令嬢」とこの盤は、一押しの音盤です。両盤ともルネ・コロやダグマール・コラーの名唱(とりわけルネ・コロの「君こそ我が心のすべて」はやはり抜群です)はもちろんのこと、ヴォルフガング・エーベルトの指揮が、ヴィリー・マッテスに劣らぬ絶妙なコントロールをしていて、作品全体を甘く、または軽快に、しかも安っぽくなく仕上げています。抜粋となっていますが、歌の部分はほぼ網羅されています。台詞は一切なし。約58分収録です。

指揮:ルドルフ・ビーブル
メルビッシュ祝祭管弦楽団、合唱団
リーザ:Elisabeth Flechl(S)
スー・チョン王子:Sangho Choi(T)
チャン:田辺とおる(Br)
ミー:三谷結子(S) etc.
Rec.2001.3 Kulturzentrum,Eisenstadt
ARTE NOVA 74321 85292 2(輸入盤)
★★
ウィーン・フォルクス・オパーを中心にウィンナ・オペレッタを担うルドルフ・ビーブルは、オーストリア・ブルゲンラント州にあるメルビッシュのノイジードラー湖の湖上ステージで毎年夏に行なわれるメルビッシュ音楽祭の監督も務めています。この音楽祭の模様は、NHK・BS2でも放映されます。その6枚目にして初のレハール作品です。スー・チョン王子には韓国人、ミー(王子の妹)とチャン(王子の伯父)に日本人が起用されています。中国が舞台のオペレッタなので、東洋人起用には視覚的効果を狙った面もあるのでしょう。なおこのCDはライブ録音ではなく、同じメンバーによるスタジオ録音とのこと。録音と音楽祭については、チャン役の田辺とおる氏を応援するHP“田辺とおるのドイツ便り”の中に、ご自身による報告があります。演奏は特徴的な要素はありませんが、長年の経験の結実した極めてオーソドックスな秀演となっています。お二人の日本人、田辺とおるさんのつややかな声、三谷結子さんの可憐な声も、嬉しいかぎりです。台詞なし。
  →映像編もご覧下さい。


   1  2  3  4  5

「Zauberland der Operette」
CD1:J.シュトラウス「こうもり」ハイライト
CD2:J.オッフェンバック「パリの生活」ハイライト
CD3:ツェラー「小鳥売り」ハイライト
CD4:J.シュトラウス「ヴェネツィアの一夜」ハイライト
CD5:J.シュトラウス「ジプシー男爵」ハイライト
指揮:ルドルフ・ビーブル、SYMPHONY ORCHESTRA BURGENLAND
Rec.1996,1997,1998,1999,2000
ARTE NOVA 74321 80513 2(輸入盤)5枚組
★★
上のレハール「微笑みの国」に先立つ、ルドルフ・ビーブル指揮による1996年から2000年までのメルビッシュ音楽祭の上演目5作品のハイライト集です。いずれも「微笑みの国」同様、音楽祭での上演に先立ってスタジオ録音されたもの。「こうもり」のフランク役でワルデマール・クメント、「ジプシー男爵」のカルネロ男爵でハインツ・ツェドニクと、往年の名歌手の登場が嬉しいですが、「パリの生活」と「ヴェネツィアの一夜」でのミルヤーナ・イーロッシュのほかはスター級ではありませんが、比較的若い歌手により、生き生きとした歌唱が繰り広げられています。


