ギリシア教・ギリシア教徒とは


ギリシア教とは、日本では、あまり知られていない信仰ですが、簡単にひとことで言えば「古代ギリシア以来の伝統的多神教で、かのパルテノン神殿をつくった信仰」だと言えます。 それは、キリスト教が生まれるはるか以前の古い時代に、例えば、プラトンやアリストテレス、アレクサンドロス(アレキサンダー)大王などといった古代ギリシアの人々が信仰していた多神教で、 その主神はギリシア神話で有名な「オリュンポスの12神」と呼称される12人の神様たちです。 これらの信仰が成立したのは、いまから約3,000年前(紀元前1,000年頃)と推定され、 その後ホメロスやヘシオドスの時代(紀元前700年頃)になって一定のかたちにまとめられました。

その後「ギリシアの黄金時代」と呼ばれる時代(紀元前400年頃)になると、 アッティカ地方のアテナイ(現在のアテネ)では、法整備・貨幣経済・選挙制度・市民議会・市民参加による裁判などといった、人類史上初にして「最も理想的」と讃えられる民主政が発明・施行され、プラトン、アリストテレスなどの自然哲学や天文学が生まれ、ヒポクラテスなどによって医学の礎が築かれ、ヘロドトスやトゥキディディスなどによって歴史学の方法論などが発明されました。

また、信仰の対象としては、例えば世界文化遺産であるアテネのパルテノン神殿や、有名なミロのビーナス神像(正しくは「メロスのアプロディテ神像」)なども、この時代にこの信仰によって造られたのです。 いっぽう、エリス地方のオリュンピアでは、紀元前776年から西暦393年までの約1,200年間にわたって、4年ごとに古代オリンピック競技が開催されていたことが記録に残っています。古代においては、オリンピック競技はこの信仰の祭典だったのです。

すなわちギリシア教とは、「人類の奇跡」と称される、輝かしい古代ギリシア文明の精神的支柱であり、その精神は現代においても、さまざまな形でその片鱗が継承され、世界中に影響を及ぼし続けている、古代ギリシア以来の伝統的多神教であり、それは、いわば西洋文明の原点、学問・文化・芸術・思想の源泉であるといえます。

古代ギリシアの多神教(ギリシア的発想)の特質である「究極の人間讃歌・人間中心主義(ヘレニズム主義)」は、後の時代に生まれるキリスト教思想の特質である「究極の神への讃歌・神中心主義(ヘブライズム)」とともに、西洋思想・ヨーロッパ精神のニ大潮流を形成し、現代にいたるまで世界中に大きな影響を与え続けています。

しかし歴史的には、古代末期になってギリシアはローマ帝国の支配下に屈しました。そしてその後、西暦380年にローマ帝国はキリスト教を国教と定め、392年にローマ皇帝テオドシウス一世が『異教禁止令』、426年にテオドシウス二世が『異教神殿破壊令』などを出すに至ると、それまで1,500年以上にわたって培われてきた古代ギリシアの伝統的多神教の数多くの神殿や神像など、おびただしい数のかけがえのない貴重な文化的・宗教的・芸術的遺産は徹底的に破壊され、永遠に失われてしまいました。また古代オリンピックも異教の祭典だということで、西暦393年以降その開催が禁止され、近代になって1896年に第1回近代オリンピックが開催されるまでの約1,500年もの間、封印されてしまったのです。

このようにして、公にはこの信仰は「失われた信仰」となり、多くの人達の記憶から消え、単なる物語としてギリシア神話の中でのみ、その片鱗をわずかに伝えられることとなってしまったのです。古代ギリシアの伝統的多神教が育んだ、ギリシア文明の輝かしい思想・文化・精神・伝統の命脈は、世界史・宗教史の「表舞台」からこのようにして完全に姿を消してしまいました。

けれども、民衆レベルでは、この古代ギリシア以来の伝統的多神教は、世界史・宗教史の「舞台裏」で細々と、 しかし連綿と受け継がれ、ようやく1980年代になって、 ギリシアにおける信教の自由(ギリシアは現在でも憲法で国教をキリスト教東方正教会=ギリシア正教と定めている)を求めて、 ギリシア各地でこの伝統的多神教徒によるコミュニティ群が形成されました。これらのコミュニティ群は、 当初は非合法的な活動を強いられていましたが、ギリシアにおける 信教の自由の権利を推進するとともに、古代ギリシア文化の研究を推奨し、 パルテノン神殿など数々の古代遺跡の保存・復原事業にも寄与するなどの実績が認められ、 1990年代にはギリシア政府公認のコミュニティ群へと成長し、なかにはNPO法人化する組織も生まれてきました。

その後1997年に、これら古代ギリシア以来の伝統的多神教徒のコミュニティ群を統合する緩やかな連合体として、 Supreme Council of Ethnikoi Hellenes (ギリシア民族宗教者最高評議会=Y.S.E.E.)が創設され、現在、世界中の信仰者のサポートをおこなうとともに、 それぞれのコミュニティ創設の原点でもある、ギリシアにおける信教と言論の自由の権利の推進、および学術団体等と連携し、古代ギリシア文化の研究、古代遺跡の保存・復原事業などの総括的な文化事業のサポートもおこなっています。そうして現在Y.S.E.E.は、ギリシア政府および欧州連合(EU)の宗教政策部門の諮問機関となっています。

現在では、本場ギリシアのみならず、ヨーロッパやアメリカ各地にも、古代ギリシア以来の伝統的多神教徒(ギリシア教徒)のコミュニティ群が活動しています(日本には、まだ存在していません)。

私達ギリシア教徒は、輝かしい古代ギリシア文明の精神、そしてプラトンやアリストテレス、アレクサンドロス大王などが持っていた信仰の継承者として、現代においても、細々とではありますが、しっかりとその歴史と伝統を守りつづけているのです。

さて、このページの背景の写真は、アテネの古代アゴラ遺跡内にあるヘファイストス神殿です。 これはギリシアでは最も保存状態の良い神殿で(キリスト教徒によって、内部をキリスト教会に改造されて 使用されていたので、破壊を免れました)、パルテノン神殿と同時代の紀元前430年頃に建造されたものです。

私達ギリシア教徒は、いまから2,500年も前に、このような立派な総大理石の建造物を造っていたのです(ちなみにこの時の日本は縄文時代です)。


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