S&G 二人のハーモニー
Version 6.00

" American Tune " <アメリカの歌>
バックはポールのギター一本だけ、そして二人のボーカルだけの曲、例えば " Simon and Garfunkel's Greatest Hits " の中のライブ曲、
" The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy) " や "Homeward Bound " を聴くと二人のハーモニーの美しさ、凄さが実感できる。
そして、その真骨頂は1981年セントラル・パークの S&G コンサートにおける " American Tune " <アメリカの歌> と考えている。
この曲は、バッハの「マタイ受難曲」( " Mathew's passion " )のセイクリッド・ハートをベースにしたものであるが、さらにこのマタイ受難曲は讃美歌136番や聖歌155番にも引用されており、ここからも " American Tune " <アメリカの歌> のメロディー・ラインの一部を聴くことができる。
ソロになってからのアートはポールのソロ・セカンド・アルバム 『ひとりごと』 からこの曲を聴き、是非とも自分のハーモニーを重ねたいと考えていたという。
セントラル・パークにおけるこの曲は、序盤ではアートがメロディー・パート、ポールが下のハーモニー・パートを担当。中盤では二人のユニゾン。そして終盤ではポールがメロディー・パート、アートが上のハーモニー・パートを担当することで曲が進行していく。
そして中でも、アートのこだわりは終盤 " ・・・・ You can't be forever blessed. " の " blessed の部分。
ここは本来 Am であるが、アートは 9th の B を加えて Aadd9 とし、意表をついた響きの良いハーモニーを展開させている。
このたった一つの和音は大聖堂における残響のようにも聴こえる。そう正に " blessed " なのである。
アートのハーモニーは特に少年時代の聖歌隊の影響を強く受けているものと思われる。

(オリジナルキーは D ですが、ここではセントラル・パーク・コンサートにおけるポールに倣い、2カポの C で採譜しております。)
アートはこの一時的なS&G再結成後、ポールの新しいアルバムをS&Gのアルバムにしたいという希望を持ち、「ポールの新曲のデモテープをウォークマンで聴きながら旅行先でハーモニーを考えてくるよ。」( PLAYBOY日本版
1984年4月号)といっていたが結局このとき、二人のアルバムは実現せず、新しいアルバム " Hearts and Bones " はポールのソロ・アルバムとしてリリースされることになる。
【コラム】 波長を視点とするハーモニーに関する考察
ハーモニーがとてもきれいだと思っている曲を、J-POPからいくつか紹介しておきたい。
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" 白い色は恋人の色 "
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ベッツイー&クリス
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" オレンジの口紅 "
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太田裕美
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" 待つわ "
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あみん
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" ロンリー・チャップリン "
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鈴木聖美 with RATS & STAR
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" 夏の終りのハーモニー "
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井上陽水 & 玉置浩二
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" a secret "
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松たか子
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これらは、" The Sound Of Silence " や " Scarborough Fair " 同様、ハーモニー・パートがメロディー・ラインの下のパートの曲ばかりである。
普通、コーラスのパートは、その曲をどう仕上げるかという編曲方針を基に、それぞれの人が持っている音域を割り当てるが、二人、つまりデュエットの場合は主にハーモニーのパートはメロディー・ラインの下に割り当てられることが多い。
次にハーモニー・パートをメロディー・ラインの上に割り当てている曲を再びJ-POPからいくつか紹介しておきたい。
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" あずさ2号 "
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狩人
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" SAY YES "
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チャゲ&飛鳥
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" 愛が生まれた日 "
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藤谷美和子 & 大内義昭
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どれも美しいハーモニーを聴くことができる。
そもそも、音の波長λ と音の周波数f には、『 音速v = 波長λ × 周波数f 』 という関係がある。
つまり、音速を一定とすると波長λ と 周波数f は反比例の関係になるため、周波数f
が小さく(音が低く)、 波長λ の大きい(音の波が長い)低域の声は、相対的に音に直進性のある高域のメロディー・ラインを覆いつく、あるいは絡みつくように聴こえる。
また、和音(コード)は音響工学的に 『 美しい、音の 共鳴 または うなり 』である。
人の声、楽器を含め自然界の音は、いくつもの正弦波の組合せ、つまりいくつもの周波数成分が合成され固有の音色を形成しており、特に基本波となる基本周波数の2倍の正弦波、3倍の正弦波・・・といったn倍の周波数(音楽では倍音、物理学または音響工学では高調波という)成分の影響を強く受ける。
ギターにおけるハーモニクスの原理である。
人の声による和音になると人数分の和音構成による影響だけでなく、構成される人のそれぞれの声の質による倍音が重複し、ハーモニーの幅が変わってくることになる。
そういう意味で、低いパートのポールの声は、アートの澄んだ声にうまく絡まりつき、美しいハーモニーを奏でることとなる。
デュエットにおける二人の音域を共に変えれば、またその二つの音の絡みつきも変化してくる。 ハーモニーは、上のパートであれ下のパートであれ、この「メロディーラインに絡みつき、かつ溶け合い、美しい新たな音を生み出すようにプロデュースすること」が大切である。
S&Gは、後期のアルバム、『ブックエンド』や『明日に架ける橋』では、二人がそれぞれのパートを重ね合わせ、つまり二人の声を四声以上絡みつかせることで、さらに複雑かつ美しいハーモニーに仕上げるというアクロバットを行っている。
【コラム】 高調波を視点とするハーモニーに関する考察
ひとつの正弦波(単振動)による音は「純音」というが、人間の声や楽器音に代表されるように自然界には「純音」は存在しない。
例えば、電気回路である正弦波発振器(オシレータ)により正弦波を発生できたとしてもスピーカを通した時点で音に「純音」以外の音の成分、つまり「歪」成分が含まれており、さらに、 一般的に「純音」と言われる音叉や時報の音でさえも物質の振動により発生した固有音である以上、「純音」とは言えず、ある意味、純音は仮想的な音であると考えられる。
音楽で扱われる「楽音」は、基本振動となる正弦波(「基音」、音響工学では「基本波」という)と、その周波数の整数倍の周波数(倍音、音響工学では高調波 harmonics という)で構成されている。
「和音」つまり「コード」は「楽音」により構成されているが、「和音」の響きは楽譜上の楽音、つまり「基本波」による「うなり」だけでなく「高調波」による「うなり」にも起因していると考えられる。
二つの周波数 f1、f2 による「うなり周波数(beat frequency)」を Δf とすると Δf=|f1-f2| になる。
「うなり( beat )」は、近接する周波数、つまり数Hzの Δf の場合によってのみ発生するものではなく、数10Hzの Δf によっても十分発生し得る。
二つの周波数が共鳴に近いぐらい接近していると、うなりは「ワ〜ウ〜ワ〜ウ〜」と聞こえ(「ビブラート」( vibrato )のイメージ)、二つの周波数が少し離れていると電話の呼び出し音のように「トゥルルルル」(「トレモロ」( tremolo )のイメージ)と聞こえる。
Cを「根音」とする長三和音、つまりコードC を見てみたい。
コードC は C、E、G から構成されるが、それぞれの周波数 fc=261.62Hz 、fe=329.62Hz 、fg=391.98Hz を基本波とすると、それぞれのn次高調波の周波数分布は " Fig. 1 " のとおりとなる。