エメリッヒ・カールマン「チャールダーシュの女王」

初演:1915年11月17日 ウィーン・ヨハン・シュトラウス劇場

台本:レオ・シュタイン&ベーラ・イェンバッハ

あらすじ:20世紀初頭のブダペストとウィーンが舞台。
<第1幕>ブダペストのヴァリエテ劇場「オルフェウム」では、アメリカ公演のため、しばらくヨーロッパを離れる歌姫シルヴァのお別れ公演もフィナーレを迎えようとしている。アンコール曲「ハイヤ、ハイヤ、私の故郷は山の中」とチャールダーシュの渦に舞台・観客が一体となるうちに幕は閉じられる。その後、楽屋にファンが集まり夜通しで別れを惜しむ。シルヴァを愛するエドウィンもやって来て、あらためて愛を打ち明け、シルヴァもアメリカ行きを躊躇し始める。そんな中、エドウィンのいとこローンスドルフ男爵がやって来、エドウィンに召集令状が出たのでウィーンへ帰るように伝える。実はそれは、エドウィンの父レオポルト・マリア公爵のさしがねであった。父は貴族でもない歌姫と息子との交際に反対し、姪の伯爵令嬢シュタージと息子を結婚させようと考えていた。やむなくエドウィンは皆の前で8週間以内にシルヴァを妻に迎えると宣言し帰っていく。喜ぶシルヴァ。しかし自分もシルヴァに憧れていたもうひとりのいとこ、ボニ・カンチャヌ伯爵が、エドウィンとシュタージとの結婚話をシルヴァに聞かせる。失意にくれつつニューヨーク行きを心に決めるシルヴァであった。
<第2幕>婚約発表の日。婚約者シュタージは、エドウィンがシルヴァに恋をしているのをローンスドルフから聞いて知っていた。シルヴァ自身も揺れている。2人で歌われる「私は大きな奇蹟を待っている」そして「燕がするように巣を作りましょう」。聞かせどころだ。入れ替わって登場するボニ。妻を連れてやって来た。実はシルヴァがパーティに入り込むためにボニに頼んで夫婦になりすましてやってきたのだ。そこで顔をあわせたボニとシュターデ。2人は実は10年前に結婚を約束するほどの仲だった。かつての相思相愛が復活のきざしをみせるボニとシュタージ。愛するシルヴァがボニと結婚してしまったと思い落ち込むエドウィン。そんな彼に侯爵夫人になれなかったから伯爵夫人になったとあてつけるシルヴァ。2人の「憶えているかい」が互いの愛を確認はするが、けして自分から愛しているとは言わないシルヴァ。それに対し「僕は踊りたい」でワルツを踊りながら求愛するエドウィンは、つい君はボニ伯爵夫人つまりもう貴族なんだから、自分との結婚に何の障害もないと言ってしまう。それを聞いたシルヴァは、結局エドウィンも身分にこだわっていたのだと知り、自分は歌姫、と言いつつ去っていく。
<第3幕>ウィーンのホテルで、ボニはシルヴァに本心を聞く。親から理解されない結婚は彼にとっても不幸だからと身を引く覚悟でいるシルヴァに対し、すっかり仲良くなったボニとシュタージは一計を案じる。両親も息子の自殺を心配してやってくる。ここで打たれる一芝居と、もうひとつの落ちがあって、めでたしめでたしとなるのだが、それについては秘めておきましょう。

冒頭、シルヴァのアンコールで始まるところからして、こころにくいですね。レハールの「メリー・ウィドウ」に劣らず、次から次へと一度聞いたら忘れられないメロディが惜しげもなく繰り出してきます。間違いなくカールマンの代表作、最高傑作です。そのチャールダーシュ独特のリズムは、あっという間に我々を劇中空間へと引きずりこみます。しかし現実社会は、オーストリア・ハンガリー二重帝国の崩壊を目前にひかえた、第一次世界大戦真っ最中でした。そんな時期に発表されたこの曲の、溢れ出るウィーンのワルツとハンガリーのチャールダーシュの響きを、人々はどのような思いで見、聴き、酔いしれたのでしょうか。
指揮:ヴィリー・マッテス
グラウンケ交響楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団
シルヴァ:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
エトヴィン:ニコライ・ゲッダ(T)
ボーニ:ヴィリー・ブロクマイアー(T)
スタージ伯爵令嬢:オリヴェラ・ミリャコヴィチ(S) etc.
Rec.1971.1 ミュンヘン・ビュルガーブラウ
EMI CLASSICS 7243 5 66170 2 5(輸入盤)、To−EMIクラシックス TOCE9564/5(国内盤’97−10)
2枚組
★★★
絶対的信頼を寄せているメンバーによる演奏には、もう客観的評価など出せるはずもありません。お許しください。この盤も先ずマッテスの絶妙のテンポ設定に感心させられます。そして4人の主要人物にも。すべてが理想的に聞こえてしまうほど、もう惚れ込んでしまっているのです。でも、惚れ込める演奏家を持つというのは、音楽を聴くという行為にとって、本当は大切なことではないでしょうか(と、自己肯定してコメントをごまかしているのだ)。真っ先にお薦めする名盤です。

指揮:ルドルフ・ビーブル
ウィーン・フォルクスオパー管弦楽団、合唱団
シルヴァ:ミレナ・ルディフェリア(S)
エトヴィン:フランツ・ヴェヒター(T)
ボーニ:ジャック・ポッペル(T)
スタージ伯爵令嬢:エリーザベト・カーレス(S)
フェリ:シャーンドル・ネーメト(Br) etc.
Rec.1985.4 Live 東京文化会館
DENON COCQ85142/3(国内盤’98−12)2枚組
★★
日本公演のライブですが、レハール「メリー・ウィドウ」のブダペスト・オペレッタ劇場ほどはちゃめちゃ(けなしているわけではありません)になっていないところは、やはりフォルクスオパーの自負のあらわれでしょうか。もちろんライブならではのサービスもありますが、音楽CDとして耳だけで聴いても十分鑑賞に堪えます。往年の名歌手エーベルハルト・ヴェヒターの子息がエトヴィン役で出ているのも聴き逃せません。

指揮:ルドルフ・ビーブル
メルビッシュ祝祭管弦楽団、合唱団
シルヴァ:マルティナ・セラフィン(S)
エトヴィン:フェルディナンド・フォン・ボスマール(T)
ボーニ:エードリアン・エロード(T)
スタージ伯爵令嬢:ケルスティン・グロトリアン(S)
フェリ:フリジュシュ・ハルシャーニ(Br) etc.
Rec.2002.3 Kulturzentrum,Eisenstadt
ARTE NOVA 74321 93588 2(輸入盤)
★★
ルドルフ・ビーブルが監督を務めるメルビッシュ音楽祭のキャストにより、上演に先立ってスタジオ録音されたCD。1996年以降毎年リリースされているシリーズの7枚目です。2002年は「チャールダーシュの女王」。このシリーズでのカールマンは初出です。ブダペスト・オペレッタ劇場でおなじみのフリジュシュ・ハルシャーニが、2002年1月の来日公演には参加せず、いささか寂しい気持ちになりましたが、メルビッシュの方で健在ぶりを聴かせてくれています。全体には普通の仕上がりです。台詞なし。
DVDでも出ています。ただし、キャストが一部異なります。CDが先行録音なので、その後キャスト変更があったのか、それともダブル・キャストなのかは不明です。
 映像編もご覧下さい。こちらは三ツ星です。

指揮:リチャード・ボニング
スロヴァキア放送交響楽団、スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団
シルヴァ:イヴォンヌ・ケニー(S)
エトヴィン:ミヒャエル・ロイダー(T)
ボーニ:マルコ・カトール(T)
スタージ伯爵令嬢:モイカ・エルドマン(S)
フェリ:カール=ミヒャエル・エブナー(T) etc.
Rec.2002年12月(本編),1003年9月(セレクション) スロヴァキア放送コンサート・ホール
NAXOS 8.660105−06(輸入盤)2枚組
★★
オペレッタを指揮したリチャード・ボニングとしては、下に紹介したカールマン「シカゴの大公令嬢」という佳品を甦らせたことを真っ先に思い出しますが、この「チャールダーシュの女王」でも、熟練の指揮で、たっぷりとオーケストラを鳴らし、テンポを自在に操り、楽しませてくれます。歌手も含めて、全体としては特筆すべき個性というものはないですが、きわめてオーソドックスに、しかしカールマンの魅力をスケール豊かに表出しています。なお、2枚目にオペレッタからの管弦楽セレクションとして、オペレッタ「ジプシーの王様」(1912)〜ワルツ“村の子供たち”、“王様万歳”、オペレッタ「カーニヴァルの妖精」(1917)〜“ホーラホ、ホーラホ”、オペレッタ「オランダのかわいい女」(1920)〜“熱烈な歌が君を誘惑すべく”、オペレッタ「悪魔の騎手」(1932)〜“ハンガリー舞踊組曲”が収録されていて、嬉しいデザートとなっています。とりわけ「ジプシーの王様」からのメロディで紡いだワルツ“村の子供たち”と「悪魔の騎手」からの“ハンガリー舞踊組曲”は、名曲の名演です。