Fig. 1 コードC
n次高調波の音圧レベルや歪成分は声の質や楽器の種類により変わってくるが、ここでは n次高調波の音圧レベルは次第に減衰していくものとする。
fc、fe、fg の近接した周波数( 「うなり周波数 Δf 」はそれぞれ 68Hz 、62.36Hz )により「うなり」は十分発生するが、C の3次高調波 3fc( 784.86Hz )とG の2次高調波 2fg( 783.96Hz )は Δf = 0.9Hz により共鳴に近いうなりを発生させ、コードに余韻を与えていることが分かる。
ここで再び、" American Tune " <アメリカの歌> の中からコード Aadd9 を取り上げたい。
Aadd9 は、" The Sound Of Silence " <サウンド・オブ・サイレンス> ( Capo.6th )のイントロにも使われており響きの良いコードの一つである。
コード Aadd9 の基本波とそれぞれのn次高調波の周波数分布は " Fig. 2 " のとおりである。

Fig. 2 コードAadd9
Aadd9 は、A 、C# 、E 、B により構成され、基本波はそれぞれ、 fa = 220.0Hz 、fc' = 277.18Hz 、fe = 329.63Hz 、fb = 493.88Hz である。
ここで A と C# 間の「うなり周波数 Δf 」は 57.18Hz 、E と B 間の Δf は 52.45Hz と、「うなり」を発生させるには問題ない近接周波数であるが、E と B 間の Δf は 164.25Hz といささか乖離した周波数となっている。
ところが S&G の「ハーモニー」におけるポールのパート E とアートのパート B を例に挙げると E の3次高調波 3fe( 988.89Hz ) と B の2次高調波 2fb( 987.76Hz ) は Δf が 1.13Hz と共鳴に近いうなりを発生させていることが分かる。
ここから、Aadd9 が余韻のある、つまり残響のあるコードであることが分かる。
コードによる余韻は共鳴に近いうなりによるものだけではない。n次高調波が複雑に絡み付き固有の余韻効果を与えている。
よって、「和音」または「ハーモニー」は音響工学上、「基本波」による「うなり」だけでなく「高調波」による「うなり」にも起因しており、この「高調波」により音の余韻または残響の度合いが左右されると考える。
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