エメリッヒ・カールマン「マリッツァ伯爵令嬢」

初演:1924年2月28日 アン・デア・ウィーン劇場

台本:ユリウス・ブランマー&アルフレット・グリュンヴァルト

あらすじ:1920年代、オーストリアとの国境近くのハンガリー、マリッツァ家の館にて
<第1幕>大地主のマリッツァ伯爵令嬢は、土地の管理をベラ・テレークに任せている。彼の本名は実はタシロ・エンドレディ=ヴィッテンブルク伯爵と言い、父の代に投機に失敗して財産を失ったため、今は身分を隠して領地管理人をしているのだ。彼は領民からは慕われているが、故郷ウィーンを恋しく思っている。するとポプレスク男爵がやって来て、主人マリッツァ伯爵令嬢の婚約発表の新聞記事を見せる。実はこの記事は、多くの男に言い寄られてうんざりしたマリッツァによるウソのニュースだった。相手のコローマン・ジュパン男爵とは、J.シュトラウスの「ジプシー男爵」から名を借りただけの架空の人物……のはずだったのだが。農民たちの歓迎の中、マリッツァが登場、ジュパン男爵は用で来られないとごまかす。そしてタシロとは初顔合わせだったので、前任地を訪ねると、タシロはヴィッテンブルク伯爵(もちろん自分のこと)の所にいたと挨拶する。するとマリッツァは、ちょうどヴィッテンブルク伯爵のところの令嬢リーザ(つまりタシロの妹)とブカレストで知り合いになり、今日のパーティに招待しているという。これはまずいことになったと思っているうちにリーザがやって来てしまうので、彼は妹に、ある事情で身分を隠しているので明かすなと頼み込む。一方マリッツァも友人のイルカに実はジュパン男爵なんて嘘っぱちなのだと話しているところへ、コローマン・ジュパン男爵と名乗る男が登場する。そして自分はハンガリー旧家の由緒正しい者、まさしく本当にコローマン・ジュパン男爵であると言い、しかも実際にマリッツァを見て一目惚れしてしまう。そこで新聞記事のとおりにマリッツァとの結婚をせまるのであった。パーティは、マリッツァとタシロとのちょっとした行き違いからお流れに。場所をキャバレーに移したところで、マリッツァとタシロは再びお互いを意識し始める。
<第2幕>1ケ月後。妹のリーザは、ジュパン男爵を愛してしまった。しかし彼はマリッツァを愛していて、リーザの気持ちには気付かない。ところがその時、ジュパン家に変化が。祖父が、貧富の差をなくすため貧乏人と結婚した場合に限りジュパンに遺産を相続させる、との遺言を残して死んだのだ。マリッツァに財産を放棄して結婚してくれるようにせがむジュパン。相手にしないマリッツァ。マリッツァの心はタシロに向いているのだ。そこへポプレスク男爵がやって来て、リーザとタシロが手を取り合っていたと知らせ、さらに机にあったタシロの書きかけの手紙だといってマリッツァに見せる。そこには、つらくてもお金の為にはがんばるしかない、といった内容が書かれていた。リーザや自分に近寄るのもお金目当てで、誰でもいいということなのかと失望するマリッツァ。そしてタシロにつらくあたり始める。一方ジュパン男爵は、マリッツァに脈がないことを知るに及び、ようやくリーザの自分への思いに気付く。急接近するジュパンとリーザ。
<第3幕>タシロはマリッツァ家を去る決心をする。そして再就職のための人物評価書をマリッツァに依頼する。互いに心惹かれつつも意地を張り合う二人。……結局は、二組のカップルがうまく結びつき、お決まりの大団円へとすすんでいくのだが、そのからくりはお楽しみということにしておきましょう。

「チャールダーシュの女王」に勝るとも劣らない名曲です。話もなかなかよく出来ています(出来すぎている、とも言えますが、そこはオペレッタならではのお決まりの出来すぎ。それがいいのです)。ウィーンを懐かしんでタシロの歌う「夕闇迫れば」、マリッツァによる「恋はいずこにあるのかしら」、ジュパンとリーザの二重唱「僕が毎晩寝る前に」など、それぞれの配役に名曲がしっかり割り当てられていて、サービス満点と言えます。終幕の大団円まで、とめどもなく流れる旋律と湧き上がるリズムに埋没する幸せ、出来すぎた作り話だからこそ夢見るひと時を与えてくれる、それがオペレッタなのではないでしょうか。ヴェリズモ・オペラも大好きですが、それとは異なる感動が、ここにはあるのです。
指揮:ヴィルヘルム・シュテファン
ハンブルグ放送管弦楽団、北ドイツ放送合唱団、児童合唱団
マリッツァ伯爵令嬢:セーナ・ユリナッツ(S)
タシロ:カール・テルカル(T)
リーザ:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
ジュパン男爵:ルベルト・グラヴィッシュ(T)
マニャ:トラウト・ホフマン(S) etc.
Rec.1952.4 ハンブルグ
Gala GL100.565(輸入盤)MONO、2枚組
★★★
ユリナッツの歌うマリッツァというだけで、これはもう買いです。ユリナッツについては、クナッパーツブッシュ指揮ウィーン国立歌劇場の「ばらの騎士」1955年ライヴでのオクタヴィアン役が忘れられないですが、このマリッツァでも期待を裏切りません。マッテス盤でマリッツァを歌うローテンベルガーの、この盤でリーザ役も、タシロ役のテルカルも、3者そろっての名唱です。シュテファンという指揮者につていは不明ですが、ハンガリー色を濃厚に打ち出したテンポの変化は見事です。音質は非常に優れたモノラル。なお、2枚目にボーナス・トラックとしてオッフェンバックの「美しきエレーヌ」からの抜粋(1955年、ベルリン)が入っています。ローテンベルガーがエレーヌ役ということでのボーナスでしょうが、こちらは今ひとつでした。

*ユリナッツの歌う「ばらの騎士」については、映像編の「ばらの騎士」項をご覧下さい。

指揮:ヴィリー・マッテス
グラウンケ交響楽団、バイエルン国立歌劇場合唱団
マリッツァ伯爵令嬢:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S)
タシロ:ニコライ・ゲッダ(T)
リーザ:オリヴェラ・ミリャコヴィッチ(S)
ジュパン男爵:ヴィリー・ブルクマイヤー(T)
マニャ:エッダ・モーザー(S) etc.
Rec.1971.1 ミュンヘン・ビュルガーブラウ
EMI CLASSICS 7243 5 65974 2 6(輸入盤)2枚組
★★★
もうおなじみのメンバーですから、文句など言えるはずもありません。すでに紹介した彼らによる一連のCDと同じく、理想的としか言えないほど、褒める言葉もなくなってしまいました。(^^ゞ 作品としても、「チャールダーシュの女王」に劣らぬ名曲だと思います。よくぞマッテスが録音しておいてくれたと、EMIに感謝するばかり。抜群のリズムとテンポ設定で、生きのいい音楽を見事に再構成させています。歌手たちもローテンベルガー、ゲッダ、モーザー……ほんとうにオペレッタを素晴らしい水準で楽しませてくれる人たちです。

指揮:ヴォルフガング・エーベルト
ウィーン交響楽団、ウィーン・オペレッタ合唱団
マリッツァ伯爵令嬢:エルジュベート・ハジ
タシロ:ルネ・コロ
リーザ:ダグマル・コラー
ジュパン男爵:クルト・ヒューマー
ポプレスク侯爵:ベンノ・クシェ etc.
Rec.1975頃
UM−PHILIPS UCCP−3081(国内盤・抜粋)
★★
Unitel製作の映画版のサウンド・トラックからの抜粋盤。同時に出たユニテル・サウンド・トラック盤5種(他に、ヴェネツィアの一夜、小鳥売り、微笑みの国、ロシアの皇太子&パガニーニ)の中でも「微笑みの国」とこの盤は、一押しの音盤です。ルネ・コロやダグマール・コラーの名唱、ヴォルフガング・エーベルトの指揮を通して、この作品の魅力が十分に伝わってきます。抜粋となっていますが、歌の部分はほぼ網羅されています。ただしベルト・グルントの編曲は、オーケストレーションがかなりベルリン・オペレッタ的サウンドになっていて、その分ハンガリー色が薄まっています。その点がやや難と言えます。台詞は一切なし。約55分収録。

指揮:ウヴェ・タイマー
ウィーン・オペラ舞踏会管弦楽団、ウィーン・フォルクスオパー児童合唱団
マリッツァ伯爵令嬢:イザベラ・ラブーダ(S)
タシロ:リシャード・カルチコフスキー(T)
リーザ:マルティーナ・ドーラック(S)
ジュパン男爵:モーリッツ・ゴグ(Br)
Rec.1999.9/12&2001.9
ウィーン・バウムガルデン
カメラータ・トウキョウ 15CM−660/1(国内盤)2枚組
★★
「ウィーン・フォルクスオパー上演版全曲収録」と帯には書いています。解説書には、「合唱とセリフを除く全ての曲目が収められている。もちろん、カットの習わしはフォルクスオパーで通常行っている形に添ったもので……」とあり、掛け合いに児童合唱がある他は、4人のソリストによる楽曲が続きます(もちろんオーケストラによる序曲と間奏曲は収録されていますが)。やはり、はしょりながらでもセリフが楽曲の間にないと、たとえ全曲収録であってもハイライトのように聴こえてしまうのが不思議です。イザベラ・ラブーダは重い感じがつきまとい、ローテンベルガーを聴き慣れた耳には今ひとつの感があります。リシャード・カルチコフスキーのやや割れたような声も、つややかなゲッダにはかないません。むしろ主役二人よりもマルティーナ・ドーラックの可憐な声が魅力的です。ただしマリッツァ、リーザ、タシロ、ジュパンの4人の声質がはっきり違うので、音だけで聴いても(そしてドイツ語がわからなくても)どの組み合わせで歌っているかは、わかりやすくなっています。これは舞台で見るとの違って、CDで音だけで聴く時には大切な要素です。マリッツァとリーザが似た声質で、二人が掛け合いをやっても、ちっともそのやりとりがわかりませんから。フォルクスオパーのメンバーが中心のオペラ舞踏会管弦楽団はかなり少なめの規模のようで、指揮者ともども、ごく普通にうまい演奏です。なお、対訳には日本オペレッタ協会の上演毎に改訂して完成させていった滝弘太郎のものを載せており、「そのまま歌えますので、ご一緒に歌ってみたらいかがでしょう」(寺崎裕則)ということです。

指揮:ルドルフ・ビーブル
メルビッシュ祝祭管弦楽団、合唱団
マリッツァ伯爵令嬢:ウルスラ・プフィッツナー
タシロ:ニコライ・シュコフ
リーザ:ジュリア・バウアー
ジュパン男爵:マルコ・キャソル
ポプレスク侯爵:ゲルハルト・エルンスト etc.
Rec.2004.2 Kulturzentrum,Eisenstadt
OEHMS CLASSICS OC 337(輸入盤)

メルビッシュ音楽祭上演目のハイライト盤ですが、上演の半年ほど前に出演者によりスタジオ録音されたものです。全体に生ぬるさを拭い切れません。カールマンはもっと切れ味鋭くあってほしいと思いました。


エメリッヒ・カールマン「シカゴの大公令嬢」

初演:1928年4月5日 アン・デア・ウィーン劇場

台本:ユリウス・ブランマー&アルフレット・グリュンヴァルト

あらすじ:1920年代のブダペスト
<プロローグ>とある国の皇太子シャンドール・ボリスが家臣とナイトクラブにやって来た。そこへシカゴの財閥の娘マリー・ロイドも秘書を引き連れて来る。彼女は自分の属するあるクラブの催し、お金で買うことの難しいものを買ってきた者に賞金100万ドルを出すという企画に参加し、旅をしていたのだ。一方の皇太子ボリスは第一次世界大戦後の新興国アメリカを嫌っている。マリーがロイドにチャールストンをご一緒にと誘うが、ボリスはアメリカの踊りはお断りと、クラブの楽団にもウィンナ・ワルツを演奏するよう頼む。しかし機嫌を損ねたマリーがチップをはずんでチャールストンの演奏をさせ軽やかに踊り始める。怒るボリスに困ったバンドは、チャールダーシュを演奏し始めるのであった。
<第1幕>皇太子の宮殿グラデツァ城にて。マリーは「お金で買うことの難しい」買い物として、このグラデツァ城がふさわしいと考え、600万ドルで買いたいと申し出た。ボリスはもちろん先祖伝来の財産を手放すつもりはないと断るが、マリーからお城や王家や皇太子なんて時代遅れだと言われるうちに、売却を決意してしまう。一方ボリスの従姉妹ローズマリー公女の親は彼女をボリスと結婚させたがっているが、当の彼女は貴族とではなく平民との平凡な結婚を望んでいた。そしてマリーの秘書ジョニィ・ボンディのユーモアを気に入っている。いよいよボリスが城を去るときがやって来る。時にマリーはボリスを愛していることに気づき、城だけでなく彼も手に入れることを心に決めるのであった。
<第2幕>城はすっかり模様替えされ、マリーの新居を祝うパーティが開かれている。そこへお祝いにやってきたボリス。マリーはその後ワルツを習っていたし、ボリスもチャールストンを習っていた。互いに相手を理解しようとしていたのだ。ところが、偶然にマリーの友人たちの話を耳にしてしまう。それは、マリーにとっては、城だけでなくボリスも買い物として見ているということ。それを聞いて失望するボリス。そして、ローズマリー公女を花嫁に迎えると宣言してしまうのだった。
<エピローグ>ボリスを失い、毎晩のようにある男とナイト・クラブに入り浸るマリー。たまたまそのナイト・クラブを訪れたボリス。実はローズマリー公女はジョニィ・ボンディと駆け落ちしてしまったのだ。ボリスは嘆きつつも言う。彼女の自由を尊重し、また自分自身も自由を大切にしなくては、と。そこへ、マリーと夜毎一緒にいた男が近づいて来て、彼にささやくのだ……。その後は、お決まりのハッピーエンドへ。そのからくりは、やはりお楽しみということにしておきましょう。

この「シカゴの大公令嬢」は、1927年のクシェネック「ジョニーは演奏する」が濃厚に打ち出したジャズ色と、1926年のプッチーニ「トゥーランドット」が表現した中国色の両方から影響を受けていると思います。前半ではウィンナ・ワルツとともにガーシュインのミュージカルを髣髴とさせるジャズ・バンド風の音楽が聞こえてきます。おまけにお得意のチャールダーシュまでも。ところが一転、後半では五音階の中国色が出てくるのです。中国サウンドという点では、1928年のレハール「微笑みの国」に1年先立つ作品です。ただし「微笑みの国」に比べ、音楽としては統一感に欠け、ごった煮の感は否めません。しかし、それはそれで楽しいし、許せてしまうところもまたオペレッタの楽しみのひとつではあるのです。なかでも第1幕の始めの方でシャンドールによって歌われる「Wienerlied」は、名曲です。
指揮:リチャード・ボニング
ベルリン放送交響楽団、合唱団
シャンドール・ボリス:Endrik Wottrich
ローズマリー公女:Monica Groop
ミス・マリー・ロイド:Deborah Riedel
ジョニィ・ボンディ:Brett Polegato  etc.
Rec.1998.2 ベルリン・SFBスタジオ
DECCA 466 057−2(輸入盤)2枚組
★★★
リチャード・ボニング健在なり。ガーディナーの「メリー・ウィドウ」にも驚いたけど、ボニングのオペレッタも意外でした。と言っても、BS2で放映されたコヴェントガーデンの「こうもり」を振っていたので、オペレッタと無縁の人ということではないはずですが。その「こうもり」も細君サザーランドの引退記念公演(DVDで出ています)だったので、ならボニング指揮は当然だな、くらいにしか思っていませんでした。CDを見つけたとき、聞いたことのない作品だったしボニング指揮ということで、一度は通り過ぎたくらいです。しかし、しばらくして、やはりダメモトで購入。そして大満足。上に書いたように、作品としてもごった煮ながら、なかなか素敵な音楽に仕上がっているし、それ以上にボニング指揮のうまさに脱帽しました。おそらく国内盤としての発売にはならないだろうから、少なくとも日本では隠れた名盤と言えるでしょう。


50


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このページで流れているMIDI は、
レハールの「メリー・ウィドウ」から愛の二重唱“唇は黙し”です。
演奏時間は3分02秒です。
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